シンク・シンク・シンク

罰青流

シンク1

闇、、、目が覚めると、真っ暗だった。

夜?ここはどこだ?

僕は何故だか記憶が曖昧で、脈が少し早いのがわかる。

フローリング?そんな硬さ、感触の床に僕は寝ていた。

「どこなんだよここは。」

そう小さく呟いて起き上がろうとした。

そこでやっと異変に気付く。

戦慄が、悪寒が走る。

おい、おいおいおいおいおいおい!!

僕は手足を縛られていた。

なんだコレ、おいなんなんだよこれは!

口には出せない、出してはいけない。

縛られているという事はそういう事だ。

何かで縛られた手足を解こうとするが解けやしない、解ける気配もない。

手は後ろで縛られ足は足首だけでなく膝まで縛られている。

身体を動かしてわかるのは滑りの悪い縄状のモノで縛られているという事だけだ、道具無しで外せる気がしない。

やばい、絶対やばい。

心臓の爆音だけが脳に響く。

落ち着け、とりあえず一回落ち着け自分。

冷静になんて成れやしないがそれでも考えるんだ。

ここは一体何処で、どうやったらここを抜け出せるか、考えるんだ。

僕は深い呼吸を試みた。

一回、二回、三回、すると自分の目が暗闇に慣れてきている事に気付く。

奥に少し光が漏れているのが見えた。

カーテン?誰かの部屋か?

ここが僕の部屋ではない事だけはわかる。

とりあえずここが何処なのかだけでも知る必要がある。

僕は身体を寝かしたまま、音を忍ばせながら這いずる様に光へ近づく。

息を潜め、ゆっくりと、近づく、と、、、ごんっ。

何かに足をぶつけてしまった。

瞬間。

(ガシャン!!!)

!!!

驚く声は必死で殺せた、だが意味は無いだろう、完璧にやってしまった。

机か何かに足をぶつけ花瓶的なモノでも落としたんだろう。

もしこの家に人が居たとしたら、確実に聞こえる音。

思考は止まりただただ息を潜め耳を澄ませた。

そして僕の不安は覆ることなく、部屋の外からこちらへ歩いてくる人間の足音が聞こえた。

音は案の定部屋の前で止まり、ドアは二度優しくノックされ、開いた。

(パチッ)

「うっ。」

電気を点けたのだろう、夜目に成った僕の視界は白んだ。

どんなサイコパスが出てくるのか、人間じゃないなんてことはないだろうが、21世紀の平和な日本で人間縛って監禁する様な輩、普通じゃあない。

少しは話せる相手であってくれ。

考えろ、話しながら、相手を見ながら、相手の思考、目的を。

探れ、ヒントを。

「リョウ、起きたのね、、もう、また暴れてぇ、しょうがないんだから。」

は?

「怪我してない?危ないからちょっとそっち寄って、今片付けるからね。」

溜飲が下がる、引いた血の気が身体を廻る。

女だ、しかも可愛い、ハーフアップのスタイルがまた良い。

完全に想定外、虚を衝かれた。

思考が止まる、安心して良い訳がない、けど、もうしちゃってるよ。

僕は彼女に言われた通りガラスの破片から身を引き、横にあったベッドに背をもたれた。

「もう、リョウはベッドが嫌いなんですかぁ?いつも落ちてる。

 ふふ、ご飯出来たから、これ片付けたら持ってくるからね。

 暴れちゃダメよ、良い子に待ってなさいね。」

そう言って僕に向けた彼女の笑顔には聖女の如き包容力が見えた。

ガラスの破片を拾おうと屈みながら髪を耳に掛ける仕草が女性らしさと色香に溢れ、身に着けたピンク色のエプロンは母性に溢れ、僕は自分が縛られている事等どうでも良くなっていた。

「痛っ。」

見蕩れていた僕は気付かぬ内に小さな破片を踏んでいたみたいだ。

「リョウ大丈夫?!ちょっと見せて!」

僕の右足の親指からほろりと赤い血が垂れる。

「痛い?ちょっと待ってね。」

そう言うと彼女はガラスの破片を抜き取り、徐ろに僕の右足親指を口に咥えた。

「ちょ、、、。」

「良いから、じっとしてて。」

僕の足の指は柔らかな滑らかな艶めかしい舌で舐められ、時々強く吸われる、同時に彼女の胸元も膨らみを覗かせる。

動けない。

動いて口に怪我をさせたくない、いや本心は、こんな縛られた状況で快楽を感じている。

一見すると縛られ身動きすらままならない奴隷の様な状態で、この眼の前の美しい女はその奴隷の様な僕の足を、膝を付き屈みながら舐め回しているこの不可解極まりない事実、脳が狂う程頓珍漢な目の前の真実が、僕にえも言われぬ快感を与えた。

僕の足の指を舐めながら彼女はまた髪を耳に掛ける仕草を魅せる。

SとMの両方を同時に感じる、僕は新しいパラドクスを手にしてしまった。

血を強く吸い、女はゆっくりと口から僕の指を出した。

「よし。」

言ってエプロンのポケットから絆創膏を取り出し指に巻いてくれた。

「これでよし、痛くない?」

僕は小さく頷く。

「良かった、じゃあご飯持ってくるね。」

彼女はガラスの破片を新聞紙でくるみ袋にまとめ部屋を出た。

僕は彼女の背中を見送りながら脳の片隅で、自分が縛られ拘束されている事実を自覚しつつもこんな人生もありなんじゃないか、等と狂気じみた幻想を抱いていた。

そう、幻想だ。

こんな不可思議な生活が続いていく訳がない。普通じゃあないんだ。

そんな事を意にも介さず僕は快感の余韻に浸っていた。

これから待ち受けるイカれ狂ったストーリーも知らずに。

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