第12話 里沙先輩と私たち

 「頭いたい……」


 レポートもたまってるし、バイトあるし、サークル活動の下準備だってしなきゃ。学祭の準備だってもうそろそろでしょ、みっちさっちは合コンてうるさいでしょ、卒論の候補だって今から探さなくちゃ!


 「ところで法子ちゃん、茂生くんとはどうなってるの?」


 ……う。核心を突かれてしまった……最近はまともにデートもしてないですぅ……。


 そんな顔をしてしまったのかしら?先輩は、気の毒そうな表情を浮かべて私を……え……先輩?笑ってません?


 それにしても、殺風景なお部屋だなあ。生活必需品はこれです、って感じの……あれ?キッチンがここから良く見える。食器棚兼ストック棚になっているの?先輩?普通カップ麺は並べて飾らないと……うわ、夫婦茶碗ぽいの発見しちゃった!


 ……そうよね……先輩は婚約されてるんですものね……当然、お泊まりはあるわよね……って!何考えてるのよう!私!

 「茂生くんは実家暮らしなんでしょう?和弥くんがそう言ってた。県内の大学に進んだのね」

 「はい……何とか公立に行きたい、って初めから言ってたんです。志望校も決まっていて。……でも、途中で進路を変更せざるを得なくなっちゃって。本当だったら、こっちの近くに来ていたのに……」


 「あー、そっか、弟くんね」

 「そう!そうなんですよ!」

 あの、オカマ宣言した葵くん!!

 ……がなければ、今頃は茂生もこっちの大学に通ってて、毎週の様にデート出来たかもしれないのになあ……はあ。

 「そっか、じゃあ距離的に気軽にちょこっとデートは無理ね。遠距離でもないのにね……法子ちゃん、可哀想」

 「先輩……」

 ああ……今までこっちの友達にも話せなかった、茂生の話。理解してくれる人がいるって、なんて幸せなんだろう!それも里沙先輩に!!

 「もう茂生の耳にも話が届いているのかな……」


 里沙先輩は、うーん!と伸びをして、クッキーをつまんで口に入れると、思い出す様に顎に手を当てた。


 「和弥くんと私の杉崎への就職は、確実に届いてると思うけど……おじさんが法子ちゃんに会いに大学まで乗り込んで来たとかダブルスクールの件や就職云々はどうかしら?茂生くんは法子ちゃんになんか話した?」

 

 「それが……最近まともに電話もしていないんです。メールもお互いに必要な部分しか書いてないし……」


 肝心な話題に触れたくても、怖くて話をそっちには持って行けなくて。もしかして、茂生は全部知ってる……?それとも、何にも知らない……?

 

 その時だった。携帯の着信音が鳴り響いた。あっ!マナーモードにしてなかった!


 「え……茂生!?」

 「早く出なさいよ。切れちゃうから、ほら」


 ……う。なんで今!


 私は留守電にしておかなかったのを悔やんだ。


 「はい……茂生?どうしたの?」


 『法子、今どこ?もう講義終わった?』


 えっ?今……?

 「う、ん。今……講義終わってる。けど……茂生は?」

 『僕はさ、今法子のアパートに向かってるんだ』


 「え、ちょ、ちょっと待ってよ!!講義は?バイトは!ちょっと、そっちに?って!今どこなの!」

 『あれ、突然来たから怒ってる?』


 ちが、違うわよ!!

 「……怒ってるんじゃないけど……茂生は今どこにいるの?」


 「……ちょっと待って。車停めるからね」


 運転中か!茂生のバカちん!!


 茂生を待とうと思って姿勢を正したら、目の前の先輩が何やらニヤリと微笑んでいた……。



 「法子ちゃん、電話、代わって?」

 




 

 


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