人類史


 私達はグアムの元は綺麗であったであろうホテルの一室でこのニュース見たあと、人種の違いに着目していた。発症地域の差は、人種の違いに思えたからだ。

では、『そもそも人種とは』そして『いつ、差が生まれたのか』という事を考えていた。

「なあ、あの地層は、何年くらい前だろう」

スティーブは一瞬怪訝な表情で私を見た。

「あの地層?油田のか?」もちろんサウジアラビアの問題の油田のことだ。

「ああ、いつごろの地層だろう?」私は更に尋ねてみた。

「はっきりとは解らないが、あそこでは300メートルは掘ってる。あの地域で言ったら……。石器時代か或いはもっと前か……」さすがに地質学も勉強したスティーブだ、大体のことは直ぐに答えが返ってくる。

「もし、もしもだよ。古代人に関係があったらどうだろう?」

「ん?関係とは?」

「いや、よく考えると、アジアに住む人種と、白人は元が違うだろう?言い換えれば原人と……」

「ネアンデルタール……か」彼は私の言葉の先を読んだ。よくやることだが、このときは流石に早い反応を見せた。すると、私に制止の合図を送って自分の荷物から2冊の本を取り出した。地質と人類の本だ。敬謙なクリスチャンのスティーブは創世記のアダムとイブも信じているが、進化論も否定はしていない。

人類の祖先は原人だとしても、人間のとしての最初の人物はアダムとイブだと、彼は熱弁を振るっていたことがある。

言い換えれば、初めて二足歩行をしたのがアダムとイブなのかも知れないと。

そして問題のネアンデルタール人だが……。書物の結果、ネアンデルタール人は3万年近く前に絶滅していることが明らかになった。

それは人類の祖と言われるホモ、サピエンスとの類似点は多いとしても、別に枝分かれした種族だったからだ。ということは、今の人類とネアンデルタール人は繋がりが無いことになる。しかし、書物にはこうも書かれている。

ネアンデルタール人の絶滅の原因はよくわかっていないが、クロマニョン人との衝突により絶滅したとする説と、獲物の取り合いより徐々に絶滅へ追いやられたとする説、ホモ・サピエンスと混血し急速にホモ・サピエンスに吸収されてしまったとする説など諸説ある。ということは、クロマニョン人、ホモ・サピエンスと同時期に、同じ場所に居たことになる。

分子生物学が長足の進歩を遂げ、分子系統学が台頭してきた1970~80年代頃には現生人類はアフリカに起源を持ってそこから世界に拡散したものである。『単一起源説』が主流となっている。ネアンデルタール人は55万年から69万年前にホモ・サピエンスの祖先から分岐した別種で、現生人類とのつながりは無いという結果がもたらされた。

しかし、ここで注目したいのは、ホモ・サピエンスに吸収されてしまった絶滅説だ。吸収されたのならば、その特徴を引き継いでも、驚くことではない。それが各地域で同時に起こったらどうだろうか?

北京原人も、アフリカから拡散した種族に、吸収されたとしたら?

単一起源説でも、人種とは違ってくるのではないだろうか。事実、現代人の私たちは、あまりに違いが多すぎるのだ。

そうなると、私とスティーブの人種的違いは見えてくるが、同じような状況で発症しない理由が、言い換えれば何か同じものを持っている必要があるのだ。同じ条件下でも発症しないなにかの共通理由が……。

しかも、分布だけを見てもその範囲は広い。イラク北部からフランス、イギリスにまで分布しているのである。

現在、アフリカの状況は報道されてはいないが、アジア同然に発症の時間差があれば、この時代からの贈り物と考えても、よさそうに思えた。贈り物とはいささか不謹慎かも知れない。人類の半分が死滅しているのだから。

しかし、地球が自らに巣食う病原体、これを人間だと仮定して言えば、巣食う病原体を退治するため、自ら防衛組織を、人間で言えば白血球に当るだろうが、これを噴出したと考えるのも、否定できないように感じたのだ。

しかし今の私たちには、この仮説を立証できる設備も仲間も居ない。日本に帰ることが出来れば、その筋の友人も居るし研究施設も残っているだろう。友人の安否は不明だが、必ず誰かしら取り組んでいるだろうと考えられた。このまま人類が滅亡するとは、どうしても納得はいかなかった。実際に我々二人は感染しているにも関わらず、体力も元に戻り元気でいるのだから……。


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