腐敗した高校④
次の日、燐火の下駄箱の扉は防波堤の役割を全うしていた。
「あらら~。」
「使えませんね、その室内靴。」
「わぁお、人間って本当にこういうことやるんだ~。いっひひッ、ウケる。」
「いいこと教えてあげる、体育用の室内履きもびっしょり。」
「フフッ、それは愉快。」
「だめだめ、笑ったら負けだよこれ。ククッ、ククク……。」
3妖にとってはこんな目に合うこと自体が絵物語の未経験であったがために、初っ端からおかしくて堪らないのだった。
それにしてもこのまま1日を過ごすわけにもいかず、先に行った2妖に対して燐火は職員室でスリッパを借りて教室に向かった。
すると、弥陀山が突っ伏し方を震わせ、奥では大煙管がひぃひぃ言いながら同じく突っ伏して腹を抱えていた。
首を傾げながら自身の席に近づいた燐火は目を見開いた。
その時待っていたとばかりに彼女たちが近づいてきた。
「あれぇ?落書きだなんていっけないんだ~。」
「ハハッ、本当ざまぁ。」
「可哀そう……ふふふ。」
分かり切った犯人たちの嬉しそうな顔に、燐火は抑えきれずに鼻で吹き出した。
それは側から見れば嘲笑に外ならず、彼女たちは一気に怒りをあらわにして我先に移動教室に入っていった。
「あ~ぁ、これ油性じゃん。」
「ちょ、ほんとタンマ、イ~ッヒヒヒヒ!!」
「あ゛~、やっと顔面崩壊が収まりましたよ。」
弥陀山と大煙管は涙を流しながらケタケタと笑った。
「それにしても、今も昔も弱い者いじめはなくならないものだね。」
「じゃなきゃ、わざわざ俺たちに依頼なんか来ないっしょ。」
「えぇ、その通りです。ここまでテンプレートに物事が進むなら、少し早く準備を進めてもいいかもしれませんね。」
「そうだね……。」
「え~!!せっかくならもう少し遊んであげようよ。」
弥陀山が計画を急かすと、大煙管は口角を上げて異議を申し立てた。
「本当に……マカは無邪気だね。」
「まったく迷惑です。」
「はぁ?予定自体もう少しゆっくり進めるはずなんだから、別にいいじゃん!!」
大煙管がむぅとほほを膨らませたのを見て、弥陀山も燐火もため息をついた。
「どちらにせよ準備はね、シヅカ。」
「えぇ。」
弥陀山は燐火と視線を合わせて目を細め、すぐにスマホを耳に当てた。
「さて、マカもお願いしてもいいかな?」
「おっけぇ~。」
大煙管はクスッと笑ってから手のひらを軽く丸め、手のひらの中に息を吹いた。
その手からはパイプが現れ、大煙管が吸うと先には赤く点火した。
大煙管が窓の外に煙を吐くと、あっという間に時間が流れクラスメイト達が移動教室から帰ってきた。
そこには一番後ろの方で例の3人の女子がキャピキャピと笑い声をあげていた。
燐火がぼんやりと見入るとリーダー格の女子がこちらに気づいてにやにやした顔で近づいてきた。
「あれぇ~?あんたたち、早々に授業さぼったの?」
「……何のことかな?」
「とぼけんなよ!!私らの居るクラスで堂々とサボりなんていい度胸してんじゃん!!」
燐火がとぼけた瞬間、被らせるようにヤンキーぶった女子が詰め寄った。
弥陀山は軽くため息をついて燐火の肩に手を置いた。
「燐火、一度謝罪をしては?」
「やっぱり?……はぁ、わかった。」
燐火は軽く微笑みを浮かべて『ごめんね?』と告げた。
しかし、女子たちは不服なのか眉間にしわを寄せた。
膠着状態になるかと思った瞬間、大煙管が燐火の腕を引いた。
「ミヅキ、こいつらの顔見るの飽きた~。」
「「「ッ?!?!」」」
「そろそろ教室戻ろ~。」
大煙管のその一言は、女子を石像のようにするには容易いものだった。
「フフッ、そうだね、そうしようか。」
「はぁ、やっと動く気になりましたか。本鈴まであと2分と28秒ですよ。」
燐火が踵を返した後ろについていくように弥陀山と大煙管が歩いていくと、後ろから女子たちの奇声が聞こえてくる。
「ククク……この瞬間が堪んないんだよ。」
「悪趣味ですね。」
「本当、大煙管は面白いよね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます