シンク7

「解いてくれ。」

抱き締められたまま僕は言った。

「待って、わかった、全部話すわ、だから、、」

「いいから解けよ!!」

僕は声を荒げた。それなりに強く。自分でも驚く程に。

カッコ悪い、なんてダサいんだ僕は。

勝手に溜めた憤りを、彼女の優しさに甘え、吐き出した。

きっと許される、そう解っていたんだろう。

「ごめん、ダサいね僕、ごめんね。」

「そんな事ないわ!こんな状況だもの、仕方のない事よ!

 リョウは気にしなくて良いの、私は平気だから!だから、、」

「ありがとう。本当に。」

遮る様に、聞かぬ様に僕は自分の言葉を吐いた。

「だけどごめんね、、、解いて欲しい。

 これを僕がお願いして縛ったのなら、僕がお願いする、解いてくれ。」

彼女は右手の包丁を落とし、膝から身体ごと床に崩れ落ちた。

嫌だ嫌だと泣く彼女に、僕は言葉を掛けなかった。

「じゃあ、戻って来て!

 約束して、絶対に戻って来るって、約束して!」

「うん、、わかった。」

彼女はにこりと笑顔を取り戻し、すぐに縄を解き始めた。

僕は、僕は嘘が上手いんだな、と思った。

「どうするの?」

解きながら彼女が聞く。

ご尤も、そりゃそうだ。

記憶のない人間が街に一人で放り出されて何が出来る。

でも僕は、自分の事を知りたくなかった。

より精確に言うなれば、今この瞬間、他人から聞きたくなかった。

大嫌いであろう自分自身を。

「家、僕の家くらい聞いておこうかな。

 君なら知ってるんでしょ?」

「うん、、、、、でもダメ、、、危ないよ。」

自分の家が危ない、広く大きく抽象的にだが、なんとなく解った。

「あと、、、ナナ、、、私の名前、、ナナ、、。」

「あ、ごめん、、ありがと、ナナちゃん。」

「ふふ、、ううん、ナナで良い。」

「わかった、ありがとナナ。」

彼女は丁度縄を解き終わると、また僕に抱きついて来た。

「行くの?」

耳元で囁く。

解っている、この子は僕の性格を、なんなら先程の嘘にも気付いているのかもしれない、それでもこうしてくれるんだ、素敵な子なんだろうな。と思う。

「うん、行くよ。」

同じ様に、僕も耳元で囁いた。

「わかった、じゃあ、殺さなきゃね。」

彼女は絡めた腕を少し強くして、優しい声で囁いた。

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シンク・シンク・シンク 罰青流 @xloa

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