第2話 まさかの里沙先輩

 「……先輩? 」

 「法子のりこちゃん、キャプからメール来なかった? 今日のミーティング、来週に延びたって」


 先輩は長テーブルに近付くと、前の席に座った。

 「……あ、私携帯の電源切ってて……ああ、だから誰も居なかったし来なかったんですね。有難うございます、里沙先輩……」



 里沙先輩は同郷で、同じ高校出身だった。高校時代は二人とも接点が無かったからあまり知らなかったけど、この大学に来て、ボランティアサークルに入ってから親しくなった。面倒見の良い姉御肌の先輩。


 「……あれ、先輩はなんでここに?」

 「ちょっと法子ちゃんに聞きたい事があって。さっきメールしたんだけど、返事がないから……もしかしたらこっちかなぁ、ってね。あたし凄いビンゴ!」

 「あっ、あー、ごめんなさい。さっき教授棟行ってたから電源落としてたんです」

 長テーブルに置いた携帯を取って電源を入れてみる。時間かかるなあ。


 里沙先輩は私の携帯を覗き込みながら、何か言いたそう。


 「あの、先輩? 」

 ……私に聞きたい事ってなんだろう。

 「……やっぱり、さっきお昼近く前に教授棟から出て来たの、法子ちゃんだったんだ……」


 「はい? あれ? 先輩どこにいらしたんですか。分からなかったです」


 ちょっと待って。教授棟から出て来た時って、茂生のお父さんと一緒だった時?

 電源をオンにしたら、通知音が凄いい……うわ、後が怖いぃ。メール返さなきゃ。


 先輩は黙ったまま。えっと、私、どうしたらいい?


 とりあえず私も黙っておこう。私が喋るとうるさいらしいから。 


 「……あのさ、さっき一緒にいたおじさんの事なんだけど……」

 

 やっぱり見られてたの?

 「はい……? 」

 「法子ちゃんの、親戚? 」

 「えっと、違います」

 ……彼氏の父親だなんて言えない……。


 「あの。教授に呼び出し受けたら、お客様だったんです」

 これは本当。びっくりした。

 

 先輩、なんでそんな驚いた顔をしてるんですか? どうして?


 「お客様? 法子ちゃんの? 」

 「……はい、そうです」


 「なんであの人が法子ちゃんに会いに来るの?」

 「えっ、あの人って……先輩あの人ご存じなんですか? どうして? 」

 「いやっ、こっちが聞きたいのよ。なんで? 」


 ええい!恥ずかしいけど喋っちゃえ!

 「か、彼氏のお父さんなんです」

先輩が椅子から落ちそうになって、そのまま立ち上がったら、椅子がガシャンと横倒しになってしまった。



 「ちょっと待って!なんで和弥かずや君のおじさんが法子ちゃんに会いに来るの? て言うか、その前に彼氏の父親がなんであの人なの、て言うか、彼氏って誰? 」


 倒れた椅子を直しながらまくし立てる様に喋った先輩が珍しい……。



 ん? かずやくん?

 「あのっ、先輩、かずやさんて。」

 先輩が赤面しているなんて初めて見た!可愛い!


 「……あたしの婚約者……」

 「はあ、婚約者です、か、って…

…えええ~うっそぉ!!」

 私も立ち上がってしまった。


 「私の彼氏は杉崎茂生です!先輩、かずやさんて杉崎さんなんですか!」


 先輩がたじろいでいる……やあっ、私ったら……!でもでも先輩に婚約者?ってうっそぉ!


 「和弥君? 本橋だけど。本橋和弥」

 先輩は、ちょっと考え込んで、ブツブツ呟き始めました。


 「杉崎……杉崎? あれ、健司おじさんだから……ええと、あ。」


 先輩が膝をぱしんと叩いた。


 先輩? 噺家さんですか?


 

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