第7話 里沙先輩と同じ?
先輩は、とても満足そうにケーキをごくん、と飲み込むと、私に向かって険しいお顔になった。今のとろける様な幸せそうな先輩はどこに……一瞬で豹変。怖いですよぉ……。
「ね、和弥君のおじさんが言った事、当ててみましょうか」
「はぃ? はぁ……」
先輩は自信満々に紅茶を飲み干した。……早っ。
「あたしも和弥君のご両親から言われたのよね……。お付き合いしてしばらく経ってからだけど」
……何を? 言葉にならない私の疑問は今日半日で刺激が有りすぎちゃって、頭が付いていけないせい。
「実はね、和弥君の実家も小さな会社をやってるの。お父さんと、その人の弟さんと一緒にね 」
「えっ? 婚約者さんのおうちも! 」
「そうなの。しかもお父さんが社長でしょ、和弥君は長男でしょ、妹さんが一人いるの。和弥君のお父さんは三人兄弟で、直ぐ下の弟さんが法子ちゃんの彼氏君……ええと、杉崎、なんだっけ?」
「茂生です」
「その茂生君のお父さんでしょ、その下の弟さんが副社長をしているの。一人娘がいるんだけど、会社を継ぐのには和弥君が期待されてて……」
「同じです! 茂生と一緒です! 」
ああ~! これが親近感ってものなのね!里沙先輩と一緒!
私はさっきの写真を良く見せて貰った。
「茂生と、二つ下の弟と、七つ下の妹だそうです。茂生はずっと、この弟君に会社を継いで貰おうと思っていたらしかったんですけど……ちょっと都合が悪くなったらしくて。何だか茂生の家に問題が起きちゃって」
理由が理由だけに、茂生が気の毒で。
「あー……なるほどね」
先輩のお顔が曇った。
「先輩、ご存じなんですね! 」
「あー……うん。ちょっと前に和弥君が『従兄弟がオ、カマ、になったらしい』って……そっか。法子ちゃんの彼氏さんの弟さんの事だったんだ……」
……そうなのだ。茂生が去年から妙に暗いな、沈んでるな、おかしいな……受験生だからかな? と思ってたら急に志望学科を変えちゃうし。どうしたのかと聞いたら『弟が戦線離脱した』って言うだけだし。
なんかもっと変だな、と思ってたら『弟が妹として見て欲しい』って家族に言った!って……。
「そうなんです。だから、茂生も進路変更せざるを得なかったんです。経済や経営の分野に……」
その時だって『商店』だって言ってたんだから……茂生のバカちん!
「じゃあ、やっぱりあたしと似たような事を言われたかもね……。『将来は会社や家庭内で息子の右腕となってくれ』だって。こんな内容の事を言われたんじゃない?」
「おっ、同じです!全く同じです!」
……あ、ここがカフェのほぼ真ん中だって忘れていた……皆こっち見てる……。
「……法子ちゃんて、大人しい子かと思ってたら……夢中になると、周りが見えなくなっちゃう元気な子だったのね?」
「え……大人しい? あ。よく言われます。口を開かなければ物静かに見える、って……先輩ぁい……」
ちょっとショック……。
先輩は私のショックなどお構いなしに続けた。
「それはね、ご両親に結婚の意思を伝えた時にすかさずそう言われたの。それからびっくりしたのは……あたしには、本橋の家に入る前にどこか別の会社へ就職して、数年間は会社経営の為の下地を勉強して欲しいって。社長夫人の為の勉強じゃなくて、従業員の為の勉強をしてきて、だって」
「ええええ……何ですか、それは……。ややこしい。私の話はちょっと違ってて、茂生の右腕になれる様に、ダブルスクールでもいいから、費用は負担するから経営に関連する勉強をしてきて欲しいって。就活が早まって来年からじゃないですか。だから、その前に話がしたかった、って!」
「ダブルスクール?費用持つ? うわ、凄いわね……勉強させてどうするのよ……」
「結婚前に杉崎に入社してくれって。次の年に茂生が入社するから、陰でサポートして欲しい、だそうです……」
先輩が複雑そうなお顔をしている。
……そうですよね……まだ茂生からプロポーズもされていないのにおかしい話ですよね……!!
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