第6話 奪還


 暗闇に緑色の線を描き出すグリーンレーザーの光跡が浮かび上る。


「ドン! ド・ド・ドン!!」


 私の耳を擘く様な破裂音と共に私を取り囲んでいる黒尽くめ男達の眉間に穴が開き、何か生温い液体が私の顔や身体に飛びかかって来た。


「・・・、これはっ!!!」


 私の脳裏にあった何か恐ろしい記憶を、私の身体にまとわりつく血や肉片の感覚が、フラッシュバックさせる。


 私が呆然として言葉を失っていると、真っ赤な革ツナギを着た女性がピストル (設定注:南部18C式 レーザー照準器付き)を構えながら、ツナギに付けたフラッシュライトで自分自身の顔を照らし、


「奈々!! 私よ、味方のキラよっ! ここで死にたく無かったら、こっちへ急いで!!」


 と叫びながら、私に手をさしのべている。

 

 不意に自分の名を呼ばれた私は、とっさにその女性にしがみついた。

 

 『キラ』と名乗るその女性は、私を身体ごと掴んで、線路脇に有った私達をちょうど隠せる位の機械の箱の裏へ隠れると、力づくで私をかばう様に叫ぶ!


「奈々、最小被弾回避体勢を取って!、 両手で目と耳を覆って、手足を思い切り縮めて!!」

 

 私は、キラに言われるがまま、両手で顔面の両眼と両耳を保護しながら、私達に向けられた特殊車両のH.I.D.サーチライトに、出来るだけ照らされない様な格好をする。

 

 黒尽くめの男達がH&K G36Cアサルトライフルで銃撃してくる。


「ガガガガガッ! ガガガッ! ガガガッ!」


 キラが南部18C式 レーザー照準器付きで応戦する。


「バンッ! バンッ! ババンッ! ジャキッ、チャッ! バララララララッ!」


 キラは、複数の敵の弾切れとマガジン・チェンジのタイミングを見計らう様に、

遮蔽物から南部18C式で応戦し、また数人の敵を倒す。

 

 南部18式Cのセレクターをフル・ポジションにして、ロングマガジンにチェンジしながら、メクラ撃ちで威嚇射撃しつつ、赤革ツナギのポケットに挟んであった

スタングレネード(非殺傷性の閃光手りゅう弾)のピンを口にくわえて抜き、男達の方へ投げる。


「ドン! シュバッ!!」


 周囲は目と耳が眩む様な閃光と轟音に包まれ、男達の暗視ゴーグルは一瞬ホワイトアウトして、数秒間のあいだ男達の視界が奪われる。


 その隙を付き、キラは南部18C式をレッグホルスターにしまうと、私を腕をごと線路に置いてあった黄色いオフロードバイクまで連れて行く。キラが先に乗り、キックでエンジンを掛ける。バイクのマフラーから2ストロークエンジン特有の紫炎の煙が上がる・


「奈々、私の後ろに乗って!!」

 

 私はキラのバイク後部シートにまたがろうとするが、そのバイクは競技用のYAMAHA - XR450で、二人乗り用のフットレストさえ付いていない!

 

「奈々。行くわよっ!! アタシの身体に、しっかり掴まってて!!」

 

 私は両手で、キラの肉感的な上半身にしがみつき、カラダごとピタリと密着させると同時に、思いっきり下半身の両太ももの力を使い、XR450のシートを挟み込む。 

 

 キラは後ろの私がしっかり掴まっているのを確認すると、ギアをセカンドに入れたままアクセルを吹かし、クラッチをつなぐと、2ストロークのエンジンが甲高い轟音をあげ、バイクを45°ウィリーさせて発進させる。

 

 私は、加速していくバイクと枕木の段差の激しさに振り落とされそうになりながら、キラのゴワゴワした革ツナギを掴んで必死にしがみついている。


「ギィイイイイイ~ン!!」


 私達の乗ったオフロードバイクを、追っ手の特殊車両のHIDヘッドライトが照らし出すと共に、助手席の射手から、H&K G3A3ドラムマガジン仕様7.62mmNATO弾が襲いかかる。


「ガガガガガガガガッ! ガガガッ! チュイ~ン!」


 襲いかかる弾丸が線路に当たって火花を散らす。


 追っ手の銃撃を寸差でかわしながら、キラが叫ぶ。


「奈々、バイクのハンドルをお願い!!」


「えっ?? こんなバイクなんか運転出来無いよ!」


「アンタなら出来るってば、早く!!」


 キラは、私の両手を無理矢理バイクのハンドルへ掴ませると、振り向き様に肩からスリングで下げていたピストルグリップ付きM203グレネード・ランチャーを両手で構え、追っ手の車輪めがけて発射する。


「ドォオ~~ン! バリバリバリっ!!」


 弾頭が特殊車両に命中し、40mm H.E.S.H.(成形炸薬)のモンロー効果(被弾した装甲を中心から破壊する)に熱せられたメタルジェットに車輪を吹き飛ばされ、横転しながらトンネルの柱に激突し、激しく炎上する。


 キラが叫ぶ!


「まだ来るわよ! 奈々、アクセル吹かして!!」


「何? 聞こえないよ!?」


 私はトンネル内に響くバイクの轟音と、耳元で銃を発射された爆音で耳が良く聞こえ無かったけど、訳も分からず、ただバイクのハンドルにしがみ付きながらアクセルハンドルを吹かす。


 今度は地下鉄のトンネルの向こうから、トヨタ製高機動車の市販バーションである『メガ・クルーザー Mk3 新緑地迷彩仕様』が迫って来て、オープン・ルーフからM249 Minimiの5.56mm SS109弾薬が咆哮する。


「パラララッ! パララララララッ!!」


 まるでチキン・レースの様に高速で接近する私達のバイクとメガ・クルーザー。


「左へ!!」


 キラは私の左手ごとハンドルを握り、すれすれのところでバイクはメガ・クルーザー Mk3とすれ違う。


「キキキィ~ッ!」


 すかさず四輪操舵を利用してUターンし、うなりをあげて接近して来るメガ・クルーザー。


「ドン! ブゥオ~~! ドン!」


 メガ・クルーザーのフロントバンパーが、私達のバイクの後輪を突き飛ばす。


「チッ、二人乗ってたら逃げ切れない・・・」


 キラは私の右手ごとアクセルをゆるめてハンドルを切り、メガ・クルーザーの右の隙間に回り込むと、左手でホルスターから南部18C式を抜いて、逆手持ちのまま、


「ダララララッ!!」


 と、タイヤめがけてフルオートで撃つが、タイヤはビクともしない。


「しまった、メガ・クルーザーはパンクレス!」


 メガ・クルーザー Mk3のサイドウィンドウが降り、デザート新迷彩服を着た運転手がニヤリと笑いながら、陸上自衛隊式9mmけん銃 二式(アメリカ軍正式採用名「M11ピストル」、複列弾倉式 SIG P228)が私達を狙う。


「M11拳銃にデザート新迷彩!? まだメガ・クルーザー Mk3さえ公式採用されて無いってご時世に! コイツはエセ陸自隊員!  え~いっ、アタシがオンナだからと思って、ナメてんじゃないわよ!!」


 キラは、その手でM203のバレル・ロックを解除して空薬莢を振り落とす様にエジェクトすると共に本体を小脇に抱え、肩から掛けたシェル・ホルダーから次弾を抜いてチャンバーにリロード(再装填)し、メガ・クルーザー Mk3のリアウィンドウめがけて、


「・・・、これなら、どうよっ!」


「ボォオオオ~ッン!!」


 火ダルマになった様に炎上するメガ・クルーザー Mk3の横をすり抜ける私達のバイク。

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