第5話 信じられない話をしましょうか。
「……信じられません……。そうすると、先輩の婚約者さんと茂生は……?」
「そうでしょう、従兄弟になるわよね!あたしも信じられないけど」
そう言って先輩はもう一枚の写真を見せてくれた。
「……え。茂生がいる。ああ、これ二年くらい前のじゃないですか?」
私と出会った頃から少し後の、今よりは少し幼い感じの茂生がいた。あとは、婚約者さんと、茂生の弟さんと妹さんだと思った。あまり茂生は家族の事を話さないし、私も聞かない。カメラ目線で写っているのはその四人だけで、後ろの方に若い女性や年配の男性が見えた。
「……法子ちゃん、あの、あなたたちはいつから付き合っているの?」
おっとぉ……里沙先輩ってば直球ですね? じゃ、私も。
「先輩こそ。現在形で婚約者さんなんですから、いつからお付き合いされていたんですか?」
「えっ? あ、あたし? ええ? 質問返しかぁ~!」
そうですそうです。まずはご自分から白状なさって下さらないと……私も白状致しますから……。うう。
先輩は、辺りを見回すと、ここではアレだからと場所を大学の近くにあるカフェへの移動を提案された。
……先輩、私はお腹いっぱいなんですけど。胸もいっぱいなんですけど。頭もいっぱいいっぱい……。
「先輩は今日はもう講義は無いのですか?」
「うん。休講になったからね。サークルのミーティングも延びたから、どうしようかなーと思ってた所で法子ちゃん達を見かけちゃったんだもの。これは聞かないと、って思ったの」
「私はショックで一コマサボっちゃいました。単位には響かないと思うんですけど……代返してくれなかったろうなあ」
「そんなにおじさんの話が酷かったの? 」
「そうなんです……で、先輩、さっきの続きは? 」
もう、賑やかなカフェのど真ん中を陣取って、誰かに聞かれても構わないわよ!な、やけっぱちな心境になってしまった私。
「和弥君とは……大学に入ってから。1年の夏以降だと思う。あれ?秋かな?」
「疑問形なんですね」
「だって、はっきりいつからって覚えていないんだもの。そう言うあなたはどうなのよ。いつから?」
先輩はケーキセットを紅茶で、私はコーヒーをお供に、これから長くなりそうなお互いの聞きたい話をどうやって引きだそうか考えていた。
私は覚悟を決めた。先輩に相談にのって頂く。頂きます、よ……。
「私たちは……私が高二で、茂生が高一の時に知り合って、夏休みから付き合い始めました」
「凄い。随分はっきりしてるのね」
「はい。だって知り合ったのが進学塾で、付き合い始めたのがお互いの夏季講習からだったのです」
「ほぉ~、なるほどねえ」
先輩が可愛らしく見える。いつもサークル活動では、姉御肌な頼れる人だと思っている、憧れの先輩。
今日は、何となく近くに感じられて、違った先輩が見られて……ラッキー!
そう言えばプライベートな話なんてしなかったし。出来なかった。
今日の最悪な事案なんて吹っ飛ばしてもらえそう!
「先輩……彼氏さんに嘘をつかれた事って有ります? 」
あれ? 無いの? 先輩、なんで考え込んでしまうのですかぁ~!
私なんて……三年も騙されてたのに……っ!
「……うーん……あたしが気が付かないだけなのかなあ? 有るかもしれないけど、見破った事も無いしねえ。……あるんじゃない、かな? 」
私は深いふかぁ~いため息を吐いた。先輩、そうですね。先輩には嘘をつこうという気が失せるかもですね……素直になんでも信じちゃいそうだから。
「え。法子ちゃん、有るの?」
先輩、その意外そうな顔をこちらに向けないでくださいよう……。
「有ったんです……三年騙されてました」
「さ、三年も? うわ、それ凄くない?」
「凄いと言うより酷いですよね? 」
三年よ! 生まれた女の子が七五三のお祝いしちゃうわよ!
先輩は、顔の前で手を振っておばさんみたいな仕草をした。
え。先輩のイメージが。
「違う違う、ソレを三年信じていた法子ちゃんが凄いな、って」
「……え……だって……茂生が自分の家は『商店』だって言ったから……」
「しょうてん?」
のちに、きいたはなしでは、せんぱいのあたまのなかでは、そのとき、あるおんがくがながれていたらしい……。
ざぶとんなんかあげません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます