第7話 消されかけていた記憶
202X年 4月11日 午前8:30頃。
・・・永遠とも思える時間が過ぎ、いつの間にかバイクは東京メトロ千代田線の北千住トンネルを抜け、近くの中川の河川敷に止まっていた。
小鳥のさえずりと、川のせせらぎ。さっきまでの事件がまるで嘘の様に、いっときの平和な時間が流れている。
「奈々、血だらけよ。ちょっと身体を見せて」
キラは、私の身体や脈拍、瞳孔の様子を見ると、
「敵の返り血を浴びただけの様ね。そこの川辺で洗って来れば?」
私はキラが頭に巻いたバンダナを渡され、川の水で身体中の血を洗いそそぐ。その血を見て、私の脳裏に何かがフラッシュバックし、一瞬また呆然としてしまうが、何とか気を取り直し、キラにバンダナを返しながら、
「あの、ありがとう・・・、あ・・・あなたは? どうして私の名前を??」
「覚えていないの? まあ、無理も無いか・・・」
「え?」
「じゃあ、これならどう? フッ!!」
キラはとっさに腰のナイフを抜き、私の喉元めがけて襲いかかって来た。
その殺気を感じた瞬間、私は自分が自分じゃ無くなる感じに襲われ、まるでもう一人の自分をビデオカメラか何かで傍観している様な錯覚に陥っていた。もう一人の私は、反射的にキラの攻撃をかわして、ナイフを手から即座に叩き落としてしまっていた。
「ア、痛っ! ちょっとは手加減してよね・・・」
キラは、落ちたガーバーマークⅡナイフを拾い、腰のナイロンシースに納めながら、
「まあ、これで少なくとも・・・、身体は忘れていない様ね、奈々?」
「私・・・今、何をしたの??」
私の感覚は普段の自分に戻ったみたいで、赤革ツナギの女性は、呆然としている私に向かって手を差し出し、無理矢理に握手をする。
「久しぶりね、奈々。私よ。キラよ!」
「き・ら???」
「話は聞いているわ。博士がアナタの記憶を消したって」
「・・・ゴメンなさい・・・、私・・・」
「いいわ。かいつまんで説明するとね・・・、」
キラは、『私達の過去』を淡々と、時に悔しそうに話し始めた。
「私とあなたはね、小さい頃にある施設で知り合ったの。そこではね、今でも強大な権力を持った某組織が、自分たちに邪魔になった存在を暗殺する為に、人殺しの訓練を行っているのよ。大人に殺人訓練するのは簡単だけど、世の中に知られない様に暗殺する為には、絶対に疑われない様な小さな子供を催眠して洗脳するのが一番向いていたって訳。そして、私もあなたもそこにいたの」
「そんな事って??」
「そうね。出来れば私も忘れたいよ、あなたの様に・・・」
キラの瞳が、心無しかうるんでいる様に見える。
「キラ・・・?」
その時、私の足元にフンワリした毛触りが・・・。
見ると、あのクーにゃんがすり寄って来ていて、河縁にはコーりゃんが川面から首を出し、空にはボスカー率いるカラス達が私達の上空を飛び回っている。
「あななたち、いつの間に?」
その時、また私の心の中に声が聞こえる。
「奈々、君たちには命の危険が迫っている。だが、今の私達には、まだ君たちの力になる事を許されていない。ただ一つ出来るのは、忠告する事。今すぐここから、出来るだけ遠くへ逃げなさい」
「え? どういう事?」
私と動物達の会話を不思議そうに見ていたキラ、
「どうしたの? 奈々?」
「キラ、良く分からないけど、このまま此所に居るのはマズいんじゃない?」
「そ、そうね。バイクはタンクが被弾してガス欠だから、歩いて街まで出て、タクシーで移動しましょう」
「うん」
その時!
「ドォ~~~ン!! バリバリバリっ!」
突然、威嚇砲の爆音と共に、私達の上空には軍用ヘリコプター、UH-60JA/G「ウルトラ・ブラックホーク」数機が飛来してホバリング態勢を取り、黒ずくめの男達がラペリング降下して来て半円形の隊列を組むと、H&K G36Kアサルトライフルの銃口を私達に向けながら、近接戦闘姿勢(C.Q.B.スタンス)で接近して来る。
私とキラはすっかり男達に取り囲まれてしまった様だ。
UH-60JA/Gから若い男性のアナウンスが流れる。
「キラよ、そこまでだ。よくも裏切ってくれたな?」
「ジェイド!? こんな所まで!!」
「甘いな。オレがお前達を見逃すとでも思ったか?」
「クッ、オトコはしつこいと嫌われるわよ!!」
「まったく口の減らんオンナだ! 二人とも拘束しろ!」
黒ずくめの男達が隊列を組んで近寄って来る。
「キラ!!」
「ごめんなさい、奈々。ここは一旦おとなしく投降した方が良さそうね」
「ウ、ウン・・・」
男達が、私とキラとにベンジャミン式空気麻酔銃を撃ち込むと共に、遠ざかる私の意識・・・。
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