第6話 信じたくない話をしましょう。
「先輩、茂生の家は会社を経営していたんですね……」
さっき頂いた名刺をもう一度確認しようと良く見たら……『杉崎商事(株)北関東支社』の社長……って!
「あ、うん。そうだよね。嘘をつかれてた、って、その事? あっ……商店ね、そっか。そっちか 」
……先輩? なんで赤面しているんですか?
「先輩? ……普通は付き合い始めてから少しずつ自分の事を話しだすと思うんですけど……茂生は殆ど話してくれなくて。別に私は根掘り葉掘り聞き出したいとは思わなかったんです。……実家は『商店』をしているから、茂生の家には遊びに行けない、って言われても、そんなものかな、って思ったし……」
「それが嘘だったと言う事なのね……弟さんや妹さんにはいつ会ったの?」
先輩は、ケーキをペロッと平らげてしまった。……さっきおでんを食べましたよね? 確かその前はお昼に定食を食べられたのですよね……?
「あ……日曜日のデートで、デパートでバッタリ、がありました。向こうもこっちもびっくりしちゃって突撃自己紹介タイムになって……」
「あれ? 杉崎さんちはT 市じゃなかった? 法子ちゃんは私と同じM 市よね? ……塾が同じって言ったわよね……?」
「はい。茂生と私はM駅に近い塾に通っていました。茂生はこっちに来たかったって。ちょっと知らない場所に行ってみたかったそうです」
「まあ、あそこは駅周辺に幾つか有るものね。T駅に比べたら静かな方かな。あっちは駅の中も外も目まぐるしく変わっちゃうし」
「……そうですね。だいたい茂生が塾に来た時くらいしかデートらしいデートは出来ませんでしたけど……」
……茂生とあの小さな公園に行きたいなあ……あの、ちょっと暗くて人が滅多にいない静かな公園に。
……あら。どうしてかな。ケーキがまた食べたくなっちゃった……頭使いすぎたかしら?
「ええ~?法子ちゃん達って、塾デートしてたの? 勉強しに行ってたんじゃないの? 」
先輩、ニヤニヤしないで下さいっ……!
「やっ、勉強は真面目にしてましたよ。息抜きが必要じゃないですか! それが、塾の前後にあったと言う……ことで」
「冗談よ。フフ。法子ちゃん達は真面目な高校生だったんだね」
……え? だって塾ですから。勉強するわよね……どちらかと言うと茂生に会いたくて勉強していた様な気が……やだぁ。私、動機不純だった?
「……はぁ~。あの頃は良かったなぁ……」
「こらこら。あなたはまだ成人式前でしょ、若者が何言ってるの。そんなオバサンみたいに」
先輩がオバサンみたいじゃないですかぁ……私と一歳しか違わないのにぃ……。一歳違い……。私と茂生も一歳違い……。
……あああ、思い出してしまった!さっきの茂生のお父さんの話!
「だって……先輩ぃ……私……まだ茂生からプロポーズなんかされていないのに、ですよ! 」
「がふっ! ごほっ!」
「やっ! 先輩、大丈夫ですかっ?」
むせちゃった! えっ!驚かせちゃったの?
「ごほっ……ケホッ、ケホッ、んん~。ご、ごめんね、かハッ……」
「先輩ぃ……大丈夫ですか……?」
「だ、だいじょぶ、ちょっと変なトコ入っちゃったみたい」
「お水お代わり貰いますか?」
「んっ、大丈夫。それより、どうしてプロポーズまで一足飛びになっちゃうの? 杉崎さんのお話でしょう」
先輩はもう一杯注文された。私も慌ててケーキセットを追加した。
「……茂生のお父さんの話がショックでした。もう、私たちが何年も付き合ってたのをご存じみたいで……『
「……え……それを聞きに来たの? わざわざ? 」
先輩が無表情になってしまった……。そうですよね!!わざわざ彼女のキャンパスまで来ませんよね!!
「あり得ませんよね!信じられないです! 会社にかと思ってたら、茂生の……『家』だって……」
「うわ、何それ。意味分からな……いや……似てるわ。さすが兄弟。……法子ちゃん、信じられないわよね!」
目の前のお代わりしたケーキセットを、先輩も私も勢い良く食べ出した。
なんか、ヤケになりそう!
「多分、茂生には内緒で来たのだと思うんですよ。普通はこんな話は茂生から来るはずですよね?先輩もそうでしたよね?」
先輩は紅茶のカップを持ち上げようとして、またソーサーに置いた。
「……法子ちゃん……確かにプロポーズは和弥君からされたけど、もしかしたら……その先の話をされたんじゃなくて?」
「えっ!なんでそれを!」
「やっぱりね!!似てるわよ!杉崎さんと和弥君のお父さん!さすが兄弟ね!」
先輩がケーキの半分を一口で頬張った……それ、モンブランですよぉ……。
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