エピローグ さよなら全てのロミオゲリオン
「……これは一体どういうコトかのぅ、白雪ぃ?」
「……皆目見当もつきませんねぇ」
「あばッ!? あばばばばばばばばっ!?」
とある夏休みの昼下がり。
今日も今日とて30度を超える炎天下の中、我が安堂家のリビングはクーラーも
「??? マリア? 白雪? 何をそんな所で突っ立っている、早く中に入れ、暑いだろうが」
そう言ってあぐらを組んで座っている俺の膝の上にちょこんっと乗っかり、体重を胸に預けてくるジュリエット様。
そんな彼女の視線を追えば、我がリビングの入口にて真っ白な私立セイント女学院の制服を着こんだ美少女と、落ち着いた色合いのメイド服を身に纏った美人が凍てつく波動と共に瞳孔をガン開きにして俺たちを見つめていた。
そうだねっ! 我が主の妹君であるマリア様と、我が偉大なる後輩、真白たんだね!
2人は今にも目から冷凍ビームを出さんばかりの勢いで、俺たちを凝視し続ける。
きっと今の2人なら、我が偉大なる従兄弟、大神金次狼の夢である『目から破壊光線』も出せるに違いない。
「のぅ、ロミオ殿? 妙に姉上がロミオ殿に懐いておられるように見えるのじゃが……妾の目の錯覚かのぅ?」
「おかしいですよねぇ? 真白たちが出て行く1週間前のお嬢様は、ゴミ虫を見るような目で毛嫌いしていたハズなんですけど……一体どんな催眠術を使ったんですか、センパイ?」
「いやっ!? これは、その、あのっ!? アババババババババッ!?!?」
お、おかしい? 俺は何も悪いことをしていないハズなのに、気がつくと壊れたロボットよろしくお口から『アババババッ!?』しか出てこない!?
2人の放つ絶対零度の雰囲気のせいで、部屋の温度が体感的に10度くらい低いような気がしてならない。
もう寒いのなんのっ! そりゃ口も回らなくなりますよ旦那ぁっ!
初めての
「2人とも何をカリカリしているだ? おまえ達だってロミオの秘密を知っているんだろう?」
「ロミオ殿の秘密って……まさかっ!?」
「お、お嬢様!? もしかしてっ!?」
「あぁ、全部ロミオから聞き出した。おまえ達もボクにナイショで1枚噛んでいたらしいな?」
言外に俺がアンドロイドではなく、人間であることを知ったと2人に伝えるジュリエット様。
途端にマリア様とましろんの目が吊り上がり、「説明しろっ!」と言わんばかりに強い光が宿る。
それはさながらオタサーの姫を囲む童貞のように、目をギラギラさせながら野獣の如き瞳で俺を見据えるではないか。
う~ん、これ下手な事を言ったら俺、殺されるんじゃないの? と言わんばかりのギラつき具合だ。
「いや、お嬢様が秘密を知ったのにも、ちょっとしたTOLOVEるの結果と言いますか、その……ね?」
分かるでしょ? みたいなニュアンスを込めて2人を見返し……アカンッ! 殺人鬼の目ぇしてるよこの娘たち!?
同じホモサピエンスに向ける瞳じゃないよ、アレ!?
俺が2人からサッと目を逸らすと同時に、マリア様とましろんは烈火の如くジュリエット様に詰め寄った。
「あ、姉上っ!? 何をのほほんとしておるんじゃ!? ロミオ殿は姉上を騙しておったんじゃぞ!? 即刻打ち首獄門にするべきじゃ!」
「そ、そうですよっ! マリア様の言う通りですっ! 今すぐセンパイを血祭りにあげるべきですっ!」
「おっとぉ? これって『安堂ロミオを吊し上げようっ!』とかそういう催しだったっけ?」
2人は『ペテン師を殺せっ!』をキャッチフレーズに必死の形相でジュリエット様に言い
どんだけ俺をぶっ殺したいんですか? アマゾネスさんですか?
