009 本物の猫と猫になった人間

 菫ちゃんと一緒に、夜の散歩に出かけるのは、初めてだった、

 最初は私が猫になった日で、その時は自分が生きてた世界を把握するのに夢中だったから、猫での夜の散歩は初めてである。毛が無いから沖縄ではちょうどいい気温だ。猫は基本体温が人間より三度くらい高いからな。


 夜の世界の猫を楽しむのはこれが初めてである、暗いはずなのに、

 ほとんど見える、これが猫の目なのか、本で読んだけど、猫になったらここまで見えるとは思わなかった。昼と変わらないくらいよく見える。


 あたりに人の居ないところを選んで歩いている。元々人との接触を控えてきたからそんな感じで歩いていた。

 菫ちゃんと二人きりだと元々よく外に連れて行く時の菫ちゃんが猫の頃を思い出していたら、あの時の菫ちゃんとは全然違う気持ちなのを菫ちゃんの言葉で思い出した。


「 夜は猫の時間ですよ、特に外の世界はね野良猫の常識だよ。弓弦さん♡ 」

 最後に軽くウインクするのは、そっとしておこう。それより、野良猫の世界は厳しそうだけど、大丈夫かな〜

「 もしかして、喧嘩とか売られるのかな? 」


 ボス猫とかに、勝てる気がしない、そんな不安を知ったのか、菫ちゃんが教えてくれた。


「 夜は喧嘩はしませんよ、挨拶と情報交換かな、世間話みたいなもんです。猫の世界のね。

 だけど、私達は少し、まずいかもしれないよ、わかるでしょ人間なんだから、菫も初めてなのよ。

 話は私と同じようにできるから、そこは大丈夫なんだけれどまぁ大船だよ! 」

 


「 そこは大船に乗ったつもりでだろう! 」

 と思ったがなんか気に入ってしまった。


 猫としては菫ちゃんが先輩だから、とにかく言う事を聞きます、だって猫だから、相手が本物の野良猫さんだから、さすがにびびってます。


「 それは、間違い無く強いよ! 野良猫さん達は命がけの喧嘩だから、勝てないからね。

 それと、人間ってバレても、相手は猫として来るからね。そこは猫にも色々あるから気にしない気にしない。あとはなんとかなるでしょう、会った時は菫がまず話すから、そこは心配しないでね、どこか行きたいところでもあるの? 」


「 正直、野良猫さんと話してみたいです、どこまで、知っているのか、私を見てなんて言うのかを聞きたいんです人間としてね、それからこれから何をすればいいのかのヒントが聞ければ良いと思うけど、

 知ってればだけど。 」


「 なるほどね、そう言う事なんだね。

 じゃぁ、行こうか、猫集会と言うデートに!  弓弦さん♡ 」


 ウインクが上手くなっているのは言わないでおこう。

「 どこかわかるの? 」


「 当たり前です、猫ですからね、匂いわかります?

 猫達の匂いですけど、わかりません? それと話し声とか?

 猫になったのに直ぐにわかるようになるよ!

 私がいないとダメなんだからぁ〜 弓弦さんは菫についてきてね、恋人みたいに♡ 」


 あ〜 完全に菫ちゃんの手のひらの上だ今はね。早速見つかった。

「 こっちですよ、もうすぐ、着くけど、落ち着いてね、まずは私が話すから、合図はするわ、着いたね、集まってる。」


「 みなさんこんばんは、私は此処の縄張りの猫ではありません。

 遠くから来ました、明日には戻りますが挨拶だけでもしないと失礼かと思い来ました。それで来たんです。」


 強そうな、雄猫が答えてくれた。

「 わざわざ挨拶感謝する、ところで、後ろの猫は本物か? 」


 早速バレた、猫にはわかるみたいだ、野生の本能なのか、ごまかさずに言わないとダメだ。私が答えた。


「 違います、人間が猫になった猫です。」


「 ハッ!本当か! 何をしでかした、見たこと無いぞ、なんでだ。」


 私は簡潔に答えた、素直が一番。


「 死んで蘇り《よみがえり》ました、中身は人間です、話してくれますか? 」

 

「 興味がある、何が聞きたい、知っている事なら、話してもいい。」


 その話を聞いていた菫ちゃんは安心したみたいだった。

「 とりあえず、いい猫さんみたいですね、言ってみたら、聞きたい事あるんでしょう、弓弦さん♡ 」


 もう菫ちゃんは、みんな見てるのに、恥ずかしい!

 仕方ない気にせずいこう。

「 ありがとうございます、率直に聞きます。」


「 人間は好きですか? 嫌いですか? 」


 少し考えてくれてから応えてくれた。

「 私は好きだが、嫌いな人間もいる、全部が好きとは、君は言えるのか? 」


 確信をつく言葉だ。

「 確かにそうです、では、嫌いな人間とはどういう人間ですか? 」


 即答だった。

「 いじめる人間は嫌いだ! 」


 怒り口調になった座っていたが立ち上がった、猫だから四足だけどね!


