第11話 里沙先輩の就職

 なんだかキツネにつままれた感じだった。どうして先輩が茂生のおうちの会社へ就職しなくちゃならないの……?


 「ほら、この前に話したでしょう。本橋……和弥くんの家ね、そこに入るまで、違う会社に数年勤めて来て、と言われているのを」


 「あ……はい、確か、従業員サイドを経験するようにとか?」

 「そう。だから就活もそれなりでいいから、って。あちらで探してくれるのかな、と思ってたんだけど……」


 先輩は苦笑いして、人差し指を立てた。

 「そこへ茂生くんの彼女がご登場、でしょう?」

 「へっ?私、ですか?」


 なぜ私に関係が??


 「そうでしょ?あたしたち、同じ高校出身で同じ大学がっこうだし、サークル活動も一緒でしょ?そのことが杉崎さん……茂生くんのお父さんにまで行っちゃったみたいでぇ……って和弥くんが法子ちゃんにごめんなさい、ってご伝言です!」

 先輩は両手を合わせて頭を下げられた。


 ……人間て……処理が追いつかない情報を浴びせられると、頭の中が真っ白になるものなのね。


 「法子ちゃん? 聞いてる?」

 「……あっ、はい……聞いてますけど、ええと。この間、茂生のお父さんが私に会いに来た事を先輩が和弥さんに話したら……、和弥さんのお父さんがそれを聞いてしまって?それで何で先輩の就職に?ええと……?」


 私の頭が混乱しちゃった。

先輩が苦笑いしてる。だって。いきなり話が降って湧いたように来るから!


 「だからね、和弥くんのお父さんが、茂生くんのお父さんにそれを話しちゃって、じゃあ丁度良いから、茂生くんのサポートにみんなで杉崎に来てもらえば茂生くんも何とかやる気を起こすだろう、だって……」


 ……ん?

 「えっ?先輩、今、なんて?」

 なんか聞き逃しちゃいけない言葉がなかった?


 「だから、あたしたちみんなで杉崎に行って茂生くんのサポートを」

 「ちょ、ちょっと待って下さい!それ、それって誰の差し金、いえっ、どなたのご意見なんですか!」

 「和弥くんと茂生くんのお父さんたち?」


 先輩が悪びれもせずにしれっと言ってくださる……先輩、おかしいと思わないんですか……!


 「あ、の……、先輩?先輩が茂生のお父さんの会社に就職するのはわかります。……で、みんなで、とは?」

 「決まってるじゃない。和弥くんと法子ちゃんでしょう?」



 ……茂生!茂生んちの親戚ってみんなおかしいの!?


 「先輩?……私、まだ茂生のうちの会社に就職とか……茂生と結婚するとか以前に、まだ本人からプロポーズさえしてもらってないんですけど……」


 先輩、満面の笑みで、って言うよりにんまり笑っているのはどうして……!

 「ん~、もしかしたら、茂生くんからプロポーズが来るかもしれないと思って色々準備しておけば?おじさんにも言われたんでしょう?プライベートでも会社でも茂生くんの右腕になって欲しい、って」

 「それは……言われましたけど……でも、私たち、まだそんな関係じゃないし……」



 てか、まともにデートも出来てないんですけど!電話とメールばっかりで!


 「向こうがそう言ってるんだから、逆に素直にそうさせてもらえば?ダブルスクールの費用とか出してくれるとか話してなかったっけ?」


 「そんな簡単に……割り切れませんよぅ」


 里沙先輩のひと言は、とても衝撃的だった。


 「向こうがその気なら、こっちにだって考えがあるんだから!くらいなパワーで立ち向かわないと、あの本橋と杉崎のおうちには馴染めないみたいよ?予行演習だと思ったら?あたしも同じよ?」



 ……先輩のとこは婚約中じゃないですか!

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