「落ち着けおまえたち。罪を憎んで人を憎まずだ。それに将来の伴侶をこの手にかけるのは、いくらボクとて少々気にとめるぞ」
「む、ぐぅ……。あ、姉上がいつの間にか聞き分けのいい大人に――んっ? ちょっと待ってくれ姉上? 今なんと言ったか?」
「『落ち着けおまえたち。罪を憎んで――』」
「いやお嬢様、そこではありません。その後です」
「なんだ? マリアも白雪も怖い顔をして? そんなにボクとロミオが婚約するのがおかしいか?」
「「「……はっ?」」」
意味が分からず俺とマリア様とましろんの口から間抜けた声がこぼれ落ちた。
えっ? 今、何て言ったこのロリっ
固まる俺を無視して、マリア様が思い出したかのように再起動する。
「あ、あぁっ! あの文章を別の目的言語へ変換するあのっ!」
「それは翻訳だ」
「違いますよマリア様。ほら、あのプルプルしている食物繊維が豊富の」
「それはこんにゃくだ」
ジュリエット様のおっしゃった意味を理解したくないのか、らしくもなくボケ倒すマリア様と我が愛しの後輩、真白ちゃん。
そんな2人にトドメを刺さんばかりの勢いで、ジュリエット様はその愛らしい唇を動かした。
「『翻訳』でも『こんにゃく』でもない。婚約だ、婚約。ボクはロミオと婚約することを決めたぞ」
「「「こ、婚約っ!?」」」
ジュリエット様の爆弾発言により、つい目を剥き、声を荒げてしまう俺たち。
「いやなんでセンパイが驚いてるんですか?」という我が後輩のツッコミを華麗に無視し、俺は膝の上でリラックスしているジュリエット様を見下ろした。
ちょっ、あの? 俺、そんなこと一言も聞いてないんですけど!?
と、我が主に向かって口を開こうとするのだが、それよりも早く各方向から白魚のような美しい指先が俺の襟首を掴んだ。
「こ、ここ、こんにゃくっ!? 翻訳っ!? 婚約っ!? だなんて妾は聞いておらんぞ!? どういうことじゃ下郎!?」
「ま、真白そんなコト一言も教えて貰ってませんよ!?」
「
「「説明しろ(して)っ!?」」
首よ、外れろっ! と言わんばかりにマリア様とましろんがマイボディを左右にガクガクと揺らしてくる。
お、お願いだから揺らさないで!? 出ちゃうっ! 口から魂がまろび出ちゃう! ピ●コロ大魔王みたいになっちゃう!?
「せ、説明しろと言われましても、自分も今聞かされた所でしデデデデデデデデデッ!? む、むしろ教えて欲しいくらいでズズズズズズズズッ!?」
「フーッ!? フーッ!?」
「ふぁ●く」
怒る猫のように鼻息を荒くし、その眩いばかりの金髪をスーパーサ●ヤ人のように逆立てるマリア様と、今にも中指を勃起させそうな我が後輩。
ちょっと真白ちゃん? 言葉遣いが下品でしてよ?
マリア様とましろんはしぶしぶといった様子で俺の襟首から手を離すと、「どういうことじゃ、姉上?」「どういうことですか、お嬢様?」と2人同時にジュリエット様を射竦めた。
ジュリエット様は2人の放つ覇気を華麗に受け止めながら、さも当然のように、
「言葉通りの意味だ。ボクはロミオと結婚する、今決めた」
「そ、そんな!? ムチャクチャですお嬢様っ!」
「し、白雪の言う通りじゃ! そういうのは2人の意志を確認し合って、慎重に決めることであって、ノリと勢いで決めるモノではないぞい!」
「そうですよっ! 大体センパイの意志を無視して勝手に決めていいんですか?」
「ふむ……確かに2人の言い分も一理あるな。よし」
ロミオ、とお嬢様は俺の名前を呼ぶなり、潤んだ瞳で俺の顔を下から覗きこみながら、子犬が飼い主に甘えるような声を出してきた。
「ボクと結婚してくれ」
「いやあの、お嬢様? それは、ほ……本気ですか?」
「ボクはいつだって本気だ」
そう言ってまっすぐ俺を見据えるジュリエット様だが……本当にいいのだろうか?
身分とか歳の差以前の問題で、我が伴侶となる女性はおぞましい性生活を送るハメになるのだが、本当によろしいのだろうか?
