第14話 久しぶりの会話

 茂生は案外早く先輩のアパートに着いた。地図に弱い茂生が、よく迷わなかったな、と思ったら、顔に出ていたのかしら?


 「カーナビを住所設定にしたから迷わなかった」

 と、少しはにかみながら恥ずかしそうに言った。

 いやっ、茂生のこんな顔見るの久しぶりだわ!


 玄関先でちょっと見つめ合ってしまい、後ろで里沙先輩に

「あ、のー、そろそろよろしいでしょうか?」

 なんて言われちゃった。私も恥ずかしかった。


 だって直に会うの、どれくらいぶり?電話とメールでやり取りしているけど……お互い講義やらバイトやらサークル活動やらで、近距離恋愛とはいえ、これって、すれ違いの危機かも?なんて不安になり始めていたところだった。


 茂生は慣れた手つきで運転していた。

 私が初めて乗せてもらった時とは大違い。当たり前よね。あれから数か月以上経っているもの。


 「……何?」

 ジロジロ見てしまった私を横目で見て、茂生が言った。

 「なんでもない。前、見て」 

 「見てるよ。法子がずっとこっち見てるからさ、何だよ」

 「だから、なんでもないの。あ、違うかな?茂生、運転が上手になったから、びっくりしちゃった」

 茂生がぷっ、て吹いた。う~ん!この茂生も久しぶりだわ!

 車の中には余分な物が置いてない。ぬいぐるみでも置けばいいのに。前と変わってない。まあ、それも数か月しか経ってないから……当たり前かしら。

 「そりゃほぼ毎日運転していればね。免許取り立ての頃よりはマシになるよ」

 「それは、そうだけど……」


何気なくバックミラーを見たら、後部座席にいる先輩がニヤニヤしてる!

 先輩、静かだと思ってたら!もう!


 ……しばしの沈黙が車内に漂っていた。

 「あら、どうしたの? あたしの事は空気か置物とでも思っててよ。会うの久しぶりなんでしょう?はい、続けて続けて」


 そんな存在感たっぷりな置物なんてありません!こんな事空気は言いません!私は言葉が出なかった。

 すると、茂生が珍しく、ズバッと先輩に話を振った。えっ?て先輩よりも私の方がドキッとしたわ!


 「里沙さんは、大学を卒業したら、すぐに本橋へ嫁ぐんですか?」

 

 どうしたの茂生? 以前の茂生だったら、従兄弟の婚約者さんとはいえ、今日が初対面のかたにそんないきなり核心をつく様な話し方をしなかったはずよ……。どうなってるの?

 「え。あたし? ううん。あ、そうなるかな?」

 「先輩?」

 どっちなのかしら?


 「結婚式は未定だけど、籍は直ぐ入れる方向で話が決まってるの。でね、あたしが本橋の家に入る前に……もしかして、茂生君、何か聞いた?」

 あ!茂生のおうちの会社!そうだわ!先輩がそこへ入社予定だって……。

 茂生が口を開こうとしたら、ショッピングモールへの入り口の交差点が見えて来た。

 私たちは、中でゆっくり話す事にした。


 「あ、茂生君、ちょっと入り口近くで待っててくれる?直ぐ済むから。あたしたち、女の子の買い物があるの」

 「先輩……?」

 さっきはそんなこと、ひと言も話していませんでしたよね?

 「……あるでしょう、法子ちゃん。さ、こっちだから。行きましょ!」

 不思議そうな顔の茂生を残しても先輩が私の腕を掴んで歩き出した。


 「? 先輩?そっちは……?」

 「法子ちゃんのサイズが分からないから、ご本人がいないとね。お話にならないから。さ、早く選びましょう。茂生君を待たせたら悪いわ」


 「えっ?先輩?ちょっと、せ……」

 「何も今日使いなさいとは言わないからね」 

 えっ?何?

 ……先輩は、ランジェリーショップにすたすたと入って行く。私は最初、意味が分からなかった。



 先輩!勝負下着ですか!!

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