第3話 傷つくこころ

「え?梶野ってそんな風に・・・」


「どうしたんですか?先輩、顔色悪いですよ~」


「そぉ?・・・なんでもない」


そう言い残して私はトイレを出て行った。


鏡越しで梶野美樹と目が合った瞬間・・・また声が聴こえた。


「そうよね・・・ホント・・・ダサいワンピース・・・」


私は窓に映る自分の姿を見てそう呟いた。


そんな時、岡田亜希子からの携帯が鳴る。


「久美子?何やってるの、もう行っちゃうよ~」


「・・・ゴメン今行くから」


「じゃあ、新丸ビル6階の中華料理屋さん、名前なんだっけな~久美子もう時間ないからそこに来て」


「うん・・・わかった」


そう言って電話は切れた。


「あぁ~帰りたい・・・」


そう呟いてバックから伊達メガネを取り出した。


新丸ビルは、開業したばかりで連日丸の内のOLが新しいお店でランチや


デートで利用していた。


「中華ってどこよ?」


エスカレーターで6Fに上がると『四川豆花飯荘』と書かれた看板が見えてくる。


「ここ?しせん・・・読めない・・・」


近づくとお店の前で岡田亜希子が手を振るのが見えた。


「久美子~こっちこっち」


「ゴメン・・・遅れちゃって」


「いいの・・・先方も仕事押しちゃって30分遅刻だって~」


「そぉ・・・」


「こっちは、これで全員揃ったから・・・お店入って」


「うん・・・」


黒を基調にした落ち着いた店内、中華料理には珍しいワインクーラーがあったり、中華っぽい茶器が飾られている廊下を通って奥の個室に通される。


「先輩~遅いですよ~」


梶野美樹が笑いながらそう言った。


(彼女も・・・)


「ゴメンね・・・遅くなっちゃって」


「あれ?先輩メガネしてましたっけ?」


「ぅうん・・・」


「お化粧に時間かかってたんですか?」


梶野美樹はそう言って悪戯っぽく笑った。


私は無言のまま入り口の一番端の席に座った。


「今夜はコース料理を頼んでいるから、飲み物は好きなものを注文して」


「は~い」


「喉渇いちゃったから飲み物先に頼んじゃおっか~」


岡田亜希子がそう言って飲み物のメニューを回した。


「・・・私・・・お茶で」


「先輩・・・お茶ですか?合コンで?」


そう言って梶野美樹と隣に座って携帯を見ていた子が笑った。


「私・・・お酒弱いから・・・ゴメンね」


そう言ってメニューを渡した。


(だからこの人外してって言ったのに・・・ダサい)


梶野美樹と目が合った瞬間・・・またそう聴こえた。


「・・・だから来るのイヤだって」


そう小さく呟いた。


程なくしてビールとワインが運ばれ、私の前にはウーロン茶が置かれた。


「じゃあお先に~かんぱ~い」


岡田亜希子がそう言ってビールが入ったグラスを持ち上げた。


「今夜の会費・・・5千円ね、今のうちに回収しま~す」


(5千円・・・)


「ホントは今夜はご馳走しますって言ってくれたんだけど・・・そうもいかないでしょ~」


私は財布から千円札を5枚出して岡田亜希子に手渡した。


「ゴメンね、久美子・・・誘っておいて」


「うんん・・・いいのよ」


正直5千円は痛かった・・・けど私には新作の化粧品や今流行の洋服も必要なくて・・・そう思って納得する自分がもっと嫌だった。


「お待たせ~ゴメンね遅くなっちゃって」


右側からスーツ姿の5人の男性がそう言って入ってきた。


「ゴメン~こっちも先に飲んでました~」


そう言って岡田亜希子が立ち上がった。


そして、男性5人はそれぞれ私たち5人の前に座った。


「じゃあ、俺たちも飲み物頼んじゃおう」


そう言って岡田亜希子の前に座った、短髪で長身の男性がメニューを開いた。


結局5人とも生ビールを注文してすぐにビールが運ばれてきた。


「じゃあ~あらためて・・・今夜が楽しい会になるように・・・かんぱ~い」


その短髪で長身の男性がグラスを高く持ち上げた。


「こいつのプロジェクトミーティングが長引いちゃって・・・」


「今が一番大事なとこなんだから・・・仕方ないだろ~」


そう言って、梶野美樹の前に座った色黒のがっしりした体型の男性がビールを飲み干した。


「すみませ~んビールおかわりください」


私はそれを横目で見ながら、ウーロン茶を一口飲んだ。


私の前には、長髪で銀縁のメガネをかけた男性がこちらをジッと見つめていた。


「じゃあ~自己紹介しましょうよ」


岡田亜希子は2杯目のビールを一口飲んで皆の顔を見渡しながらそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る