具体的に『ナニをするの?』と聞かれれば言葉に詰まるが、とりあえず上級国民しか味わうことが許されないと言われている絶技・赤ちゃんプレイをチャンレンジする所存だ。
俺がまごまご言い
「ロミオくんはボクと結婚するのは……嫌?」
と言った。
うるうると瞳に涙を溜め、男の庇護欲をそそる表情で俺を見上げるお嬢様。
心無しか架空のイヌミミとシッポもシュンとしているような気がしてならない。
本来の俺であれば万難を排してでも首を縦に振っている所なのだが……マリア様とましろんの『テメェ、分かっているだろうな?』というジャックナイフのような鋭い視線のせいで首を動かすことが出来ない。
ここで『結婚しましょうっ!』とか口にすれば、間違いなくこの2人によって我が家は殺戮パーティー会場へと化してしまうだろう。
お嬢様を悲しませてしまうのは心苦しいが、背に腹は代えられまい。
俺は申し訳なさそうな顔をつくりながら、心の中だけで『結婚しましょう』と呟きつつ、
「結婚しましょう」
と言った。
……ほんと思ったことをすぐ口にしてしまうこの性格をなんとかしないとなぁ。
「よしっ、なら結婚だ!」
「ロミオ殿ッ!?」
「センパイッ!?」
ふざけんなッ! と言わんばかりに、再びマリア様とましろんの指先が大蛇のように俺の襟首を捉えた。
「ちょっと可愛く迫られただけで何をコロッといっておるんじゃ貴様ぁっ!?」
「ブチ殺しますよセンパイ!?」
「サーセンっ!」
「謝って済むならポリスはいらないんですよっ!」
「白雪、鈍器を持ってくるのじゃっ! この下郎の頭をスイカに見立ててかち割ってやろうぞっ!」
「かしこまりました、すぐ用意いたしますっ!」
「いやぁぁぁぁぁっ!? 助けて弐号機ぃぃぃぃっ!?!?」
俺が我が
零号機のジャミングから解放されて以来、弐号機は「不甲斐ねぇ……」と言って俺の部屋に1人閉じこもっていた。
なんでももう1度己を見つめ直すために、筋トレ休暇を欲しいとのことらしい。
ジュリエット様はこれを
結果、俺は部屋と寝床を失い、ジュリエット様のお部屋と化しているママンの寝室で共に寝泊まりするハメになっているのだ。
それから何故かママンの部屋からここ最近行方不明だった俺のパンツたちが発見されるという事件が発生したが……まぁ今は脇に置いておこう。
「? ロミオ殿の部屋から紙が出てきたぞい?」
「あっ、もう1枚出てきた。なんですかセンパイ、ソレ?」
「ロミオ、読んでやれ」
「はい、お嬢様」
俺はお嬢様を膝の上からどかし、扉の下からにゅっ! と出てきた2枚の紙切れを拾いあげ、全員に聞こえるようにその妙に達筆で書かれた文字を読み上げた。
「『プロテイン(バニラ味)所望』『サバ缶もセットでお願いします』ね。なるほど、なるほど……自分でやれやぁぁぁぁぁっ!?!? おい出で来い
「お、落ち着けぇぇぇっ!? 落ち着くんじゃロミオ殿ぉぉぉぉぉっ!?」
「せ、センパイっ!? その手に取ったティッシュの箱で何をするつもりですか!?」
「……ふぅ、今日もいい天気だ」
「ジュリエットお嬢様っ!? お嬢様も窓の外なんか見ていないでセンパイを止めるのを手伝ってくださいっ!」
ティッシュの箱を片手に荒ぶる俺の身体に抱き着くマリア様とましろん。気のせいか手つきがいやらしい気がしてならない。って、ちょっとぉぉぉっ!?
「ちょっ、誰ですか!? さっきから俺のB地区ポイントを的確にコリコリしている人は!?」
「わ、妾じゃないぞい?」
「ま、真白でもありませんよ?」
「なんで一目で分かる嘘を吐くの? この手、どう見てもマリア様とましろんの手ですよね? ってぇ!? ドサクサに紛れてどこに手ぇ入れようとしているんですか!? ちょっ!? そこは流石に洒落にならないですって!?」
「よいではないかぁっ! よいではないかぁっ!」
「大丈夫ですっ! 天井のシミを数えていたら終わるんでっ! 全部真白にお任せくださいっ!」
「き、貴様らぁっ! ぼ、ぼぼ、ボクのロミオに何をするだぁぁぁぁっ!?!?」
カッ! と目を見開き、
どったんばったん大騒ぎするモンタギュー姉妹と我が後輩。
すっごーいっ、君はキャットファイトが出来るフレンズなんだね!
とか心の中で呟きながら、俺は明後日の方へと視線を向けた。
――さて、その後の俺とジュリエット様を中心に巻き起こる恋のデルタ・ハリケーンについては、このお話の主旨からはみ出てしまうので、控えようと思う。
みんなもそんな
なんせ成就した後の恋物語ほどクソつまらないモノはないのだからね。
ただ、今、俺が言えることは1つだけ。
「おいコラッ、おまえ達!? 誰の許可を得てボクのロミオに引っ付いている!? 離れろ無礼者どもっ!」
「言っておくがな姉上っ! 妾はロミオ殿が姉上の婚約者だなんて認めておらんからなっ!」
「ほ~らセンパイ? ここ弄られるの好きですよねぇ~?」
「「何をしている白雪ぃぃぃっっ!?!?」」
『プロテイン(バニラ味)はまだですか?』
「(ガチャッ)颯爽退勤、パパ参上っ! お待たせロミオ、愛しのパパ上が帰って――なんじゃぁこりゃあああぁぁぁっっっ!?!?」
「……ダメだこりゃ」
今日も今日とて俺の周りは騒がしく、退屈しているヒマがない。
お・し・ま・い♪
とある理由でお金持ちの家に売られた結果、天使のように愛らしいお嬢様のレンタル彼氏になったお話 けるたん @kerutan
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