1-2 出迎えに現れたのは

「レベッカ様、足元にお気をつけて降りて下さいませ。」


ミラージュが船から降りる私に手を貸してくれた。


「ありがとう、ミラージュ。」


笑顔で返事をすると、若い男性船員さんが声を掛けてきた。


「お嬢ちゃんたち、大変だなぁ・・・2人きりでこの国へやって来たのかい?ほら、荷物だよ。」


「まあっ!お嬢ちゃんなんて・・・モガッ!」


私は咄嗟にミラージュの口を押えると言った。


「まあ、荷物を降ろして頂いてどうもありがとうございます。女2人でどうやって荷物を降ろそうか困っておりましたので。」


そして丁寧に頭を下げる。


「ハハハ・・・こりゃ、参ったな。こんなに丁寧にお礼を言われたのは初めてだ。それじゃあな。」


船員さんは私たちの荷物・・・・2人わせて10個分のトランクケースを足元に置くと船に乗り込んだ。


「どうやらこの国で降りるのは私達だけの様ですね。」


ミラージュが耳元で囁いて来る。


「ええ、そうね・・・。」


やがて―。



「出向だー!イカリを上げろーっ!」


威勢の言い船長さんの声が船から聞こえた。そして数少ない船員さん達が甲板から私達に手を振ってくれる。


「みなさーん、お元気でーっ!」


私とミラージュは3日間お世話になった船員さん達にハンカチを振って別れを告げた。船員さん達は笑って船の上から手を振ってくれる。


ボーッ・・・・


やがて蒸気船蒸は大きな汽笛を鳴らし、大海原へと消え去って行き・・・。

全く人気の無い桟橋の上には私とミラージュだけが取り残された。


青い空に白い雲・・・遠くで聞こえるカモメの鳴き声に寄せては返す波の音・・・。


「ミラージュ・・・素敵な国よねぇ・・・。」


うっとりと海を見つめているとミラージュが言った。


「レベッカ様!何を呑気な事を言ってるのですか?!か、仮にも一国の皇女様が他国から輿入れに来たと言うのに・・・何故、誰も迎えに来ないのですかっ?!おかしいと思いませんかっ?!」


ミラージュは怒って地団太を踏んでいる。


「落ち着いて頂戴、ミラージュ。もしかして私達は日程を間違えて来てしまったのかもしれないわ。」


すると背後で声が聞こえた。


「いいえ、合っておりますよ。レベッカ皇女様。」


驚いて振り向くと、そこには黒い燕尾服を着たお爺さんが立っていた。・・それは何とも桟橋に立つには不釣り合いな恰好だった。


「あの、貴方は・・・?」


「はい、私はグランダ王国の第二皇子であるアレックス様の爺やでございます。」


「じ、爺や・・・。爺やさんがお迎えに来てくださったのですか?」


「はい、私が1人で御者台に乗って馬を駆り、お迎えに参上致しました。」


そして深々と頭を下げる。


「な・な・何ですって~っ!いくら何でも酷すぎますっ!明日レベッカ様はご結婚されるのですよ?!普通は・・皇子様が直にお迎えに来るべきではありませんかっ?!」


ミラージュは顔を真っ赤にして怒りをまき散らしている。


「お、落ち着いて・・ミラージュ。あまり怒ると頭に血が上ってしまうわよ。」


何とか落ち着かせようと宥めるとミラージュが言った。


「レベッカ様っ!く、悔しくは無いのですかっ?!一国の皇女様なのに・・このような扱いはあまりに酷すぎますっ!」


「そうねぇ・・・。歓迎されてないって事かしら・・・?」


言いながらチラリと見ると、明らかに爺やさんの肩がビクリとなった。


「あっ!今見ましたか?レベッカ様っ!爺やさんの肩が跳ねましたよ!きっと図星なんですよ!」


ミラージュは興奮が止まらない。


「い、いえ!これは年のせいです!年を取ると時折身体がビクリとなるのですよ。」


「落ち着いて、ミラージュ。アレックス様は信頼している爺やさんを迎えに寄越してくれたのだから・・きっと迎えに来るのが恥ずかしかったのかもしれないわ。シャイな方なのよ、きっと。」


そう、悩んでいても仕方が無い。きっとあの国で暮らしていた頃よりはきっとマシな生活が送れるはずよ。



この時の私は・・・まだ今回の政略結婚に密かに希望を持っていた―。





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