「 偉そうに自分が一番だと思っている、私達は人間に何かしたのか?」


「よく子猫を人間の子供が何もできないのをいいことに、砂場に埋めたり、石を投げつけたり、何故いじめる? 楽しいのか? 」


 自分がいじめられていた事を思い出した。

「 それは人間の立場を利用した、自分より弱いものを見つけては、力で確かめる、その行為にはまったく意味なんてありません。私はしません、人間の代表として謝ります、すみませんでした。」


「 気持ちはわかるが、お前が謝っても解決しないだろう、理由が知りたいのだ、私達も猫同士、喧嘩はするが、生きていくためにお互いの命をかけて、ただそれだけだ、弱いものをわざと痛めつけたりはしないが、縄張りのルールは教える、子猫にはそんな事はしない!

 だが人間はするんだ子猫を捕まえて、人間は理解できん何がしたいんだ、君にはその答えがわかるのか? 」

 

 自分がいじめられていた事を思い出し、初めて言葉にした。 

「 はい、それが人間の弱点です。」


「 私もいじめられていたので、よくわかります、説明すると長くなるでので、はぶきますが意味もなく殴られたり、馬鹿にされて笑われました、助ける人は居ませんでした。」


『  悪いのは、人間です。 』


「 そこまで言うな、せめているわけではない、知りたかっただけだ、

 なるほど、弱点とは・・・ 

 そうか〜 人間は『愚かだな』 」


「 猫になってどうだ、楽しいか?  何か変わったか? 」


「 正直言って、楽しいです、あなたと話せる事が出来たのは嬉しかったです。 猫になった人間を見てどう思いましたか? 」


「 まぁ、なんというか、『ようこそ猫の世界に。』 」


「 明日には戻りますが、出会えて良かったです、突然来て話を聞いてくれてありがとうございます、それでは失礼します。」


「 おい、ちょっと待て、お前今日のお昼に、お母さんのお店に行っただろう。」


「 行きました、美味しいお店で、明日戻る前にもう一度行くつもりです。」


「 実は、そこのお店には、お世話になっているのだが、特にご飯をもらいにな。

 ずーっとお母さんの元気が無くて、理由は知っていたのだが、私には何も出来ずにいたんだが、それでも毎日行っていたら今日、凄く元気になっていた時に話ていたんだ毛の無い猫の話を君なのか? 」

 

「 ちょっと待ってください、人間の言葉がわかるのですか? 」


「 はっきりではなく、長く一緒にいる人で、優しい人間の言葉は心が通じるんだ。だから俺達を嫌っている人間は見て直ぐわかる優しさが無いから、目つきが違う。その時に言ってたんだ、俺の身体を撫でながらな。」


「 そうです、私です。お母さんが元気なくて、この子の能力を使いました。」


 菫ちゃんを前に押し出して、言った。

「 能力とはなんだ? 聞いた事がない、まあいいだろうそんな事聞いても俺達には関係ないか、そうか〜 そうだったのか、とにかくありがとう。『猫になった人間』 」


「 戻る前にもう一度行くので、何かできることはありますか? 」


「 そうだなぁ、お店を出る時に、お店の裏に来て欲しい。」


「 わかりました、ではこちらからも、『一つお願いがあります』

 これから、後、十年で人間が滅びると、言われてます。その前に何かあれば助けてもらいたいです。」

 

「 出来る事があれば、言ってくれ、猫だから出来る範囲は少ないのはせめるなよ。」


「 それでも、ありがたいです。では、次はお店の裏にですね。」


「 そうだ、お店の裏にだよ。」


 話が終わり菫ちゃんを見てみると、猫にナンパされていた、猫にモテるんだ〜 と思い、様子を見ながら戻るよって菫ちゃんに言った、菫ちゃんも直ぐに私のそばに来て、スリスリしてきた。


「私モテるのよ!弓弦さんヤキモチしてるの? 」


「 猫相手にヤキモチはしないよ。」


 確かに、菫ちゃんの言う通り、猫だからと思っていたが人間になった菫ちゃんは綺麗だからなぁ〜。 下着姿を見て喜んでいたが興奮はして無いと思う、たぶんだけど。

 考えてみると猫になってから感情が複雑になっているのは実感しているけど、私も何か変化してきているのかもしれない、そう考えながら菫ちゃんとホテルに戻ってた。



 今回の件でボス猫と話をした事で、私の何かが少しずつ変わりはじめてきた気がする、いじめを子猫にもしてる人がいる事で今猫の私が他人事に聞こえなかった。

 それが人間にとっていい事とは限らない、だが明らかに変わり初めているのは間違いない、人類にとっていいのか、よくないのか。

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