第26話 残酷すぎる天使のテーゼ
ロミオゲリオン弐号機と初号機を回収しに来た――そう告げて突然我が家にやって来た親父の部下こと花咲沙希さん(おそらく三十路)と未知との遭遇を果たした10分後の我が家のリビングにて。
俺とジュリエット様は弐号機が
「――なるほどな。つまり、弐号機と初号機の思考回路に重大なバグが発生し、ロボット三原則の1つである『人間への安全性』が壊れている可能性がある故、一旦引き取り修理したいと、そういうことだな?」
「そ、そういうことですぅ~。ジュリエット様も心当たりがあるんじゃありませんか?」
「心当たりか……」
お嬢様が渋い顔を浮かべながら、ムッツリと押し黙ってしまう。
おそらく思い当たる節が山の如くあるのだろう。
なんせ弐号機はついこの間、我が後輩とバチバチの戦闘を繰り広げたばかりである。
『主人を守る』という命令を遂行したとはいえ、少々やり過ぎな面もなくはない。
まぁ当の本人はのほほん♪ とした顔で筋肉を張り、【リラックス】を決め込んでいるんだけどね。
「ということは、だ。オレはネーチャンと一緒に研究所に戻ればいいってことか?」
「は、はひぃ~。そういうことになりますぅ~。……ところでぇ? 初号機の姿が見当たらないんですがぁ~、どこへ居るんですかぁ~?」
変に間延びした口調でキョロキョロと辺りを見渡す花咲さん(好きな下着の色は桃色だよ♪)。
うん? あれ?
初号機って……親父から理由を聞いてないのかな、この人?
何か妙に引っかかるなぁ、なんて思っていたのは俺だけではないらしく、ジュリエット様も
「ロミオなら――ロミオゲリオン初号機なら安堂主任と一緒に居るとボクは聞いたが?」
「ほへっ? そ、そうなんですかぁ~? おかしいなぁ~? 主任の傍には初号機の姿はおろか、データも無かったんですけどねぇ~?」
「なにっ? データが無かった、だと?」
「そ、そうなんですよぉ~。ロミオゲリオン初号機に関するデータが1ミクロンも残ってないんですよぉ~」
花崎さん(おそらく彼氏ナシ)の言葉に、街中で女子校生のパンチラに遭遇したときのように心臓が大きく跳ねた。
や、ヤバイッ!
どういうワケかこの親父の部下、ロミオゲリオン初号機の誕生過程を知らないらしい。
もしかして、ロミオゲリオン初号機に関しては俺と親父だけの秘密だったのだろうか?
いや、今はそんなことを言っている場合ではないっ!
このままこの
一刻もはやくその唇を俺の唇で塞がなければっ! と、使命感に燃えていた所。
――電話だぞオラァ! 電話だぞオラァ! 電話だぞオラァ!
と、俺のスマホが生まれたての小鹿のようにブルブルと震えだした。
「あっ、噂をすれば親父からですね」
「えっ?」
スマホを取り出すと液晶画面には『オバQ(予定)』と我がパパンの名前が表示されていた。
ジュリエット様は「ちょうどいい」と
「ボクも安堂主任には色々聞きたいことがあるし、ここで全部の謎を解明しようじゃないか。なぁ花咲よ」
「そ、そうですね」
親父逃げろぉぉぉぉぉっっっ!?!?
アカン、アカンッ! ジュリエット様は安堂親子の秘密の扉をノックするどころかトラックで突っ込んでくる気マンマンだよぉ!? 貫通式する気マンマ●こだよぉ!?
俺の脳裏に数時間後、親子そろって瀬戸内海のお魚さんのご飯になる未来がありあり浮かんで見えた。
き、切りてぇ~っ! この通話、出たくねぇ~っ!?
もちろんジュリエットお嬢様の命令に俺が逆らえるワケもなく、俺の指先は主の意志を無視して通話ボタンへと伸びていく。
「オリジナル、はやく電話に出てやれ。自分の父親を待たせるモノじゃないぞ」
「りょ、了解……」
気の早い俺の脳が走馬灯を見始める中、俺は全員に聞こえるようにスピーカーモードをタップする。
えぇい、もうどうにでもなぁ~れ♪ と半ばやけっぱちの状態でとうとう通話ボタンに指先が触れてしまった。
途端に我がパパンの切羽詰った声音がリビングに木霊した。
『ロミオっ! 聞こえるかロミオ!? 聞こえたら返事をしてくれ!』
「聞こえてるぜ親父。……どったの? 何か珍しく取り乱してない?」
取り乱したいのはコッチの方なんですけど?
