第15話 勝負下着を買うべきか

 「里沙先輩……まさか私の勝負下着アレですかっ!」

 「当たり前でしょ。あたしのを買ってどうするの。その分じゃ、法子ちゃんは用意してないでしょうからね。ほら早くしないと茂生くんが怪しむじゃないの」

 先輩はそう言うと、私の胸の辺りを凝視した。

 「怪しむ、って……それは……持ってなくはないと言うか、違うと言うか……」

 勝負下着、と定義して買ったことはないけど……お気に入りならばある。

 「ねえ、サイズは?秘密は守るから教えて……って、持ってるの?」

 先輩ぃ……声が大きいですぅ……。

 私はブラとショーツのセットのコーナーを眺めていた先輩に近付いた。

 出来るだけ小さな声で聞いてみる。

 「先輩……は、どんなものを用意されたのですか?自分のお気に入りではダメなんですか……?」

 先輩は選ぼうとしていた手を止めて、小声で囁き返して下さった。

 「あたし?友達の失敗談を参考にして選んだの。安すぎず高すぎず清純派でもエロ派でもなく、でもちょっとは和弥くんの好みも入ってるやつね」

 「……なんですか、そのハードルの高さは……」

 先輩はコーナーから離れて、大人の色気と言うかエロスたっぷりの商品が並んだ方に向かうと、私をチラリと見て、おいでと手招きした。

 「こんな感じのレースまみれの透けているやつで赤や黒が好みの彼氏がいる友達がいたのね。面積がこぉんな狭いやつ。高いわよね、勿論。その子がズバリ好み的中のものを勝負下着にしたんだって」

 「度胸ありますね……」

 私じゃ絶対無理。買うのも無理。恥ずかしい。今にも店員さんがこちらへ来ちゃいそうで……早く離れたい。

 「でもね、いざ、って時に彼氏がそれを見て、『うわ、なんだよそれ』って退いてしまったそうなの。好みど真ん中だったのに、よ?」

 「……えっ?」

 ……好みの下着だったのに……?

 「あまりにもどストライク過ぎて、何でもお見通しみたいで怖かったらしいの」

 先輩がすっごい笑顔になってランジェリーを手に取ろうとして、やめた。

 「……どストライク……」

 「そうなの。だから好みパーフェクトでもダメらしいからね。難しいと言うね」

 「何かお探しでしょうか?」

 「えっ!」

 いきなり背後から声をかけられた。ほらぁ、店員さんが来ちゃったじゃないですかあ……先輩!

 「あ、はい。友達のプレゼントにと思ってたんですけど、肝腎のサイズを忘れてしまったんです。だからテイスト選びに参考にさせて頂いてます」

 ニコッ、を忘れずにハッキリしっか

りお答えする先輩……。凄い……。

 「そうなのですか。お若いかたでしょうか?」

 ……店員さんも凄い……。

 先輩は再びチラリと私を見る。え、何か?

 「そうですね。若いです。まだこんなアダルトなものはまだ早いかな、なんて」

 ……いやっ、年齢が上がっても多分無理ですって!

 店員さんと先輩がにこやかに会話を弾ませている。

 「普段はどのようなものを着用されてらっしゃるか、お分かりになりますか?」

 「そうですね……可愛い系の、 パステルカラー系が殆どだと思います。じっくり見た事はないのですが」

 いえっ!そんなにハッキリ断言出来るほどじっくりご覧になってますよぅ……っ!

 なんだか頬が熱くなって来ちゃった。先輩はいつどこで私の下着をご覧になったのかな……?可愛い系だったの?

 まあ、もしかしたら、ティーン向けかな、とは感じたことも無きにしもあらず、だけれど……。可愛いくて、つい。

 「だいたいのサイズがお分かりになっても、デザインによってはフィット感に個人差も有りますし、ダイエット等でサイズが微妙に変化されてらっしゃるケースもございます。なるべくご本人様がご来店なさった上で、正確な計測の元にご購入された方が宜しいかと……」

 先輩、こっちを見ないで下さいよぅ。

 「そうですね。やっぱり本人の今のサイズが明確にならないと、ですね」

 「はい。こればかりは微妙な変化がフィット感に影響を与えますから。ご購入の度にお調べすることが理想です。ご満足頂けるショッピングへの近道ですし」

 「そうなんですね。じゃあ、やっぱり本人を連れて来た方が最良ですね」

 「さようでございます。もし、サプライズとしてご希望でしたら、プレゼント当日にお連れ頂いて、とかに変更なさるとか、でしょうか」

 ……うーん……先輩も店員さんもなんだか凄いと思うわ……先輩も当人わたしを目の前にして、そんなスラスラと嘘みたいな言葉を口に出せますね……。しかも笑顔で……。

 「だ、そうだから、次回連れて来ましょうか?」 

 「えっ?あ、はい……?」

 先輩、私はちょっとこんなアドリブみたいなことは無理ですよぅ~!

 先輩は思い出したように「あ、彼が待ってるんだった、急がなきゃ」

 と、急いで店を出る振りをして店員さんをナチュラルに遠ざけた。

 遠ざけたところでコソッと耳打ちをされる。

 「ねえ、お気に入りは持ってるのね。替えの分も必要なんだけど、有るの?脱いだものをもう一度身につけたくはないでしょ?お泊まりなら尚更よ。シャワーだって何回も浴び、ま、まあ、これは個人差があるけどね」

 「……あ……」

 そんなところまで考えてなかった……。そうよね、お泊まり!

 って!!なんだか生々しいわ!

 「じゃあ取り敢えず、こっちのリーズナブルなセットを購入しておきましょうか?サイズの確認する?試着する?」

 さっきのセクシーでアダルトなランジェリーよりは幾らかおとなしめだけど、それでも私には敷居が高い。ハードルも高い……。

  試着はあまりしたことが無い私なので、サイズが同じなら大丈夫かなぁ……うーん……それならば、その隣の方が無難かしら……。

 「あ、の、それなら私はこっちの方がいいかな、と……」

 と、先輩に選んで見せると、ニヤリと笑って頷いた。

 「うん、法子ちゃんらしい。それにする?」

 ……まあ、このくらいの値段ならば清水の舞台から飛び降りるまでにはならないし、気負わないし、いいかなぁ?

 「はい。買ってきます」

 「うん、待ってるね」

 私は店員さんがいるレジの近くへと急いだ。


 ……これ、買う必要あった?

お金を払いながら、ふと我に返ってしまった私だった。

 なんだかまんまと先輩に乗せられたような気がするのは気のせい……?


 私達は急いで茂生の元へ向かった。

 

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