第6話 普通ってなんだ

「……俺はさ、このままずっと独身で通すわけだろ? だんだん周りの奴らが就職して結婚して子どもとか孫が出来てもさ……」


 基は普通に生きて行けば当たり前だと誰しもが思い描く人生を言葉にした。

 ……そうか。葵と基には、その選択肢は無いんだ。


 「まあ、普通はな。そうだな」


 「始兄、それが違うんだってば」


 葵がフォークを振る。お前、いつからそんな仕草をするようになったんだ……?


 「何が」

 始には分からないのだろうか?


 「普通ってさあ、が考えている事でしょ?始兄が思ってると、基が思ってるって、違うワケ。みんな自分を基準に考えてるが有るんだもん。だから違うの」


 「世間一般で考えてるも有ることだしな……難しいよな。『普通』って何なんだろうな」


 僕は、始と同じ立場で、同じ様な環境にいる。葵たちも似たような状況だと思う。厳密に言えば、心が女性のコイツと基は異なるけど……。


 「自分はねえ、人の数だけ『普通』が有ると思ってるもん」

 「葵の場合は通らない方の『不通』が近くないか?」

 「るっさい、基は黙っとれ」

 「あほう。今は俺のターンなんだよ」

 「ターンて切り替わる事じゃないの? 逆じゃん」

 「ターンだって色々有るんだバカ」

 「バカだけ余分だ、ばーっか」


 ああ、本当にコイツ等は、大昔からそのままだ……周りは皆、コイツ等がデキていたんだと誤解していたもんな。夫婦漫才コンビみたいだよ、全く……。


 「それで? 基はどう考えてるんだ?」

 僕は考えたくはないけどね。将来なんてさ。


基は空になった皿を除けて、テーブルの端近くに置いた。いつの間にか、残りの二皿は綺麗に何も残っていなかった。


 「俺は消去法で行くしかないと思ってる」


 「消去法? 何、ソレ?」


 ……葵……お前、本当に分からないのか。それとも違う意味合いで聞いたのか。


 基には葵の真意が分かっているらしい。いつもの軽口が出ない。本当、お前らは……。


 「葵だって自覚しているだろ。俺たちは選択肢が狭められているって」


 基が真面目な顔をして葵を見ている。珍しいけど、茶化せない。それは始も同じだ。

 ……始は偉そうに腕を組んでいた。

 ……お前も、本当に昔から……一番偉そうだ。


 「選択肢? 自分はそんなのないもん。生きたい様に生きられれば、いいかな?って思うからさぁ。だから、来年くらいまでしか考えてないもん」


 ああ、そういう意味の『未来、将来』なのか。お前の考えは独特だから分かりづらいんだよな。


 「じゃあさ、葵は性別はどうするのか考えてないんかよ」


 始!は僕が触れたくても触れられなかった話題じゃないか!よりによってお前が振るのか……。


 葵はキョトンとした顔で答えた。


 「だから言ってるじゃん? 来年くらいまでしか考えられない、ってぇ?」


 三人ともにガクッと来た……様な気がした。


 

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