第18話 茂生と未来の話
帰り道、里沙先輩が爆弾発言をしてくださった。
「今日は送り迎えしてくれて有難うございました。で、茂生くんは今日はこれからどうするの?法子ちゃんのおうちにお泊まり?」
「!」
「……は、はい?泊ま……?」
先輩っ!なんてことを!!
茂生は今、運転中なんですよ!じゃなくて……あ、ほら、茂生が黙り込んでしまった……。
「…………法子」
「ひゃ、はい」
先輩、後ろで吹き出さないでくださいっ……。
「僕は法子のアパートにちょっと寄るけど、今日は帰るから……」
「……あ、うん……」
「話したいことがあるんだ。明日は一限からある?」
「明日?はないです……」
なんだろう。さっき沢山おしゃべりしたのに……。
先輩を先に降ろして、茂生は私のアパートへ。
茂生が私の部屋へ入るのは初めてではないけど……なんだか緊張する……。
「何か……飲む?」
さっきはあまりお水も飲まなかったと思う。コーヒーだってそんなに口にしなかった。茂生が注文したショートケーキは私が半分食べちゃったし。
茂生はソファに座って俯いて両手を頭の下で組んで、何か考え事をしているみたいで……。
「茂生……?」
傍へ寄って、何を飲みたいのか聞こうと膝を付いて茂生の顔を覗き込んだ。
「法子……っ」
「えっ、ちょ、っと」
いきなりギュッと抱きしめられた。ううん、ぎゅーっ、と。ムードなんてなんにもない。痛い。ちょっと苦しい。茂生、こんなぎゅー、は嫌だって……痛いって!
「茂、生、痛っ……て」
ギリギリと締め付けられる。茂生の顔が見えないの。私の肩に頭を押さえ付けて、ソファに座ったまま……腕が背中が胸が痛いの!
「やっ、痛いっ……!離し……」
茂生がビクッとして、がばっと私を勢いよく引き剥がした。
「ご、めん法子……」
もう、涙目になってしまった私を、茂生がすまなさそうに見つめている……。
「……ばか」
「……だからごめんて……」
茂生も泣きそうな顔をしている。泣きたいのはこっちなんだから……。
「ねぇ、茂生、何か飲まない?さっきはそんなに飲まなかったでしょう?」
「う……ん。ハーブティー、ある?」
「……種類はそんなに無いし、ティーバッグならあるけど。カモミール?」
「……うん。それが飲みたい……」
「待ってて。すぐお湯を沸かすから」
最近のお気に入りはカモミール、ですもんね。
落ち込んでいるのかな……。茂生が話がある、って言ったんじゃないの。なんで黙ってるのよ……。
「はい、どうぞ。温かい方で良かったのよね?」
茂生はまだ俯いたままだった。
「……あ、有難う……」
ふーふーとマグカップを冷ましながら飲もうとしてまだ熱くて、さらにふーふー始める茂生……やっ、可愛すぎる!
やっぱり考えちゃうな……。茂生がお父さんのあとを継いで社長さんになるなんて……あんまり想像出来ない。うん、向き不向きってあるじゃない?茂生は……優しくておとなしいし、ひとの後ろにいつも居る感じなんだもの。さっきのとは違う意味の包容力もあるけど……。
「……あのさ、法子?」
「うん?」
「……僕はやっぱり頼りないと思われていると思うんだよ。周囲から」
ギクっ、とした。茂生のお父さんが開口一番に言ったセリフだったから。『息子は頼りない』
「……そうかな。私はそうは思わないけど……」
うん、本心だよ。頼ってるところは沢山あるもの。全部が全部、頼れるとは言えないとしても。
「……僕だって、やれる時はやるよ。頼ってもらっても大丈夫な場合が有る。だけどさ……会社となると、従業員の生活がかかって来るじゃないか?家庭とか。一人二人じゃない規模でさ……人生とかが。僕には荷が重過ぎる」
やっと飲める温度になったみたい。茂生が美味しそうにカモミールティーをごくりと飲んだ。
「……そんなの、やってみなくちゃ分からないじゃない……」
茂生が私の方を向いた。
……怒ってるの?悲しんでるの?どっちつかずな表情をしている。去年の春から距離的に離れたせいか、高校生の時とは違った顔を見せるようになった茂生……。
私もそう見えているのかな。茂生……?
マグカップをテーブルの上に置くと、ソファの近くで座っている私の顔をまじまじと見つめる。嫌だな……こんな風に見られるの。
「法子はさ、僕の立場になって考えたことなんかないから……そんなことが言えるんだよ」
溜息を吐きながら、頭を振る。ちょっと、そんなことないわよ!って私、カチンときちゃった。
「……私だって、茂生の気持ちとか環境とか考えたわよ……」
茂生のお父さんに言われたから!って言葉は飲み込んだ。
「だったら、和弥さんや里沙さんに
再びギクッ、とした。茂生、あながち間違ってないわ……茂生のお父さんがそんなお話をしていたもの。
その上、私にまで将来は茂生の右腕となって欲しいから、会社経営に関する基礎的な知識を身につけて貰うことが望ましい、なんて言われちゃってるのよ?そんなことを知ったら、もっともっと茂生が落ち込むわ。ううん、今は怒りに満ちていそう。
私たちはまだそんなお付き合いはしていないのに。今思い返すと、塾デートが主な二人だった。塾に通うことがとっても楽しかった。茂生がいたから。
だから苦手な勉強も頑張れた。去年、私が県外に進学してからは、殆ど会えなくなっちゃって……遠距離とは言わないけど、まさか二年目にして二人の間にこんな形で将来が突きつけられる日が来るなんて。順序が逆じゃない……?
「情けないと思うなら、思い切ってやってみて、やり遂げて、見返してやればいいのよ……悔しいとか思っているなら、それを武器にしちゃうとか」
茂生の逆鱗に触れたかもしれない。けど……私だって茂生に言いたいことは沢山あるの。我慢が出来ないかも……。
「だからそんな簡単に考えられない問題なんだよ!自分だけの問題じゃないって言ってるじゃないか!」
「だからやってみなくちゃ分からないならやってみれば、って言ってるのよ!茂生がそんなだから、お父さんだってあんなこと……っ」
茂生がピクッと動いた。ほんのちょっと……。マズいわ。私ったら余計なことを言ってしまった!?
茂生がソファに手を置いて「ここに座って」と言った。
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