シンク3

噛み締める、噛み締める。

「うん、美味しいよ、本当に、ありがとう。」

少しづつ親しみを持つ、そう感じさせる、思わせる。

彼女は嬉しそうにニコニコ笑いながら、せっせと食事を僕の口へと運んだ。

僕は一杯の白米とハンバーグ、豆腐とわかめの味噌汁にサラダ、飲み物に緑茶と、トレイに載っていた全ての食事を平らげて満足そうな顔を魅せた。

「御馳走様です。もうお腹いっぱい。」

「そう?良かった、デザートとか食べる?」

「大丈夫、もう本当にお腹いっぱい、ありがとう。」

「ううん、わかったよ、じゃあ片付けてくるね、暴れちゃダメよ、リョウ。」

「はい。」

彼女は笑顔で部屋を去っていった。

戸が閉まる。同時に考える。

先ず、誰だ?それは二つの意味で。

とりあえず先に逃げる方法か?きっとそうだろう。

頭に浮かんだ方法は三つ、、、否、正確には四つだ。

一つ、言葉で言い包め縄を外させ力でねじ伏せ脅して逃げる。

二つ、同じ様に言葉で言い包め縄を外し隙を見て逃走。

三つ、言い包め縄を外した後時間を掛けて女を安心させながら、この部屋、あの女を観察し情報を得てから隙を見て逃走。

四つ、言い包め縄を外し、女を殺して時間を掛けて状況判断の後、逃走。

うん、一つ目が一番手っ取り早いだろうな。

他の何も気にしないのであれば真っ直ぐこれで良い、、、が、論外だな。

この状況であの女が一人とも限らない、部屋に居なくとも後ろに潜む何者かが居るかもしれない、何人いるかもわからない。

二つ目、これも対して変わらない気もする。

女の怒りを買わない様に気を付けて上手く熟す事も可能だろうが、如何せん情報が欲しい。足りな過ぎる。

そう、やはり情報が欲しい。あの女が緩いと確信し過ぎている気もするが、それを踏まえてもやはり情報が欲しい。

そうなると三か四だろう。正着だ。

うん、、、けど、、、殺したくはないな。

人を、と言うより、彼女を。

殺す算段も幾つか頭に用意したが、彼女を殺すデメリットをそれ以上に用意すれば良い。

「、、、うん、あるな、、、いっぱい、、、しょうがない、、、三だ。」

彼女に情が湧いた、そこに違論は無い、でもそれ以上に、何か胸に引っ掛かるモノがあった。僕は彼女を殺したくない。そこに特別な何かが。

「ハンバーグも食べ足りないしな。」

一番どうでも良さそうな理由を口に出し、僕はベッドの上で眼を閉じた。

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