7-5 私がここにいた意味は

 2人でアレックス皇子の部屋へ向かいながらミラージュが教えてくれた。


「レベッカ様。ご存じでしたか?ついにオーランド王国が・・滅亡してしまったそうですよ。国民たちは他の国へ難民として逃げ、王家は皇帝から取り潰されてしまったそうです。」


「そう・・皇帝から・・。」


皇帝・・・。まだ一度も会ったことはないけれども・・私の母方の曾おばあ様は皇帝の娘だったらしい。オーランド王国にいた頃、自慢げに父が家臣たちに話しているのを私は何度も耳にしてきた。


「それじゃ・・お父様やお姉様たちはみんなどうしたのかしら・・?」


「それが・・・どうやら持てる財宝を持って逃亡したらしいです。多額の負債を返納する為に皇帝に命じられていたにも関わらず・・・。」


「酷い話ね・・・。王族として何の教育も受けさせなかった私を半ば脅迫してこの国に嫁がせたくせに・・。1年離婚しないでいられたらお母さまの居場所を教えると約束しておいて・・逃げだすなんて・・。」


「ええ、全くその通りですよ。これではもう約束を果たす事は望めないでしょうね?」


ミラージュも頷く。


「そうね・・・お父様が行方不明になったのなら・・私がここにいる意味は無いって事ね?もう・・義理を果たす必要はなくなったわ。」


私は後ろを歩くミラージュを見ると言った。


「私は何処までもレベッカ様について行きますよ。」


「ありがとう、ミラージュ。」


私は笑みを浮かべた―。



****


ゴンゴンゴンゴンッ!


ミラージュが乱暴にドアをノックした。


ピシッ!


ドアに亀裂が走ったが、そんな事はどうでもいい。


「誰だっ!ドアにひびが入っただろう?!」


案の定、部屋の中で喚く声が聞こえ・・・。


ガチャッ!


乱暴にドアが開けられた。


「どうも、アレックス様。」


ドアの前に立つ私とミラージュと目が合うアレックス皇子。


「ヒクッ!」


喉の奥でアレックス皇子が妙な声を上げる。まあ、それはそうだろう。アレックス皇子は胸が大きくはだけたローブをだらしなく羽織っているのだから・・中で何をしていたのかは容易に想像がつく。


「こんにちは、お部屋の中に入らせて頂きますよ。」


背の低い私はアレックス皇子の脇をすり抜けて部屋の中へと足を踏み入れた。


「お、おいっ!お前・・・勝手に人の部屋へ入るなっ!」


「何ですか?何か文句でもあるのですかっ?!」


私の背後に続いたミラージュがジロリと威圧する目で睨み付ける。


「ヒッ!」


流石は、ミラージュ。アレックス皇子は顔が青ざめる。部屋の中に入るとベッドから悲鳴が上がった。


「キャアアアッ!!あ、貴女たち・・よ、よくも私の前に平気で現れたわねっ?!」


リネンを裸の身体に巻き付けてベッドの上にいたのは、やはりリーゼロッテだった。


「それは私の台詞よ。リーゼロッテ。昨夜私にあんな事をしておいて、もうすぐお昼ご飯の時間になるというのに・・・。今も私がいる城で図々しくアレックス皇子のベッドの中にいるのだから。」


「何?あんな事?一体それはどんな事なのだ?」


ビクビクしながらアレックス皇子が質問してきた。


「知らなかったのですか?昨夜リーゼロッテは私を拉致して紐でぐるぐる巻きにした挙句、滝坪に落として殺そうとしたのですよ?」


「な、な、何だってっ?!」


アレックス皇子がますます顔を青ざめさせる。


「おや?アレックス皇子・・・顔色が悪いですね・・。ひょっとして・・私を殺すように誰かに命じたのですか?」


「ば・・馬鹿言えっ!お前にそんな真似をするように命じるはずないだろうっ?!」


やはり・・アレックス皇子は私が怖くて手が出せないのだ。


「それでは滝つぼに落とされたのに無事だった私に驚いているのですか?」


「・・・。」


すると案の定アレックス皇子は黙ってしまった。


「そ、そうよっ!大体どうして無事なのよっ!あんな滝つぼから落とされたくせに・・!」


リーゼロッテが喚く。・・ちなみに彼女と愛人たちは昨夜のドラゴンの事を覚えていない。


何故なら私がばっちり記憶を消させてもらったからだ。


私は深呼吸すると口を開いた―。


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