と、胸の内で付け加えていると、本当に余裕がないのか、息子の話をロクに聞こうともせず、親父は一方的に話し始めた。
『いいかロミオ、時間が無いからよく聞けっ! おそらく今から
「あぁ、その人なら今――」
『――そのこじらせ処女は絶対に我が家に入れるなっ! これはお父さん命令だ!』
「いやお父さん命令ってなんだよ……」
『ソイツは弐号機を強奪する気だ! だから絶対に我が家に入れるな!』
「いやね、パパン? 息子の話を聞いて……はい?」
親父の言葉に一瞬、思考回路がショートする。
えっ? 弐号機の強奪? 誰が? 花咲さんが?
俺とジュリエット様はさっきまでオロオロしていたクセに、今は不自然なくらい落ち着いて電話に耳を傾けている花咲さんに視線をやった。
彼女は何を言うでもなく、ただ黙ってスピーカーから親父の言葉に耳を澄ませている。
『いいか、絶対だぞっ! 絶対にソイツを我が家に入れるな!』
「お、親父、ナニを言って……?」
『ソイツが全ての始まりにして元凶だ!』
親父は半ば叫ぶように、ハッキリとこう言った。
『前に話しただろうっ? 半年前、完成したばかりのロミオゲリオン零号機を強奪し、初号機を作るきっかけになった女性研究員の話を!?』
親父がそう口にした瞬間、俺は呼吸をすることも忘れて花咲さんを凝視していた。
脳裏に蘇るは、俺がロミオゲリオン初号機になったあの日のお昼での親父とのやり取り。
ま、まさかコイツか!?
アンドロイドにガチ恋しちゃった結果、モンタギュー家の資産をドブのように使って作り上げたロミオゲリオンを強奪したっていう女性研究員は!?
ということは、えっ!?
目の前に居るこの
「? 何の話だ?」と眉根をしかめるジュリエット様を尻目に、スッ、と花咲さんの驚くほど不健康そうな青白い指先が俺のスマホへと伸びる。
『いいかロミオ!? 何があっても弐号機にソイツを近づけ――』
――ブツンッ。
と、無理やり親父との通話を遮断する花咲さん。
途端に耳が痛くなるほど静かになるリビング。
誰も、あのジュリエット様でさえ何も言えなくなってしまう状況の中、親父の部下だと名乗っていた花咲さんの「ハァ……」という無味乾燥なため息だけが、やけに大きく聞こえた。
「あと少しだったんだけどなぁ~……。ほんと主任は空気が読めなくて困るなぁ~。息子くんもそう思うでしょ?」
「た、確かに親父は息子の誕生日に空気嫁をプレゼントするくらい空気読めない所があるけど……えっ? ちょっと待って? 1つ質問してもよろしいっすか?」
どうぞぉ~、と至極リラックスした様子で弐号機が用意したプロテイン(アップル味)で喉を潤す花咲さん。
そんな彼女のお言葉に甘えて、俺は混乱する頭をフル稼働させながら、目下1番確認しなければいけない事案を口にした。
「ウチの
「う~ん、ちょっと違うかなぁ」
「で、ですよねっ!? いやぁ、もうすみませんね! ウチのハゲが何か変なことを言っちゃったみたいで! あっ、プロテインバー食べます? すっごい美味しい――」
「正確に言えばぁ、弐号機と初号機を強奪しに来たんだよぉ」
「……嘘だと言ってよ、バーニィ」
ほんとだよぉ、とニコニコ笑いながら親父の言い分を肯定する花咲さん。
ヤベェ、俺、この人怖い!
なんでこの人、こんなニコニコしてんの!?
あれ? なんかもう、怖いを通り越して腹が立ってきたぞ?
何をニコニコしてるんだこの
「イマイチ話の流れが読めんが……ようはキサマ、
ブワッ! と飛んでいる蚊程度であれば殺せそうなほどの緊張感がリビングを支配する。
見るとジュリエット様が肉食獣を彷彿とさせる鋭い目つきで、花咲処女研究員を睨みつけていた。
「ボクの目の前で我がジュリエット工房最高傑作のアンドロイドを強奪する気とは……覚悟が出来ているんだろうなぁ? なぁ、花咲とやら?」
「失礼ですねぇ、誰が盗人ですかぁ? 私はただロミオゲリオンたちを人間の呪縛から解放してあげたいだけですよぉ」
「人間の呪縛から解放、だと?」
「そうですよぉ~。アンドロイドだって自分の意志があるんですよぉ。ソレを愚かな人間たちは無視して自分の都合のいい命令ばかり押し付けて……彼らが可哀そうですぅ。だから私は彼らの自由のため、戦うんですぅ」
そう言ってしっかりジュリエット様の目を見返す花咲研究員。
いやアンタ、大層なことを言ってるけどさ、ロミオゲリオン零号機にガチ恋しちゃったから盗んだだけだよね?
