第42話 陰謀

 一方、ここはアメリカのホワイトハウス、メアリー・アーリントン大統領執務室。 大統領とムーア大統領補佐官、それにカク教授が会談している。


 アーリントン大統領は、デスクで資料を見ながら、


「カク教授から異星人とのコンタクトの報告を受けてから、事態は急展開しています。特に、あのH60と言う新技術については、まったく報告を受けていません。ムーア補佐官、N.S.A.(アメリカ国家安全保障局)は何をやっているのですか!?」


「この件は、日本とドイツの非正規組織によって進められていた計画です。わが国は対イスラムやロシア、中国を主な諜報活動の対象にしていましたので・・・」


「この技術が世界中に普及すれば、これまで我が国が主権を握っていた世界経済や軍事バランスが、一気に崩れさってしまう。ムーア補佐官、何か対策は無いのですか?」


「あの奈々と言う少女が国連に直訴すると言う先手を打たれてしまった以上、事の進行は慎重を要するかと」


 そこへカク教授が発言する。


「アーリントン大統領、貴方は重要な事をお忘れではありませんか? この件は、私がかねてから想定していた地球外知的生命体との関係確立も視野に入れなければ。これはもはや、地球上の国家間だけで解決出来る案件ではありません。」


「カク教授、そのエネルギー生命体の存在と言うのは、本当に存在するのでしょうね?」


「はい、大統領。信号の発信源は、太陽の中心からでした。そして彼らの交信から察する限り、キュリアン属とデシス属が、地球上の生命の進化に深く介入してきた事は疑いの余地が有りません」


「ムーア補佐官、この様な事態が想定された極秘規定、マジェスティック12には?」


「 ”率先して異星人との信頼関係を確立し、世界に先駆けて先端技術のイニシャティブを取る” と」


「カク教授、こちらからの交信は可能なのですか?」


「メッセージの送信は可能ですが、果たして彼らが我々をまともに相手するかどうか・・・。彼らにとって我々は、言わば実験室のマウス以下の存在でしょうから」


「とにかく、今回の案件の鍵は日本とドイツにあります。ムーア補佐官、それぞれの国にAクラスの諜報員を極秘に派遣して、情報の収集活動に当たらせなさい」


「分かりました、大統領閣下。すでに適任者は指名してあります。奈々の仲間であるW.ジェイドと海兵隊の特殊作戦時代に同僚だった人物です。その男を国連事務総長のボディガードに任命して潜入させます」

 

「良いでしょう。但し決して相手に気取られぬ様に」



 ジンネマン首相はドイツの政府専用機、本国に帰国中である。


「シュバイツ国防長官、一体どうなっているのだ? ゲッヘラーの企業は通常兵器の開発と製造では無かったのか?」


「申し訳ありません。ゲッヘラーは複合産業の社長として、我が国でも有数の高額納税者ですので、恐らく政府機関とも何らかの癒着があったと考えられます」


「それで、ゲッヘラーの工場や研究所は?」


「すでに強制捜索して、主な資料や機械は差し押さえてありますが、国連であの少女が搭乗してきたロボットや、あのような先進的エネルギーの開発は、どうやら本国ではなく日本で行われていた様で。」


「日本でだと!? 我が国の技術者達は何をやっているのだ? 」


「元々、この革新的な発明は、日本の越路博士と、その娘さんご夫妻による物だと思われます。それが学界に公表されなかったのは、この技術が、現在の国際経済界のバランスを一気に崩しかねない物だったからでしょう」


「それでは、この技術の主導権は、日本の連中が握っているのか?」


「いえ、そうとも言い切れません」


「どういう事だ?」


「我々がゲッヘラーの施設に強制捜索に入った時には、既に多くの資料や施設が持ち去られた形跡が有りました。ゲッヘラー亡き後に、何者かがネオナチスの主導権を継承していると思われます」


「我が国はクリーンエネルギー主体を目標と掲げる先進国家だ。それがネオナチスにこの技術を奪われたら、国際的な恥さらしになってしまう。なんとしてもネオナチスの正体を洗いだし、その野望を撲滅しなければならん」


「分かりました。我が国の司法機関の総力を上げて、尽力を尽くします」


 シュバイツ国防長官はスマホでどこかにメールを送る。


「例の件、くれぐれも内密に進行せよ」


 メールを送り終わると、シュバイツ国防長官はニヤリとほくそ笑んだ。

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