1-3 雑な扱い  

ガラガラガラガラ・・・・


激しく揺れる馬車の中、私とミラージュは舌を噛まないよう、振り落とされないように必死に車内の手すりにつかまっていた。それにしても何て乗り心地の悪い馬車なのだろう。船に3日間乗っていた時は乗り物酔いが無かったのに、馬車に乗っているだけで気分が悪くなってくる。

チラリと向かい側の席に座るミラージュを見ると、彼女の顔色は真っ青で我慢の限界に達しているようにも見える。

頑張って!耐えるのよ!ミラージュ!

私は心の中で必死にミラージュを激励したけれども・・。


「うぷっ」


ついにミラージュは我慢の限界に達してしまったのか・・・馬車の窓を開けると、そのまま―。



****


「も、申し訳ございません・・・レベッカ様・・・。」


木陰に止めた馬車の傍で地面に横たわったミラージュが謝罪してくる。


「いいのよ、気にしないで。それより気分はどう?」


持っていた扇子でパタパタとミラージュを仰ぎながら尋ねた。


「は、はい・・・先ほどよりは気分が大分楽になりましたが・・・。」


言いながらミラージュは私達から離れた丘の上の木陰に座り、葉巻をふかしている爺やさんを恨めしそうに睨みながら言った。


「嫌がらせですよ・・・絶対にこれは悪意のある嫌がらせです。そもそも私達2人だけを迎えの船も寄こさずに自力で来させ、しかも式にはオーランド王国の人間は誰も参加させない・・・挙句の果てが迎えに来たのは爺やさんで、しかもぼろ馬車に滅茶苦茶な運転・・・馬車酔いしたなんて生まれて初めての経験ですよ・・・。」


恨みつらみを述べるミラージュを見て私は頷く。


「うん、それだけ文句を言える元気があるなら大丈夫そうね。そろそろ出発出来そう?あまりアレックス様をお待たせするわけにはいかないものね?」


笑みを浮かべて言うと、ミラージュがムクリと起き上がって私に言った。


「レベッカ様・・・本当にアレックス様はお待ちになってると思いますか?」


「え?」


「考えてもみてください。これはどう見ても意図的に悪意を持っての行動としか思えませんよ。どうです?今ならまだ間に合います。幸い迎えに来たのは年老いた爺やさんです。ここは一発ぶちのめして、気を失ったところに馬車を奪って逃走した方が良いと思いませんか?」


ミラージュはさりげなく物騒な事を言ってくる。


「う~ん・・・だけど・・それは無理じゃないかしら・・?」


私は首を傾げながら言う。


「な・・何故ですかっ?!」


「だって・・・キング家が私の支度金を相当支払ったみたいだから・・ここで逃げたら私達・・ただで済むとは思えないもの。」


「ですが、レベッカ様!レベッカ様は一切支度金を受け取っていないじゃありませんか!なのでドレスを新調することも出来なかったのですよ?全部上の皇女様達と陛下の懐に収まってしまったではありませんか!」


「ミラージュ・・・あんまりイライラするとお肌に悪いわ。」


「レベッカ様・・・どうしてそのように落ち着いていられるのですか?」


ミラージュは肩を落とし、溜息をつくと私を見た。


「そうねぇ・・・ミラージュが私の代わりに怒ってくれてるから・・かしら?」


大体、私は今まで真剣に起こったこと等過去に数回しかない。そして、私には怒りたくても怒れないある理由があった。何故なら怒りを抑えるトリガーが外れてしまうと、とんでも無いことになってしまうから。最も・・その事に気が付いたのは、ほんの数年前なのだけど・・・。


その時・・


「レベッカ様ーそろそろ出発いたしませんかー?」


爺やさんが大きな声で呼びかけてきた。


「な、何て勝手な人なんでしょう・・・見ましたか?レベッカ様。あの爺やさん・・自分の葉巻を5本吸い終わったから呼んでるんですよ?自分のたばこ休憩が終われば即出発するなんて・・あんな人が爺やさんならきっとアレックス様もろくな人間では無いですよ、絶対!」


ミラージュはとても勘の良い侍女。私はその言葉に一抹の不安を覚えるのだった―。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る