シンク2

悦に入っていた僕の元に香しい匂いを漂わせて彼女は帰ってきた。

「出来たよ、リョウの大好きなハンバーグです!」

確かに俺はハンバーグが好きだ、だが何故知っている?

「はい、ここ座って。」

言われるがままに僕はベッドに座らせられる。

決して嫌ではない、寧ろ縛られたこんな状況にも関わらず、監禁状態のこんな状況にも関わらず僕は、狂っているのは僕の方なんじゃないのかとすら思い始めた。

「はい、口開けて、あーん。」

くそ、逆らえない、逆らいたくもなくなってるよ。

「うん、えらい、どう?美味しいかな?」

う、うま、美味過ぎる。

美味いが過ぎるぞ何者だこの女!

「どう?美味しい、、、?」

彼女は不安そうな顔で僕を覗く。

何となくわかる、この顔は、この料理が美味しいか否か、ではない。

僕の口に合ったのかどうか、彼女はその一点を気にしているのだ。

他の誰でも無い、僕の口にだけ合えば良い。

なんと献身的な、なんと美しい奉仕の心か、くそ、抱きしめたい。

もう逃げないから解いてくれ。

「美味しいよ、、、とても。」

言うと彼女はキラキラと音を立てる程に眼をキラつかせ、満面の笑みで喜んでくれた。

「良かった!嬉しい!!」

言って彼女は犬の様に飛びついて来た。

そして強く、抱き締められた。

「リョウ、大好き!」

唇の先端ギリギリまで、『僕もだよ』が競り上がり吹き出しそうなそれを飲み込んだ。危ない、完全に持って行かれるとこだった。

「あ、ごめんね、私が縛ったのに忘れて抱きついちゃった。

 痛いよね、、、ごめん。」

やはり彼女が縛ったのか、そう考えたと同時。

声色、顔色、彼女のそれを見てふと一つの思考が降りて来た。

それは確信的証拠も無く、確信的思考。

『彼女は自らの意志で僕を縛ってはいない』

僕は一瞬で冷静且つ冷酷に思考を廻らせた。

好機だ。

よく見ればわかる、いやよくよく見なくとも解っている。

隙だらけじゃないか。

確信する、、、僕はここを抜け出せる。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない、、、もう少し貰っても良い?ハンバーグ。」

「はい!嬉しい!当たり前です、リョウの為に作ったんだから。

 言ってくれればまだまだ作るから好きなだけ食べてね!」

言って彼女は僕の口に美味しい肉をせっせと運んだ。

「すごく、美味しいよ。」

「嬉しい!」

確かに美味しい、だがそんな事はもう頭には無い。

どうこの場から抜け出すか?

その一点だけを考えながら、僕は軽く笑みを溢して肉を頬張った。

それを何度も、何度も噛みしめた。

遠くで、怪物の遠吠えの様な音が聴こえた気がした。

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