第5話 考えるまでもない状態の二人

 「将来?……それ、いつのこと? あ、このポテト、皮付きで美味しいね。粉チーズかけちゃお」

 

 最初は葵が反応した。


 「将来つったら将来だろうが。 おい、全部にかけんなよ!」

 「えええ? 美味しいのに~。 将来ぃ? 自分は一年間くらいしか考えられないよ? 」


 「短っ。お前の未来は一年かよ」

 「ええ? じゃあ、始兄はどこまで考えてるの~? じーさんになるまでぇ? ちょっと、手が邪魔っ! 」


 二人はポテトをつつき合っていて、全てに粉チーズを振りかけさせまいとする始を基が冷めた目で見ている。


 「基は? 考えてる? 」

 冷めた視線が僕に向けられた。……睨むなよ。言いだしっぺはお前の兄貴だぞ。


 「そういう茂生君は? 考えてるの」


 ……うん。そういう流れだよな。では言いだしっぺは?

 「始はどうなんだ? 」

 「は? 俺かよ! 」




 始の手が止まった。あれ?考え込むのかよ……?


 悩め悩め。僕はその隙にフルーツを頂くとしよう。


 基は始の考えている事はお見通しらしい。

 「俺は『杉崎』には入らないからな。まだ先はわからないけど、自分ちの会社には行けない。そこははっきりしているから。兄貴、後宜しくな」


 「えっ! 基も会社に入らないの?」 

 「「基?」」


 始と僕がハモった。

 「葵……お前も会社に入らないって事なのか……」


 僕が危惧していた通りだ。そこを考えたくはなかった。

 

 「何、お前ら結託してんのかよ」

 

 「はぁ? 何言ってんの、未来の本社の社長さんはぁ~このに会社員が務まると思う?」

 「葵、お前はどうするつもりなんだ? 僕一人に押し付ける気か? 」

 「じゃあ、茂兄はぁ、自分がスカート履いて杉崎行ってもいいの? 社長のおと……妹として扱ってくれるの? 本当はね、『あたし』って言って、スカートとか、ワンピとか着たいの。それでも良ければ手伝ってもいいけど……無理が有るっしょ?」


 ……そうだった。コイツは『弟でなくて、妹と思ってね』とか言っていた。同じゲイでも、基とは違うんだった……。


 「じゃ、それに付いては両親に話をつけるとして……」

 「茂兄、考えてよ? 無理でしょ? オカマがフツーに働ける会社だと思う? いくら社長の娘でもさあ」

 「お前図々しくないか、娘って」

 「うっさいなぁ。基にはわかんないでしょ、性別が間違ってんの、皆にはわかんないよ……一生……こんな気持ちなんか!」


 フルーツをフォークでグサッと串刺しにして、葵は一口で頬張った。


 「はからぁ、ひふんにはぁ、ん、っしょはら」

「飲み込んでから話せよ。わからないから」

 

 基は残ったポテトを片づけようとしていた。こういうのはコイツの定番なんだよな。残り物係。


 「んっ、だからぁ、最初っからぁ、自分には期待しないでおいてくれると有難いなぁ、って」


 ……嗚呼。こう、面と向かってハッキリ言われてしまうと……がっかりだ。


 始はフルーツの欠片を刺しながら、ちびちび口に運んでいる。何か言いたそう。でも、だんまりだ。


 「基はどうしたいんだ? 何か考えてるのか? 」

 僕は、二つの会社がこのまま僕らにのしかかって来るのを避けたかった。始はいいとしても、僕には荷が重すぎる。適材適所って言葉が有るんだ、正しい言葉だよ。

 


 基は、ポテトの皿をじっ、と見つめていた。

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