6-4 拍手に包まれて

「次は一体どこへ我々を連れて行こうと言うのだね?」


偉い方が先頭を行く私に声を掛けて来た。


「まあ、来ていただければわかりますよ。大丈夫です、ここからさほど遠くありませんから。場所は宮殿の敷地内ですから。」


私の言葉にお偉い方々は何か言いたげだったが、先ほどの大量の光り輝く鉱石を発見した為か、文句を言う人々は誰もいなかった。

そんな私に隣を歩くミラージュが耳打ちしてきた。


「レベッカ様・・・これは良い感じだと思いませんか?」


「ええ、そうね・・・。次も楽しみだわ。」


私はミラージュににっこり微笑んだ。




****



「何だね?ここは・・畑では無いか。」


口ひげを生やしたお偉いさんが唖然とした顔で目の前に広がる耕されたばかりの畑を見ると言った。


「何も生えていないな・・。」


「もしやあの皇女は我々に畑仕事をさせる気か・・?」


等々、背後でざわめく声が聞こえて来るけれども・・私がここへ連れてきたのは勿論彼らに畑仕事をさせるつもりではない。


「はい!では皆さん!お次は・・この耕された畑!一見何も無いように見えますが・・・実は3日前に種を植えたばかりなのです。はい、なので当然・・まだ芽が出てきておりません。ですが、私は特別にある肥料を開発致しました。」


そしてワンピースのポケットから大げさな身振りで麻袋を取り出した。さらに私はまるで大道芸人さながらの演技力で彼らに熱弁する。


「皆さん。この袋の中には私が独自に研究を重ね、苦労の末に開発をした肥料が入っております。この肥料、実は植物の成長を急激に早める効果がある肥料なのですよ。おや?そこの貴方・・・まるでそんな話は信じられないというお顔をしておりますね?ですので今からそれをここで実証してみたいと思いますっ!」


そして袋の中に手を突っ込み、肥料を手に取った。


「お願いね。」


私は手に取った肥料に祈りを捧げると、一瞬肥料は光り輝いた。うん、きっとこれならうまくいくはず。


そして丁寧に肥料をまいていった。彼らの前ではさも苦労して肥料を開発した・・何て話をしたけれども、実際はこれは何の変哲もないただの肥料。そこに私の加護を与えているだけ。しかし、私には自信があった。何故なら私の加護は絶対的なものだから―。


すると・・肥料をまいてすぐに畑に異変が起こり始めた。突然肥料をまいた場所の土がモコモコと一斉に動き始めたのだ。


「な、何だっ?!もぐらかっ?!」


「ううっ!き、気持ちの悪い光景だ・・・。」


「巨大な虫でも潜んでいるんじゃないのかっ?!」


彼らはうごめく畑を見ながら、次々と想像すると気分が悪くなるような事を口々に言い始めた。全く・・そんな類のものでは無いのに。

そしてそんな様子をただ1人、面白そうに見つめるのはランス皇子だった。


やがて・・・・。



もこっ!


突如土の中から大きな芽が飛び出してきたのだ。


「おおっ!いきなり植物がっ!」


「ば、馬鹿なっ!」


「信じられん・・・。」


御騒ぎを始める皆さん。そうこうしてるうちに、次から次へと芽は土の中から生えだし、ぐんぐん成長し・・肥料を蒔いた辺り一帯はパセリ畑になっていた。


「え・・?パセリだったの・・・?」


いやだなぁ・・パセリはあんまり好きじゃないのに・・等と思っていると、背後で拍手が一斉に沸き起こった。


「おおっ!すごいっ!」


「すばらしいっ!まさか魔法のようにあっという間に植物が成長するとは・・!」


「あの皇女様は素晴らしいお方だっ!」


やった!ついに・・・ついに私は彼らに認められたっ!思わずガッツポーズをすると、ランス皇子が拍手をしながら近づいてきた。


「いや~・・レベッカ皇女。君は本当に素晴らしい女性だね?僕の温室栽培の果物の成長速度が速いのも・・全て君のお陰だったんだね。」


「ランス皇子・・。」


するとミラージュが言った。


「ええ、当然ですわ。これがレベッカ様の力ですから。」


どんなものだと言わんばかりミラージュは腰に手を当て、身体を反らせた。


「ああ、本当に驚いたよ。どうです?皆さんも驚かれたでしょう?」


する彼らは次々と口を開いた。


「ああ、勿論だよ。」


「まさか、ここまでおやりになるお方だとは思わなかったよ。」


「レベッカ皇女様はこの国に必要な方だとつくづく思いました。」


「ええ、ええ。レベッカ皇女様を失う事はこの国の大きな損失になります。」



「それじゃ・・・私はこの国にいてもいいのですねっ?!」


彼らの言葉を聞き、思わず大声を上げてしまった。


「ああ、当然さ。レベッカ皇女・・・どうぞこれからもこの国を・・よろしくお願いするよ。」


ランス皇子は笑顔で言う。


「はい!勿論です!」


そして私は畑の中で再び拍手喝さいを浴びた。


ああ・・やっとこれで私はこの国にずっと定住する事が出来る。


少なくとも、この時まではそれを信じてやまなかった。


そう、あのメイドが現れるまでは―。

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