第8話 先輩が巻き込まれそうな渦の中

 「……それで? 法子ちゃんは、なんてお返事したの?」


 「……私はまだ息子さんからプロポーズも受けておりませんので、申し訳ありませんが、何ともお答え出来ません、って言いました。そうしたら、何か有ったら名刺の裏の電話番号にかけて下さい、って」

 私は名刺を裏返して見せた。


 「そうよね! そっちが先よね!法子ちゃん良く言った! やっぱりあの一家一族は似てるわ~。……まあ、ご自分達が大変な思いをしたからだとは想像つくけども……あたし達に押し付けないで欲しいな」

 先輩はグラスに残ったお水を(というか融けた氷ですよ)飲み干した。喉渇きますよね。さっきのおでんがしょっぱかったかしら?


 ……大変な、思い?


 「何かあったのですか? 」

 別に、私は、茂生のお父さんのご実家には、全然関係ないけど、先輩は関係有るかもだけど、駄目よ、他人の家庭内事情に首を突っ込んじゃ。


 ……ああ、でも、何となく昼ドラの香りがするの……。


 「なんかね、和弥君のお父さん達が結婚した頃は会社やおうちで色々あったらしいのよね。詳しくは知らないけど」

 「色々……」

 「しかも、和弥君のお母さんがまだ二十歳はたちそこそこだったから、苦労されたみたいなの。だから、息子の代ではそうならない様に、前もって準備させておきたいんじゃないかな」


 「え。今の私の歳ですね……勇気ある……」

 「うーん……あたしが聞いた話ではね。その前に和弥君のお祖母さんにあたる人が亡くなってしまって、お母さんは本橋を助けようとして早めに結婚したみたいなのよね……その時は男四人で苦労したらしくて」



 ……男の人四人の家へ二十歳そこそこのお嫁さん……? うわ……私だったら耐えられそうもないわ……。


 「そんなの、私だったら無理ですね……」

 「ね。あたしも無理そう。だからかな? お母さんは、結婚に関して神経質じゃなくて、とてもおおらかと言うかラフと言うか……どうぞご自由に、て感じなの。あたしは会社経営している家にはどう考えても家とか不釣り合いだと思うんだけどな。反対されなかったもん。不思議でしょう? 」


 「えっ?先輩のご実家は大富豪じゃないんですか?」


 先輩の目が点点……?


 「は? どこ見たらそう思えるの? おじょー様が安売り大型店の服着てると思う? ちょっと法子ちゃん、今日はショック受けておかしくなっちゃった?」


 「ええ……ですがぁ、先輩が婚約とかされているから……てっきり……」


 「そこは……だから、早めに和弥君のプライベートな右腕を決めておいて、会社経営の為のお勉強に専念させたいんじゃないのかな?そんな感じを受けたのよね。婚約する前に」


 ……あ、それもあるのね……。お仕事に専念させたいってあの人も言ってたわ。


 「そうですよね……あの人も、やっぱり早めに身を固めて欲しそうな事を話されていました……まだ茂生は19なのに可哀想です」

 茂生は本当は会社を継ぐのが嫌なのに……本当、可哀想。


 「ねえ、法子ちゃん」

 「……はい? 」

 「おじさんが法子ちゃんにそのお話を持って来たと言う事はあ、アレよ。茂生君のお嫁さんになってもOKって認められたワケでしょう? 」



…………は?


 「ねえねえ、もし、茂生君がプロポーズしてきたら、どうするの? 」



 …………はぃ? ……え?


 「おーい。法子ちゃ~ん? 」



 ……ねぇ、どうして……みんな茂生当事者抜きで話をするんですかぁ……。


 「……私たち……まだ、そんなんじゃ……」

 先輩には私の言葉が耳に届かなかったのかしら。


 「ねえ、今度四人でダブルデートしてみない? 」


 なんて、すっごい満面の笑みで……。

 私は先輩だけと、茂生だけと、別々だったらデートしてみたい……あ、でもでも、茂生の従兄弟にあたる先輩の婚約者さんにもお会いしてみたい……!


 「先輩……っ!私もしてみたいですっ! 」


あ、言っちゃった……。


 先輩は、バッグからスケジュール手帳を取り出した。


 素早い!!



 残念な事に、それぞれのバイトを含むスケジュールが合わなくて、ダブルデートはすぐには叶なかった。


 婚約者さんもバイトをなさっているの?社長の息子なのに? 


 あ、そう言えば、茂生もコンビニでアルバイトを始めたって言ってたわ。

……がよ?


 見てみたい!!




 その日の夜は興奮してなかなか眠れなかった。昼間の鬼の様なメールもレスするのを忘れて、翌日また鬼の様に沢山メールを貰った。電話してよ!


 茂生からは何にも来なかった。私も連絡しなかった。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る