第一章 ー 覚醒 ー アウェイクニング
第5話 革命の始まり
202X年 4月11日 午前7:30頃。
私ったら、事もあろうか満員ラッシュの東京メトロ千代田線下り電車でモミクチャ状態。
家庭の事情で足立区の私立音楽高校へ転入した私。昨晩は、元いた世田谷の実家に、父のコレクションであるモダンジャズの楽譜やCD、古いレコードを取りに帰ってそのまま泊まっっちゃったから、足立区の学校に出席する為に仕方なく乗っているけど・・・、
私にとって、この世の中で一番苦手なのが、この『満員電車』。
その理由、
第一:『汚く淀んだ空気の流れ』
地下何十メートルって深さの、まるでモグラとネズミの巣窟みたいなトンネルを走る金属製の箱の中、わずか数センチから私に吹きかけられる、見も知らぬ他人のストレス混じりの吐息。まるで巨大魔都市『東京』の邪悪なオーラに汚染されちゃってる感じ。
第二:『カラダの自由が効かない!?』
手に持った通学カバンでさえも、ヒトとヒトに挟まれて、私の手からもぎ取られそうになるし。まるで望まない押しくら饅頭の様に自由が奪われている不自由な状態を長時間に渡って強いられるこの辛さ。
第三:『みんな自分の時間だけが一番大切』
そんな異常な空間にみんなが『監禁』されていると言うのに、まるでそれが『当たり前』の様に、スマホに向かって自分の世界に浸り切っている人々。自分にの『自由な時間』をネットの海に丸投げしている感じ。
第四:その異常な状況に乗じて、他人の気持ちなど気にもかけずに、『密かに鬱屈されねじ曲がった欲情のはけ口を実行しようとする奴』
おっと、案の定、『四番目』が私の所に来たみたい・・・。
私の身体に触れる怪しげな感触が・・・。誰かが私のスカートをめくろうとしている。
さりげなく後ろに目をやると、年齢不詳男性のイヤラシいオーラの気配。私が動けないのを良い事に、私の太ももから痴漢男性の手が下着の裾に伸びて来る。
「どうしよう・・・。ここで、『この人痴漢ですっ!』って叫んでも、どうせ周囲の人には電車の騒音や、高性能のノイズキャンセル・ヘッドフォンで聞き取れないだろうし・・・。第一、そんな事で警察沙汰になったら、今日の模擬試験に遅れちゃう・・・。早く次の駅に止まってくれないかな・・・」
デジタルヴォイスのアナウンスが流れる。
「次は日比谷、ヒビヤです。銀座線、日比谷線、有楽町線はお乗り換えです」
その時、急に車内は真っ暗になり、急ブレーキがかかった。
「きゃぁあああ~~っ!」
「うぉおおおお~~っ!」
次から次へと将棋倒しになる乗客達。私は全身ごと前方へと放り投げ出され、
下の人と上の人とのサンドイッチ状態にさせられて、身動きどころか、胸部が圧迫されて呼吸すら出来ない。
このままだと、あと数分のうちに私は窒息死してしまう! なんとか姿勢を動かせる手足をヒネり回しながら、胸の圧迫から逃れようともがいていた、
まさにその時!
「キィイ~~~ン、ガリガリガリッ!!」
エンジンソーらしき物が火花をあげてドアがこじ開けられて行く。
「バリバリバリッ!!」
暗闇の中の火花が収まると、 何本ものサーチライトが何かを探している。
近くにいた痴漢男性が声をあげる。
「おお、助けが来たぞ!! ここだ、ここだ!!」
だがその瞬間、私は見た。
編み上げブーツと黒尽くめの大男にわしづかみにされた痴漢男性が、およそ人間離れした怪力で車外へと放り投げられるのを。
「グシャッ」
不快な音と共に、不自然な姿勢で息絶える痴漢男性。私の上に重なっていた人々も、次から次へと放り投げられる。
黒尽くめの男達は怪しく赤く光るゴーグルを掛けていて、人々の顔を3次元レーザースキャンしては、まるでゴミを棄てるかの様に放り投げて行く。
「! ・・・なんなの? この人達は!?」
私が思ったその瞬間、黒尽くめ男達の一人が私の襟を掴み上げながら顔をレーザースキャンする。その男は、耳と肩に付いたスピーカーマイク無線機で、誰かと交信している。
「こちらNO.317、HQ司令部、応答せよ。目標発見、捕獲成功。アクノリッジ、オーバー?」
「こちらHQ司令部。 No.317、目標捕獲を映像で確認。第一優先で収容せよ、オーバー!」
「こちらNo.317、了解。目標を拘束、第一収容地点に向かう。本ミッションの最優先事項を、No.317の援護へ変更を要請! リクエスト・アクノリッジ、オーバー?」
「こちらHQ司令部、No.317の要請を確認。チーム各員に命令を伝える。最優先でNo.317の目標収容を援助せよ!」
あまりの急な出来事に呆然としている私を、黒尽くめ男達数人が取り囲み、私の腕や足を掴んで電車から引きずり出そうとする。
「いやだ! 離して!!」
制服をもみくちゃにされながらも、必死で抵抗する私。
私が連れて行かれた先には、いつの間にか電車の前方に停車していた、レールと地面の両方を走行出来る特殊車両が居て、そのヘッドライトの方向へと、私が連れて行かれようとしたその瞬間!
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