シンク4

眼を閉じていても僕の脳は覚醒を解く気配は無い様だった。

そりゃあこんな状況、概ね正着だろう。

ズレているのは彼女に気を許している僕の方だ。

とりあえず脳核様の判断のお陰で冴えている訳だ、これを使わない手は無い。

考えよう、研ぎ澄まそう、思考を回せ、意識を回せ。

深い呼吸を一つ、二つ、、、すると振り返るでもなく、ふと思い出す。

そして、ゾクゾクと背中に冷気が集まって来た。

あのハンバーグ、、、何の肉だ?

記憶が曖昧な訳だが憶えているモノは憶えている。

あの肉は牛でも豚でも鳥でも羊でも馬でもましてや魚でもなかった。

記憶障害者の僕が言うのもなんだが僕は舌が良い方だ。その点には自信がある。

味は解る。それでもこの異常に気付かなかったのは彼女への揺らぎに違いない。

気を引き締めなくてはいけない、本当本気でだ。

疑心暗鬼を生ずと言うが、本物の鬼が居ないとは言っていない。

それがどんなに麗しく情深く愛らしい女性なのだとしても。

鬼は鬼。

あの肉は、、、人肉だ。

手足を縛られ自由を奪われ記憶も曖昧なイカれた世界に現れたのがド級の美女。

この非常で異常で極上な状況に付け加えて運ばれて来た料理が人肉だ。

甘かった、悠長に時間を掛けて情報だのなんだのと言ってる場合じゃない。

どうやってでも、行ける時に行く。

そうと決まれば吉時だ、勝負だ、言い包めて逃げてやる。

決心して僕はベッドの上で身体を起こした。

そこで気付く。やっと、気付く。

いつからだ?

気を引き締める?本当本気?甘々じゃないか。

考える事に集中し過ぎたのか、いやそれがもう温い。

いつから?わからない。

僕の横目に映る、閉めたはずのドアには隙間が出来ていた。

今なら解る。眼を向けずとも。

僕はゆっくり、ゆっくりとその隙間に眼を流す。

と、隙間の奥に大きな瞳がきらりと見えた。

眼が合う、隙間の奥でその瞳は大きく大きく見開いた。

「駄目よ、逃げたら。」

加えて彼女はにこりと笑った。

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