第4話 『ド』の付くブラック、勇者パーティ
「まったく、動物園でも開くつもりですか?」
「ちょっとしたジョークだって。……でも、どちらか二つの適合者持ちで冒険者。十六歳から三十五歳までの健康な肉体。レベル3以上のスキル持ち。おまけに、薄給でも文句を言わない奴ってか。この資格持ってる奴は、フリーの冒険者の方がよっぽど稼げるぜ」
自分で設定しておきながらなんだけど、俺もシロウさんの言う通りだと思う。
魔王討伐は確かに人類の悲願だが、今まで何人もの勇者パーティが殺されている本当に危険な任務だ。それ故に、最初の頃は多く支給されていた装備品やゴールド(この世界のお金の事)は、国の持ち弾の減少に伴って次第に量と質を減らしていき、俺たち第五十四代目の勇者パーティに限っては、ほとんど手当を受けられていない。
「でも、これくらいは持っていてくれないと、俺たち死んじゃうかもしれないじゃないですか」
「まぁ、それは嫌だよなぁ。しゃーねぇ。気長に待とうぜ」
言って、シロウさんは琥珀色の酒を飲んだ。
「……しかし、改めて考えてみれば、世界救う旅してんのに月給二十万ちょっとってやべぇですよね。俺、なんでこんな旅してるんだろう」
だから、俺たちは冒険者ギルドで日雇いの仕事を受けて、自分たちの戦闘訓練と称して旅の資金を稼いだりもしている。昔は、勇者は病院や公共サービスをタダで使えたようだけど、国民が段々と期待をしなくなったせいで、それもいつの間にか撤廃されてしまっている。
人々はもう、魔物からの被害を地震や台風のようなモノと捉えて、理を諦め不尽を受け入れる事を認めてしまっているのだろう。
「はぁ。嫌になっちゃいますねえ。そう言えば、シロウさんはどうして勇者やってんですか?」
ふと気になって聞いたことだけど、こんなに踏み込んだ話をするのは何気に初めてだ。
「子供も嫁も死んじまったから、他にやることなくてな。まぁ、奉仕活動みてぇなモンだよ」
「……すいません」
「仕方ねえことなんだ、気にすんなよ。ほら、元気出そうぜ。奢るからよ」
そう言って、シロウさんは場の空気を流すように店員を呼びつけ、自分のお替りの『ブラザーフッド』という酒に加えて、『ビア』という炭酸入りのエールを注文した。
酒が届いて、ヘラヘラと笑いながら嬉しそうに口に含むシロウさんを見ていると、何だか辛い事を忘れられるような気がしてきた。だから、俺はビアを一気に飲み干すと、もう一杯を大きな声で注文したのだった。
そんな時だった。俺たちの元に、一人の青年がやって来たのは。
「あの、すいません」
「ん?どうしたよ」
それは、青い髪に少し垂れた丸い目の、どこか気の抜けた表情をした体の細い青年だった。
「そこのポスター見て来たんですけど、まだ、メンバー募集してますか?」
「あぁ、してるぞ。ほら、そこの槍と杖を持ち上げてみ」
言うと、彼は少しのっそりとした動作で同時に二つの宝具を持ち上げて、事も無さげに俺たちの顔を見た。
「おぉ、適合者だ」
「しかも、二つともですよ。こんなことってあるんですね」
「凄いな、お前の名前は?」
訊くと、彼はホーリーロッドを床に戻して、ホーリーランスを両手で持ちながらこう言った。
「アオヤと言います。年齢は18歳、レベル3のスキルは二つ持っています」
「よし、採用。ようこそ、我がパーティへ。歓迎しよう」
「そんな簡単に、いいんですか?」
「もちろんだ」
「マジでか。いや、親に言われて就活始めたんですけど、クッソダルかったんで凄く助かりますよ~」
「いや、ちょっと待ってくださいよ!」
俺は、思わずジョッキをテーブルに叩きつけていた。
「どうした、そんなに大声を出して」
「どうした、じゃないでしょ!?アオヤ君、一つ聞きたいんだけど、キミ冒険者登録したのいつ?」
「さっきです。この面接受ける為に登録してきました」
「へぇ、やるじゃん。偉いぞ、アオヤ」
「えへへ、ありがとうございます」
「待て待て待て!えっ、そんな裏技みたいな方法で勇者パーティ入るつもりだったの?魔王討伐って、普通
「そうなんすか?僕、その辺ちょっとよく分かんないんすよ。まぁ、スキル持ってるしいっかな~と思って」
聞いて、シロウさんは相も変わらずヘラヘラと笑っていた。それどころか、店員を呼びつけて新たにビアを注文している。この人、まさか酒の一杯で若者の一時の感情を捉えて逃さないつもりか?
「お、落ち着いて、アオヤ君。俺たち、今はこんな感じだけど、本気で命がけの勝負してるんだよ。冒険者って、最初は薬草採取とかから始まるんだよ?それとは比べ物にならないくらい危険なんだよ?」
「あっ、その辺大丈夫っすよ。周りの大人とか、アオヤはやれば出来る子って言ってますし」
「なっ……。し、シロウさん、何とか言ってくださいよ。彼、一度も戦闘したことないんですよ?」
「そうは言っても、俺たちだってこの仕事に就いてから初めて戦ったじゃん」
「それは、そうですけど」
心配だ。俺みたいにうだつの上がらない若者ならまだしも、彼のようにまだ自分が何をしたいのかも分からない子がこんなブラック企業に入るだなんて……。
「お前も、まだまだ未来ある若者だろうが」
俺の表情から察したのか、突然シロウさんは俺の頭に弱くげんこつを落とした。
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