第10話 渦の中心は誰?

 里沙先輩のお部屋にお邪魔出来るなんて、こんなラッキーな事は無いわ!

 茂生が先輩の婚約者さんと従兄弟だったから、の奇縁なのよね? 茂生、有難う!!……先輩のアパートは、大学からそんなに遠くなかった。10分もかからないんじゃないかしら……え? ここぉ……? 


 そこは、築何十年? とか訝しく思ってしまう程の風情があり過ぎる建物だった。 先輩に相応しくないわ!

先輩には、もっとこう……お洒落で綺麗なスタイルの……ここって、季節労働者が集団で借り上げたアパートみたいよ……。私の家の近くにあるもの。一定の時期だけ賑わうアパート。


 先輩はスタスタと歩いて、タッタッと隙間から下がみえる階段を上って行く。カンカンカン、って階段の音が響く。二階建ての木造アパート。先輩、ここって男子専用じゃあないんですかぁ……。


 先輩がドアを開けて、部屋へ入る。えっ……ホントですかぁ……?


 

 「はい、どうぞ法子ちゃん入って。ちょっと散らかっているけど。あら? どうしたの? 」


 玄関先で立ち尽くしてしまった私を、先輩が不思議そうに見ている。


だってまさか里沙先輩のアパートが……こんな殺風景な(殺風景過ぎるわ! 何も無いじゃない!)造りで,その上……なんだかサッパリし過ぎな玄関よ? 出されたスリッパも、機能優先しましたみたいな。先輩はモノトーンがお好きなのかしら……?


 「法子ちゃん? 遠慮しないで入って、って違うか。びっくりした? 」


 「あ、いえ……お邪魔します……」


 「やっぱり法子ちゃんも驚くのね。そうなの。ここに来た人、殆どみんな驚くの。なんでかなあ」


 それは……玄関先から既に醸し出されている、生活感の無さ、でしょうか? 女子大生のお部屋とは思えないの。まるで男性が住んでいるみたい。私は弟以外の男の人のお部屋に入った事が無いから分からないけど……あまりにもサッパリし過ぎてる。アクセントとか、飾り付けとか、お花とか、ぬいぐるみとか……婚約者さんの写真とか、は?


 先輩、もしかして、こちらには寝る為だけにお帰りになっているとか?


 「これから引っ越しでもするのか、って良く聞かれるのよね。違うからね。いつもこんな感じなんだから」


 殺風景過ぎるお部屋には、TVとテーブルと座椅子がひとつ。対面に座布団ひとつ。ベッドは他の部屋みたい。


 散らかっている、というよりは、手に届く範囲に物が置いてある感じ……収納先がない感じ?殺風景なのに物が置いてあるの。


 先輩は、コーヒーを淹れて下さった。私の差し入れのクッキーも一緒に。

 「ごめんなさい。今お菓子が切れちゃってて。法子ちゃんに頂いたのを早速頂戴しますね。あのね、もうそれどこじゃかったの……」


 「なにかあったんですか?」


 先輩は、私の顔をじっと見るなり、いきなり手を合わせた。

 「ごめんなさい!和弥くんに法子ちゃんと彼氏くん……茂生くんの事を話しちゃったの! 」


 「え?だって、ダブルデートをするとお話されてましたから、それは当然の事では……?」


 先輩の婚約者さんと茂生が従兄弟なんだもの。私だって、茂生に話したら、すっごく驚いてたし。


 「違うの……この間の法子ちゃんに和弥くんのおじさん、あ、茂生くんのお父さんね、が、会いに来た話をしちゃったの……てか、追及されて、つい、ね。本当にごめんなさい!」


 「あ……、そっちですか……」

 「茂生くんにはまだ話していないんでしょう? 一応和弥くんには口止めしておいたけど……話がもっと妙な方向に行っちゃったんだ。これじゃ茂生くんの耳にすぐ届いちゃうかも!」


 「え?妙な方向?」

 

 先輩と私は沈黙した。二人とも冷め始めたコーヒーを飲んで、クッキーを無言で食べ始めた。



 妙な方向って何だろう。聞くのが怖い。


 先輩がひとつ深いため息をついた。深呼吸みたい。


 「……あのね、その話が和弥くんのお父さんまで行っちゃったらしくて……和弥くんが家に居るときに私が電話したから、聞こえたらしくてね……」


 「え……それが茂生に行くとは限らないと思いますけど……」


 「違うの。私に茂生くんちの会社に就職してくれないか、って和弥くんのお父さんに言われちゃったの!」



 えっ?えっ?

 「えええっ?先輩が、茂生のお父さんの会社に!就職っ!?」



 えっ?どういう事? 婚約者さんのおうちも会社経営しているのでしょう? 確かご長男だって……先輩は未来の社長夫人ではないの?

 婚約者さんの従兄弟の会社に就職するの? どうして?



なんだか暗黒な渦の中に巻き込まれて、渦のど真ん中に来ちゃったみたい……私たち……?

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