第3話 序章「想い、すれ違い その参」

202X年 4月10日 午後3:30頃。


 学校帰りにふと立ち寄った、小さな池の有る公園のベンチに座り、緑の木々や小鳥のさえずり、夕暮れ前のそよ風の香りに包まれていると、池の岩で大きな亀が気持ち良さそうに甲羅干しをしている。

 

 試しに、お弁当で残したお魚の揚げ物をちぎって放り投げてみると、その亀は『ポチャッ』と泳ぎながら、その残飯を飲み込み、また同じ岩に登って甲羅干しを始めた。

 

 「フフッ、可愛い。あの甲羅の大きな亀の名前、”コーりゃん”にしよっと」


 気が付くと、キジトラ模様の猫が、木陰から私を見つめている。

 

「ニャン、お腹が空いてるの? まだお弁当の残りあるから、こっちおいで」

 

 そのキジトラは、周囲を警戒しながら、少しずつ私に近づいて来る。

 

「大丈夫、何にもしないから。ほら、この混ぜご飯・・・、美味しいよ」

 

 お弁当の残りの混ぜご飯をタッパ容器から出して、ベンチの下の地面に少しだけ置くと、そのキジトラはご飯の匂いを嗅いだが食べる素振りも見せず、ジッと私の目を見つめている。

 

 「何よ? 食べないの? ノラのクセに贅沢なのね!」

 

 するとキジトラは、急に『ヒョイッ!』と私の膝に乗って来て、混ぜご飯を入れたタッパ容器から直接ムシャムシャと食べ始めた。

 

 「うわっ! ビックリしたっ! あ、そっか。お行儀良くしたかったのね?」

 

 キジトラは混ぜご飯を半分程平らげると、私の膝から「ヒョイッ!」と降りて、

すたすたと元居た木陰に戻り、私の事など気にもしていない様子で、舌なめずりと毛繕いを始めた。

 

 「あ~あ、呆れた。 喰うだけ喰って、何のお礼も無し? ま、ノラ猫ってそんなもんね。アンタの名前は”クーにゃん”にしよっと。じゃ、またね、クーにゃん!」

 

 公園のベンチを後に、家路に付こうとする私の頭に、また『幻聴』が聞こえた。

 

「奈々、ご馳走さん。またな!」

 

 私は驚いて振り向いたけど、コーりゃんとクーにゃんは姿すら見えない。代わりにベンチの下に置いた混ぜご飯を、カラスがつついている。

 

 公園の出口から家路に向かうと、さっきのカラスが私の前に飛んで来て、歩道のブロック塀から、何か物足りなそうな顔をして私の目を見つめている。

 

 「何よ、まだ足り無いの? しょーが無いわね! ほら、全部あげるから、残さず食べなさいよっ!」

 

 混ぜご飯の残りを目立たない様にブロック塀の陰に置くと、そのカラスは仲間を2、3匹呼んで、自分では食べずに手下のカラス達がアッと言う間に残飯を片付けた。

 

 「ふ~ん、キミは彼らの親分なんだ。じゃ、キミの名前は ”ボスカー” 、よろしくね!」

 

 黄昏の色鮮やかなオレンジの夕陽を眺めながら、私は自分につぶやいた。

 

 「なんだか未だ良く分からないけど、この町もそんなに悪くないかな?」

 

 私が歩いている歩道に、後ろから『チリンチリン』と自転車のベルが鳴った。振り向くと、クラスで私の後ろの席の坂井君って男子が自転車から私を見ている。

 

「あ、坂井君、どうしたの?」

 

「越路・・・、お、お前んち、この近所?」

 

「うん、そうよ。 坂井君も?」

 

「あ、ああ。そこの角の『マルショー』ってスーパーの目の前の赤煉瓦のマンション。あ、そこのスーパーさ、午後7時前から総菜の値引き始めるから、お買い得だぜ」

 

「そうなんだ、助かるぅ~。他にも近所の事、色々教えてくれたら嬉しいかも?」

 

「あ、ああ。オレこれからサッカーの練習に行くから、またな明日な!」

 

「うん、また明日ね、坂井君!」

 

 ヨッシゃぁ! 見かけはチョット地味だけど、なんかイイ感じの男子じゃん? ま、友達くらいには丁度かな・・・。

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