凶暴化

 部屋に戻ると二人の姿は無かった。部屋は探すほどの広さは無い。2つのベッドがある部屋と、バスルームくらいの部屋だ。

「出かけたようですね、そこら辺に座ってください」

私の言葉に、同行の3人は無言で頷き、ソファとベッドに腰を下ろした。こうやって見ると、立派な兵士に見えるものの、凶暴性は微塵も感じられなかった。若い2人はなにやら笑いながらジョークを飛ばし、黒人は忙しなく足でリズムを取っていた。みるからに普通の若者なのだ。カウボーイは部屋にいると言ったが、カウボーイに気づかれず出掛けたのだろうか。その答えは直ぐに理解できた。

プシュ、プシュ、と、窓の方から聞こえたと思った瞬間、若者の金髪が真っ赤な血で染まり、黒人の白い歯の間からも鮮血が溢れ出した。

消音銃のようだが、私は動かなかった。動けなかったと言うほうが正解だろう。部屋から入ってきた男たちは、私には目もくれずに、動かなくなった死体をまさぐっていた。やがて4人のうちの一人が私に声をかけた。

「奴らのアジトは?」

どうやらこの兵士たちは反乱分子の制圧に来たようだ。日本人の私には目もくれない理由、いや、もしかしたらカウボーイの手柄かも知れない。兵士の腕には、US・NAVYのワッペンが貼り付けられていたのだ。海軍特殊部隊だろう。

「この先のチャモロ・ビレッジ近くの、バンク・オブ・ハワイだ」

「協力を、感謝する」

そう言って、兵士たちはまたも窓から姿を消したのだ。部屋に残るのは黒人と2人の白人の死体。カウボーイが知っていれば良いが、もし、知らない場合、この状況はどう思われるだろうか。私が殺人犯と思われる可能性がある。

私は死体に触らぬように部屋を出て、1階のフロントに向かった。カウボーイは何の表情も浮かべない。

「二人は出かけたのかな?部屋に居ないんだが」

私は、カウボーイの反応を見るために、何気ない会話で様子を見た。

「あれ?居ませんか?出かけたのかな~」

どうやら、カウボーイは知らないようだ。だとしたらここには居られない。犯人扱いは免れないだろう。こんな状況下でも、殺人者は罪に問われる。それならば良いが、下手をしたら民衆のリンチもありえるのだ。

裁判が無いから仕方が無い。

「そう……。ちょっと、探してくるよ」

私は何気なくホテルを出ようとすると、思い出したようにカウボーイが声をかけた。

「部屋は掃除しておくよ」

そして、片目を瞑った。『やっぱり知っていた。頼りになる男だったのだ』私は声に出さずに、お礼を込めて頷いた。

では、二人はどこに居るのだろうか。時間的には戻ってもいい時間だ。何か情報を掴み動けずに居るのか。

私は、ハーバーに向かい歩き始めた。挨拶するものも何人かは居るが、その目は異様な輝きを放っているように見えた。

凶暴化が始まったのか。私には知る由も無い。思い過ごしかも知れないからだ。ハーバーの入り口には顔見知りがドラム缶の火を眺めていた。

「こんばんわ」

私の声に、男は敏感に反応した。それまでは放心したように炎を眺めているだけだったのだが……。

50も後半だろうか、顔には白髪混じりの髭が長く伸び、顔の半分近くを隠していた。しかし目だけは異様に光っている。

そして行き成り立ち上がると、私に襲い掛かってきた。今まではニコニコと笑うだけの男だったのだが……。

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