第4話 将来を考えたか?

 「あ~!やっと来たぁ~!遅いよもう!」


 案の定、葵はふて腐れていた。

 「わりぃな。急に決まったんだよ。葵がこっちに来てたの電話するまで知らなかったからさ。助かった、サンキュ」

 始が涼しい顔をして言う。よく言うよ。葵に席取りさせているからゆっくり行こうと言ったのはお前だぞ?


 「何かご褒美くれるんでしょ? 予約シートに書いてから、ここで三十分以上も待ったんだからね! 」

 コイツが僕の弟なんだよな……何かが違うと思いたい。


 「ったりめーよ。奢りだ。……おふくろの、だけどな。何でも好きな物を飲み食いして来いだとよ」

 そう言って、始が財布をチラつかせた。

 「えええ~琴子おばさん太っ腹~!はスレンダーなのにね。素敵! 」

 「調子に乗って腹壊すまでがっつくなよ」

 「そんなことしないもん。基こそ、味見したくてあちこちつついて食べ散らかさないでよね」

 「するか、アホ」


 始と僕は顔を見合わせた。

 コイツらガキの頃から全く変わらない……成長の証が見えない。もう高校生なんだぞ。


 「ほら、とっととメニュー見て注文するぞ。……そういえば。楓はどうした? 良く後について来なかったな。 」


 昔から変わらない。始と僕、基と葵に分かれて座る。暗黙の了解みたいだ。

 「楓? あの子はねえ、今頃海の上だと思うよ。体験何とかで二泊三日の船旅のヤツに行ったから。」


 葵がメニューから顔を離さずに応える。



 「え。アレに乗っているのか。乗るヤツっていたんだ」

 始がメニューを指して、基に「俺、これな」と伝えている。何故か昔から注文をまとめるのは基なんだよな。


 「そりゃいるでしょ。自分も小学生の頃はその船に乗りたかったけどさあ、くじ引きではずれちゃったんだよね。楓はラッキーだよ」


 「今だって別口のやつがあるだろう。乗りたかったら乗れるんじゃないか?」

 基が水を飲みながら、メニューを確認している。


 葵はムッ、とした表情になり、基に向かって小さな声で反論した。


 「そりゃあ、乗りたいけどさあ……基なら分かるっしょ、今までと同じように集団生活を送るのってしんどいじゃん……」


 「……」

 四人が一度に固まった。

 やはり、ゲイである事を隠しながらの集団生活とは……色々面倒くさいのかもしれないな。


 「自分はねえ、三段パンケーキとコーンスープとエスプレッソね」

 最近、葵は自分を『僕』ではなく、『自分』と言うようになった。何かが少しずつ変わって来ていた。


 「何、お前そのチョイス?」

 「さっきカラオケボックスでパスタ食べちゃったんだもの。基はなんにするの? 」

 「俺か。ドリアのドリンク付きサラダセットかな」

 「茂生君は? 決まった? 」

 「おい、茂生、ご注文はどうするだとよ。ぼーっとしてんな」

 ……ああ、僕か。

 「ハンバーグとサラダセットでライス頼む」

 もうお決まりのコース。選ぶのが面倒で。


 「お前いつもな。飽きないか? 」

 そんなにしょっちゅうファミレスには来ないだろうが。飽きるほど食べてないぞ。


 「サラダを変えているからいいんだよ」

 「ここはドリンクバーがないけど、茂生君はどうする? サラダはどれがいい? 」

 ……基、お前は始とは違うよな。面倒見がいいのか?

 「あ、じゃ、ドリンク付きでブレンドを頼む。サラダは豆腐のやつがいいかな」


 「わかった。俺は季節のサラダにしよう。兄貴は焼き肉定食だけ? ドリンクは? 」

 「 味噌汁があるからいい。飲みたくなったら追加するから」

 「ねえねえ、季節のデザートアラカルトは? それともシャーベットとかは? 」

 「……葵、お前本当に甘い物が好きだな……」


 始の言うとおりだ。パンケーキは甘いだろう。更に甘い物を摂る気か。

 「あれ? 甘い物は別腹だよね?」


 ……お前のは別腹の別腹だ!


 「じゃあフルーツアラカルトにしたら。皆で食べれば? 」

 基が言ったら皆が頷いた。


……それに追加して鳥の唐揚げとポテトがプラスされた。

 高校生男子四名では少ない方か?


 僕たちは無言で食い尽くし始めた。

時々基がそれぞれの種類ごと、味見をしたいと言ったので、基の皿の上はカオスと化していた。自分の分のドリアも三名に分けたので、何が何だか。


 「お前さあ、ソレで喰った気、するか? 一口一口で種類はあっても量がねえよな。」

 「そんなことない。 少しずつでも種類があるから腹には溜まる」

 

 いや、腹には溜まるかもだけど。始の言った意味は違うと思うぞ。


 基は味見が趣味なのか? 確かに味見は毎回何かしら欲しがっていた。


 後はフルーツとフライドポテトを残すのみとなった。

 だんだん皆が昔の、元の様に戻って来た、と言ってもたかが半年ぐらいだけど……ぎくしゃくしていたのが薄れつつあった。



 最初はやっぱり始が口火を切った。なんか役割分担てあるんだよな。


 「なあ……お前らさ、将来って考えてるか……? 」



 全員が氷漬けのように固まってしまった。





 僕は考えたくはなかった。

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