第7話 僕自身は考えたくなかった
「ねえねえ、さっきから人の話ばかりじゃん。茂兄ってば。自分はどうなの? 」
葵が身を乗り出して愉しそうに訊いて来る時はぜっっったいに、彼女……
この際だ。この四人がきっちり集まって、将来の話なんて語り合うのは初めてだし、これから先あるかないか分からない。僕は本音をぶつけてみようと思った。
「僕は……社長なんて『器』『ガラ』じゃない。僕には荷が重過ぎる。本音を言うと、杉崎はお前に継いで欲しかったんだ……」
「ええぇ~!この葵ちゃんにぃ……」
「おま、お前な、冗談ぬかすなよ!コイツに社長なんて不可能だろ?会社を潰す気かよ!」
「ちょっとぉ、始兄、酷くなぁい?」
「だってお前、一年後くらいしか先の事考えられないんだろ? 会社なんてもっともっと先の事考えながら足元見続けるんだぜ?到底無理だろうが」
「そりゃまあ、そうだけど……なんかムカつく」
「茂生君は何かしたい事があったの
?」
基が心配そうな顔をしている。コイツはいつも全体的に物を見ている様だ。人の顔色も見ている。始に少しは分けてやりたい。てか、分けてやれよ。
「僕か? やりたい事……はこれと言ってないけど……」
「『けど?』」
ハモるなよ、おまえら!三人で!
「ごく普通に就職して……ごく普通に結婚して……ごく普通な人生を送りたい、な……と……」
「えっ? それって、あの法子さんと、って事? 」
お前はそっちの話にどうしても持って行きたいのな……。
「何、のりこちゃんて彼女の名前? 葵、良く知ってるな」
「そーなんだよ、始兄、聞いてくれる? 茂兄ったらねぇ、ちゃっかり塾で彼女作ってんの。隣の市まで遠出して勉強してるかと思ったらさあ」
「うるさいな!遊びに行ってる訳ないだろう!ちゃんと勉強しに通っているんだからな! ……彼女は……偶然知り合っただけで……」
実は始は全て知っている。お前役者が出来そうだな。
あ、マズい。話が法子に行ってしまった!
「……俺、初耳だ……お前良く俺に黙ってたな?」
基が心外そうに呟く。そうだよな。珍しい。いくら偶然デート中に葵と楓に発見されたからと言って……詳細を知っている始はともかく、この弟が基に黙っていたなんて。
「だって、茂兄ってば秘密主義なんだもん。喋ったら、向こう一年くらい口きいてくれなさそうだしねぇ。今暴露したのは、将来のお義姉さんになるのかなあ、って思ったからなんだ」
いや、一年なんて生ぬるい。三年はききたくない。
「あいつとはまだそんなんじゃない。僕は高校生だし、あいつはまだ大学に入ったばか……り……」
「ふうん。年上なんだ。茂生くんが年上彼女と……」
「何だよ!なんか言いたそうだな、基?」
「ん。てっきり年下の彼女かと思ったから。へえ……女子大生か……」
「近くに住んでるのか?」
……始……本当にお前、役者だな。僕はお前みたいな心臓と顔面の厚さと度胸が欲しいよ。お前は社長にぴったりだ。本社は安泰だな。
「あいつの実家はM 市だ。今は県外の大学に通っている」
「じゃあデート出来ないじゃん。彼女可哀想。彼氏は受験生だしねえ?」
「いいんだよ。もう少しの辛抱なんだから。僕の受験が終われば、そうしたらいくらでも」
「なあ、お前どこ志望だっけ? 県外か?」
……そうなんだよな……そこがネックなんだよ。
「えっ?茂兄、家を出ちゃうの?」
「兄貴は本命決まったんだ?」
ダブル弟に質問されて、押し黙るダブル兄。
俺も知りたかった。始の進路。
……僕はどうすればいいんだ。
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