VRMMOで遊んでみた記録

緑窓六角祭

[1] VRMMO

 明香が遠くの大学に行ってなかなか遊べなくなったところ、「それならいっしょにVRMMOやってみようよ」と紅葉が言い出して、私はあんまりそういうのはよくわからなかったけれどもなんだか楽しそうだったので3人でやることになった。

 と言っても私は『あんまりそういうのはよくわからなかった』のでゲーム機のセッティングだとかその他は紅葉に丸投げした。

 だいたい言い出しっぺは紅葉だったわけだし、うちに来た時はお茶とお菓子もだしてあげたんだから文句を言われる筋合いはないと思う。

 でもまあ一応世話になったからゲームの中で助けてあげることにしようとは考えてはいる、機会があれば。


 『けもみみワールドオンライン』、獣人になって世界を旅したり好き勝手に楽しむわりと新しめのVRMMOだ。

 「初心者向けでわかりやすいらしいからこれにしよう」と明香が言ってきた。

 けもみみとかそういうのが好きだったんだ、長い付き合いになるけど知らなかった。


 早速ゲームをはじめてみた。まずは自分の動かすキャラクター作りから。

 種族は犬族を選ぶ。犬が好きだから。

 今は飼ってないけど大人になったら絶対に飼うんだと決めている。

 キャラクターの姿形は基本的に私そのまんま。ただしアニメ調にデフォルメされてるから私だとわかることはないらしい。


 身長その他は多少ぐらいはいじれると言われたけどやめておく。

 そういうのに紅葉は目ざといし気づいたら絶対になんか言ってくる。隙は見せない。

 髪の色だけは明るい青に変えた、せっかくだから。リアルじゃなかなかできないし思い切って。

 職業は双剣使いにする。二本の剣でばっさばっさと敵を斬る。きっとかっこいいはず。


 最後にステータスにボーナスポイント? を割り振れと言われた。難しい。

 適当に力と素早さと器用さに振っておく。多分何かの役に立つんじゃないかと思う。

 その後も長々と説明があったので適当に飛ばした。

 初心者向けって言ってたしだいじょうぶだろうと思って、あと面倒になってきたから。

 こうして私はビースティアの大地に降り立った。


 スタート地点は街の広場。ヨーロッパのどこかを思わせるような石畳が足元に広がる。

 ちらほらと街を行き交う人の頭にはいずれも『けももみ』がついている。もちろん『けもしっぽ』もついている。

 初めてのVRMMO。緊張するけど同時にわくわくする。

 自分の体を見下ろしてみれば軽い革の鎧に腰には2本の短剣がさしてある。

 手をぐーぱーしてみれば確かに動く。なんかすごい、これだけでちょっと感動した。

 小さな声でわんと言ってみたけどそれは別に普通だった。


 待ち合わせしてる2人の姿を探せば1人は簡単に見つかる。

 背の低くてセミロングでなにより不安そうにあたりを見回してる少女、髪を真っ赤に染めてて頭にうさみみが生えてるけど絶対に紅葉に違いない。

 黒のローブに杖を持っているところをみると職業は魔法使いにしたのだろう。

 私は小石をいくつか拾うと物陰に隠れた。からかってやろうとぽんぽんと紅葉に投げてぶつけてやる。

 器用さを上げた効果なのかよく当たる。当たるたびに紅葉があたりを見回すのがおもしろい。


 そんなことをして遊んでいると後ろから「こら」と怒られてひょいと引っ張り上げられた。

 だれかと思えば明香で私は持ち上げられたまま紅葉のところまで連行された。

 先のイタズラが私の仕業とわかった紅葉がぎゃーぎゃー言ってきたが気づかないまぬけが全面的に悪いと思う。私はまったく悪くない。


 明香は熊族で背中に大剣を背負っている。なんだかいつもよりさらに頼もしくみえる。

 考えることはみんな同じで明香も髪を派手に金色に染めていた。ポニーテールも似合う。

 紅葉は『クレハ』、明香は『燈架』とキャラクター名を決めていたのでここからはそう呼ぶことにしよう。

 ちなみに私は『リィナ』にした。まんなかのちっちゃいイがこだわりポイントだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る