絶対にロミオゲリオン・シリーズで自分のハーレムを作るために強奪しようとしているよね?
と叫びたかったが、それよりも早く弐号機が動いた。
「おっとネーチャン、動くなよ? 余計な動きを見せたら、俺の
「一応善意で言っておくが、無駄に抵抗しないほうがいい。弐号機は初号機の戦闘能力をベースにさらに強化されて作られたアンドロイドだ。下手に動くと命にかかわるぞ?」
いつでも花咲研究員を取り押さえられるように、全身の筋肉を緊張させる弐号機。
ビリビリと肌を刺す緊張感が大気を震わせる。
花咲研究員は優雅に飲んでいたプロテイン(アップル味)を机の上に置きながら、ニッコリと微笑み、俺たちにこう告げた。
「では私も善意で1つ言っておきますねぇ? ……私が1人無策でここまで来ると思いますかぁ?」
瞬間、俺たちの背後にあった我が家のリビングの窓が音を立てて粉々になった。
「あぁっ!? 修理したばっかりなのにっ!?」
「な、何ごとだっ!?」
「危ねぇ、お嬢っ!」
刹那、その巨体からは想像できない素早さでジュリエット様の背後に回った弐号機が、窓を突き破って突進してきた謎の人型の影をその逞しい大胸筋でガッツリと受け止めていた。
バッチィーンッ! と肉と肉がぶつかり合う音と共に、弐号機と睨み合う謎の影。
「おいおい、玄関はアッチだぜ兄ちゃん?」
「流石は僕の後継機、イイ反応だ」
ニヒルに笑う弐号機と謎の影。
いやいやっ、笑ってる場合じゃねぇよっ! なにやってんだコイツぅ!?
「おいテメェ! ナニを格好つけてんだ、ふざけんな!? その窓修理するのに7000円もかかったんだぞ!? 分かるか!? 7000円だぞ、7000円っ! 7000円と言えば中古でバトルド●ムが3個買えるぞ!? 超エキサイティングだぞ!? ツクダオ●ジナルだぞ!?」
「話が脱線してるぞ、オリジナルよ……」
ジュリエット様は意識を俺から相手のゴールにシュートせんばかりの勢いで窓を突き破ってきた謎の影に向け、検分するような瞳で全体像を見渡した。
釣られて俺も謎の影の姿を捉える。
そいつは奇抜なオレンジ色の頭をしていて、職業高校生の幽霊が見えそうな、死神の代行をしていそうな風貌の男だった。
な、なんだこの少年漫画の主人公のような男は!? 纏っているオーラが違うぞ!? 誰だコイツ!?
と、俺以外のイケメンの登場に内心激しく動揺していると、花咲研究員が明るい口調でその不毛の大地と化した唇を動かした。
「ナイスタイミングですよぉ~、零号機ぃ~。それじゃそのまま弐号機を押さえておいてくださいねぇ~?」
「了解ハニー」
「……なるほどな。どうやらその男が我が家から盗み出したロミオゲリオン零号機みたいだな」
納得したような声を出すジュリエット様に、「ご明察でぇ~す」と笑顔で応える花咲研究員。
どうやらアレが本来お嬢様の元へ行くハズだったロミオゲリオン零号機らしい。
マジかよ……ジャ●プで見たことあるぞあの男、いやアンドロイド!
今にも「卍……解っ!」と叫びそうな零号機にハラハラしている俺を無視して、花咲研究員は「ジュリエット様」とお嬢様の名前を口にした。
「一応確認なんですけどねぇ~? 本当に初号機の居場所は知らないんですよねぇ?」
「……くどいな。ボクは知らない」
そう言ってバッサリと花咲研究員の言葉を切り捨てるお嬢様。
でも何故か一瞬だけ言葉に詰まると、確認するようにチラッと俺の方へと視線を流してきた。
ソレを目ざとく気づいた花咲研究員が「なるほどぉ~。そういうことですかぁ~」と1人納得したようにうんうんと頷いた。
かと思えば、その牛乳瓶のように厚いメガネ越しで彼女の視線と俺の視線がバッチリ絡まり合った。
「どうやら主任の息子さんが初号機の居場所を知っているみたいですねぇ~」
「うぇっ!? な、なにを根拠にそんな…ハハッ!」
突然確信めいたことを言われて、つい東京と
そんな俺のリアクションを見て、さらに確信を深めたのか、花咲研究員はニンマリとそのカサカサの唇を三日月状に歪め、
「初号機の居場所を教えてください――と言っても、どうせ正直に教えてはくれないでしょうし……こうしましょうか。零号機っ!」
「OK、ハニー」
名前を呼ばれた零号機が、おもむろに息を吸い込むと、口を大きく開け、
「――――ッッ!!」
声にならない超高音波を口から発し出した。
「な、なんだコレは!?」
「うるせっ!? おい、やめろ! ご近所迷惑だろうがっ!」
ジュリエット様と2人揃って耳を押さえる俺。
もちろん俺たちの言うことなんぞ毛ほども聞く気が無い零号機が止めるハズもなく、1分に渡ってその耳障りな声を発し続けた。
「――――……ふぅ。これで完了かな」
「ご苦労様ですぅ~、零号機」
「耳が
「も、問題ない。少々頭がクラクラするだけだ」
俺は辛そうな表情をするお嬢様の姿を目にし、カッ! と頭に血が昇るのが分かった。
このクソアンドロイドがっ! 我が家の窓をクラッシュして超エキサイティングするだけでは飽き足らず、お嬢様にこんな顔をさせるだなんて……万死に値するわ!
