杉﨑法子 「親戚に先輩がいたんです。が決め手でした」

永盛愛美

第1話 嘘つきな彼氏

 

 これは、私が結婚する前の懐かしい無駄話です。

 人生どこでどうやって進む道が決まっちゃうのか、本当にわかりませんよね? その時は真剣に探している道。無我夢中で歩いている道。


 知らない内に知らない道を歩いていたあの日の私……。


 ……聞いて頂けます?




《《《《《《《《《《《《《《《《《






 彼氏にずっと嘘をつかれていた。付き合い始めてから三年間。



 彼とは進学塾で知り合った。同学年ではなくて、私が一歳年上。

 知り合ったのは、私が高二で彼が高一の時だった。


 彼は中学時代から同じ塾に通っていたけど、私は高校に入学してから。


 自習室や休憩室で良く会う機会があったり、参考書の好みが似ていたり、顔見知りになったら近くのコンビニや最寄り駅ですれ違う偶然が重なって、ひと言ふた言話すようになったら……だんだん親近感が湧いてきて。何となく付き合うようになった。


 なんて言うのかな? 気安い? 話しやすい? 不思議な感覚だったのを覚えている。中学時代や高校に入ってからの友達とも違う。かと言って、昔からの幼なじみとも違う。何なの?


 安心感があるのかな?落ち着ける。ドキドキ感はあるけど、初恋の時とは違うドキドキ感は言葉で言い表せない。昔から憧れていた親戚のお兄さんみたいな感覚が近いかな。年下だけど……私、何言ってるんだろう。



 ショックで頭が混乱してるのかなあ。


あ~~~、ハラ立つ!!茂生しげおの馬鹿ちん!!


 もう、携帯を着信拒否にしちゃうから! メールも受け取らないから!


 ……かと言って、話は前には進まないし。肝心の茂生と……とことん……詰めて話さないと……私まだ二十歳はたちなのに……なんでぇ?


 サークルのミーティングルームでひとりきり。おかしいなあ。誰も来ないなんて……いつもならばちらほら集まっているのにな。


 長い机に突っ伏して、頭を冷やそうとしたら、その前に顔が冷えちゃうわ! お化粧が崩れちゃうじゃない!


 こんなバカな話ってある? ねえ、ある? 自分で自分に語りかけてるわ、私……机の上に置いた携帯が静かだと思ったら、着信拒否前に携帯の電源切ってたんでした……あ、さっき教授棟行ったからだった。


 ……どうしたらいいの……私まだ将来の事なんて考えられない。ウン、あと二年しない内に大学卒業だから、就活だって卒論だって待っているのは頭ではわかってるけど? その次の問題が、当事者すり抜けて普通直接やって来る? ねえ、来る? 普通は無いわよね?

 茂生抜きで話された私はどうしたらいいの……茂生の馬鹿ちん!


 茂生の声が聞きたいけど聞きたくない……こんなの信じられない!!

 有り得ない!!


 茂生とはダメになっちゃう? 別れるべき? 

 茂生からプロポーズなんかされてないのに(当たり前よね! まだ大学生だし)! 先に父親がやって来る? ねえ、来る? 彼女の学校に乗り込んで来るぅ???



 「あ、法子のりこちゃん、やっぱりこっちにいた!良かった!」


 勢いよくドアが開けられたと思ったら。


 「里沙りさ先輩?」


やった、やっとひとり来た。


……里沙先輩は困った様な心配そうな顔をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る