第27話 壱号機
ステルス戦車が3人を乗せて、派手に点滅する赤色パトライトと緊急サイレンを鳴らしながら発進する。
「我問、万が一その爆弾が日本海溝で爆発したら、被害はどれくらいになるんだ?」
「ジェイドさん、研究所の試算ではマグニチュード9、関東地方では東日本大震災を上回る震度8で、約10万人以上の犠牲者と、その約30倍の負傷者や帰宅困難者が出る事になります」
「そんな事、絶対にさせてたまる物ですか!!」
憤慨したキラが、環状7号線の中央分離帯を破壊しつつ猛スピードで走り抜けるステルス戦車のメガホンで叫ぶ。
「どいた、どいたぁ!! 正義の味方のお通りよッ!!」
その時、我問のタブレットが、乾いたワタシの声を受信する。
「こちらツヴァイ。低空飛行で目標に急速接近中、E.T.A.( Estimate Time Arrival = 到着予想時刻) 3 Minutes。指示をコウ」
「奈々さん、こちらの情報だと敵は9機。魚雷型ハイドロフラーレン爆弾を輸送する詳細不明の大型機1機と、護衛のフライングマトンが8機。護衛は熱追尾式の空対空ミサイルを装備しているので、アフターバーナーをオフにしてH60の高速低温噴射で飛行して下さい」
「こちらツヴァイ、了解」
もう暗くなりかけた夜空は、茜色の夕焼けから濃紺の空に変わり始めている。
敵のレーダーに捕捉されにくい様に、海面すれすれを水柱を上げながら飛行するツヴァイ。
ワタシのツヴァイの両肩に装備されている複眼式高解像度ズームカメラの赤外線暗視映像が、複数の機影を立体的に捉えた。
ワタシは、バッキーキャノンの弾道予測照準システム(E.B.A.S. Estimated Ballistic Aiming System )を用いて照準を合わせ、護衛の一機に向けて発射する。
「バリッ、バラバラバラっ!」
炎を上げて空中分解しながら落下するフライングマトン。攻撃とツヴァイの存在を察知した残りのフライングマトンが、空対空ミサイルを続けざまに発射する。
「シュバシュバシュバッ!!」
ワタシは我問さんに言われた事を高熱源追尾ミサイルの性能を思い浮かべると、ツヴァイは自動的にアフターバーナーを切り、エンジンから吹いていた炎が消えて低温の高圧水素ガスの噴射のみで飛行している。
高熱源追尾式ミサイルは目標を捕捉しそこねて迷走し、味方のフライングマトンの熱源を捉えて誤爆してしまう。
フライングマトン達が護衛編隊を解き、迎撃態勢を整えて両手の6銃身式M134バルカンがツヴァイめがけて火を噴く。
「ブロロロロゥ!!」
「ガキキキキンッ」
だが、ツヴァイのC60炭素フラーレン複合装甲は、かすり傷さえ残さない。
ワタシとツヴァイは、360度の宙返りの連続攻撃で、バッキーキャノンとハイドロソードを駆使し、フライングマトンを次から次へと撃沈する。
ついにツヴァイのメインカメラが、爆弾を抱えた大型機を捉えた!
ステルス戦車に転送されたその画像データをモニター映像で拡大して見た我問さんが、
「これは?? エグゼター級 壱号機のアイン!!」
大型機は、メインカメラの形状以外はツヴァイと瓜二つであった。腹部に魚雷状のハイドロフラーレン爆弾が搭載されている。
「バイオモデム無しで、一体どうやって操縦されていると言うんだ??」
その時、アインのバッキーキャノンがワタシのツヴァイに襲いかかる。
間一髪で被弾を避けようとしたが、左肩の先に付いた3次元照準カメラを破壊されてしまった!
「奈々さん、気を付けて!! 敵はツヴァイと同じ性能を持っています!」
無表情にそのメッセージを受け取ると、反撃に出るワタシのツヴァイ。
「シュィ~~~ン!!、 シュィ~~~ン!!」
バッキーキャノンを発射するツヴァイ、それを間一髪で避けるアイン。
ワタシのツヴァイは、3次元照準システムを失いながらも、爆弾を抱えている分だけ機動性が落ちているアインを次第に追いつめて行く。
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