第43話 アクシデント
国連の視察団を乗せた民間用オスプレイ改が、私のツヴァイとシンのデュレイにエスコートされ、パトロールの為に東京湾海上をランデブー飛行しながらバッキー・センターへ到着すると、センターの屋上には、まるで花びらの様に広がった沢山の六角形のパネルの取付け工事をしているのが見えて来る。
そこに我問の通信が入って来る。
「皆さん、ご覧になれますか? この六角形のパネルがカーボンナノテクノロジーを利用して格段にエネルギー変換効率が高くなった太陽発電パネルです。それぞれのパネルで蓄えたエネルギーで、海中から採取した水を水素と酸素に分解し、水素原子を超共有結合させてハイドロフラーレンを生産するんですよ」
アランサス総長が我問に訪ねる。
「ハイドロフラーレンの生成には、どの位のエネルギーが必要なんですか?」
「松羽目やゲッヘラー達は、ハイドロフラーレンの結合にドイツの原子炉のエネルギーを使っていました。ですが、原子力は大量の放射性廃棄物を出すので、クリーンエネルギーとは言えません。そこで、今ご覧頂いている新型太陽電池発電を主体にした「シータワー」の実用化が急務なのです。」
「あの六角形のパネルに付いている風車は?」
「あれも新設計の風力発電プロペラです。現在設計中のシータワーでは、もう一つの太陽エネルギーとも言える風力や潮力でも発電を計画しているんですよ。もしシータワーを世界の60カ所に配置出来れば、今の石油燃料システムの全てと交換する事が出来る計算です」
「じゃあ、公害や地球温暖化もずっと減らせるって事ね」
「そうです。ただ、これまで石油燃料を独占して暴利を得ていた会社には、このバッキー・センターは目の敵にされています。そこで、万が一に備えて奈々さんとシン君のエグゼターで警備をしてもらっているんです。エグゼターがいれば、そう簡単には攻撃してこれないでしょうからね」
「良く分かりました。シータワー建設の早急性は次の国連総会で報告し、何としても可決させましょう」
私とシンは、アランサス総長を始めとする視察団を羽田空港まで送り届けると、バッキー・センターへ帰投し、エグゼター専用のドックにツヴァイとデュレイを収納して、機関部やO.S.に異常が無いかどうか確認する。
「シン、手足は大丈夫?」
「ああ、もうすっかり慣れたよ」
シンの手足は、大きさこそ自然だが機械の物になっていて、頭部や脊椎のプラグはむき出しになっている。
「ねえ、シン? その手足や身体のプラグ、もっと自然に見える様に出来るって、我問さんが言ってたよ?」
「いいんだ、奈々。これはあの大災害を防げずに大勢の犠牲者を出してしまった、
自分の稚拙さを忘れない為の戒めなんだ」
「シン・・・、気持ちは分かるけど、シン一人で責任を背負い込むのはお願いだから止めて欲しい。あれはゲッヘラーが企てた陰謀で、私達はただ利用されただけなんだから」
「ああ、そうだな。でもオレさ、実を言うとこの機械の手足、なんかSFに出て来るサイボーグっぽくて結構気に入ってるんだぜ」
シンはそう言うと、機械の手足を超人的な早さで動かしてみせる
「フフッ、シンってば!」
バッキー・センターのホールに、我問の場内アナウンスが流れる。
「奈々さん、シン君。ちょっと見せたい物があるので、第三ラボまで来て下さい」
私とシンは、研究所で3番目に大きな施設、第三ラボの扉を開けて入ると、そこには液体で満たされた大きな透明のタンクと、それを取り巻く大小のチューブが付いた装置が置いてある。
「すごい装置! これは何?」
「ハイドロフラーレンの結合を、より高密度にする為の実験装置です。ハイドロフラーレンは、理論的には角砂糖一個の体積に何トン分もの水素原子を圧縮出来る筈なのですが、今の段階ではその数パーセントにも達していません」
「なんだか想像もつかない世界だな」
「もしそれが実現出来れば、燃料タンクやサイバーマトンも小型軽量化出来、しかも一回のエネルギー補給で半永久的に動かす事も出来るんですよ」
「へえ~」
「これから新しい実験をやってみます。安全の為にこのゴーグルをかけて見ていて下さい」
防護ゴーグルをかけて実験の様子を見守る私とシン。
装置のコンソールパネルを操作し、稼働体制にする我問。透明のタンクの中の液体が沸騰し、沢山の泡が出始める。
タンクの周囲からプラズマレーザーが照射され、光り輝き始めるタンク。その時、警報アラームが作動し、研究所が大きく揺れ始める。
「おかしい、以前の実験ではこんな事は起こらなかったのに」
揺れがどんどん大きくなる。あわてて緊急停止装置を押す我問。だが、アラームは鳴り止まない。
「緊急停止装置が効かない! 奈々さん、シン君、第三ラボから避難しましょう!!」
その時、第三ラボ全体が大きな光に包み込まれ、その光に飲み込まれてしまう私達・・・。
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