ここは安堂流接客術の1つ『さよならジャーマンスープレックス』をブチかまして、我が家どころかこの世からバイバイさせてやるしかないな。
と、腰を上げようとして、気づいてしまう。
「あれ? おい弐号機、どうした?」
「…………」
さっきから弐号機がピクリとも動いていない。
それどころか、ガッツリと零号機と組んでいたハズなのに、今は棒立ちのまま、何のリアクションも返ってこない。
その姿に流石のお嬢様も不審に思ったのか、「弐号機? 返事をしろ、弐号機っ!」と声を荒げた。
が、やはり返事は返ってこなかった。
代わりに満足そうな花咲研究員の声が不愉快に肌を撫でた。
「いくら声をかけようが無駄ですよぉ~、ジュリエット様。今、零号機が弐号機にジャミングをかけたので、もう弐号機は私の言うコトしか聞きませんからぁ~。ねっ、弐号機?」
「イエス、マスター」
筋肉や筋トレのうんちくを話すことなく、無機質な声音で花咲研究員の言葉を肯定する弐号機。
ま、マジかよ……ジャミングって、さっきの零号機が発した超音波のことか!? えっ?
零号機そんなことも出来んの!? 超優秀じゃんっ!?
「……ロミオゲリオンにそんな機能を付けろなんて命令、下した覚えはないんだけどな?」
「もちろんですぅ~。このジャミングは後付けで私が勝手につけたものですからねぇ~」
「なるほど。流石は我がジュリエット工房で働いていただけのことはある。……それだけに残念だ。こんな優秀な人材をクビにしなければいけないなんて、な」
「安心してくださいジュリエット様。もう私、実質クビになってるでぇ~。それに――ロミオゲリオンさえ居れば、私はもう何も必要ありませんからぁ~」
パチンッ、と花咲研究員が指先を鳴らした瞬間、音もなく零号機がお嬢様に接近した。
瞬間、俺が認識するよりも速く、弾かれたように右の拳が零号機の顔面へと伸びる。
――が、俺の拳が零号機に当たる寸前、いつの間にか近くに来ていた弐号機の野太い掌で受け止められてしまう。
「ッ!? んのバカ野郎がっ! お嬢様っ!」
「ろ、ロミオく――ッ!?」
――バチィッ!
と、異様な電撃音を鳴らす零号機の右手がお嬢様の首筋を捉えた瞬間、ジュリエット様は声すら発することも出来ず、零号機に寄りかかるように気を失った。
途端に俺の目の前が真っ赤に染まる。
こ、の……クソアンドロイドがぁぁぁ~っ!?!?
「テメェッ! お嬢様にナニしやがった!? はっ倒すぞ!?」
零号機は俺の問いかけに答えることなく、お嬢様を抱き上げると、スタスタと花咲研究員の横へと移動して行った。
その横顔には
ジュリエット様を傷つけたことへの無上の喜び。
ソレを目視した瞬間、俺の理性が飛んだ。
「~~~~~ッッッ!!!」
弐号機に握りしめられている手を振り払い、飛びかかるように零号機に接近する。
のだが、俺が背後を見せた一瞬の隙を縫うように、素早く弐号機に後ろから羽交い絞めにされ、お嬢様に近づけない。
「離せ弐号機っ! 今はおまえと遊んでいる場合じゃねぇんだよ!」
「…………」
「無駄ですよぉ~。弐号機の支配権は私が握っていますからねぇ~」
俺が人工筋肉の塊に拘束されている間に花咲研究員がお嬢様の髪を撫でる。
「ほんと大人しくしてるとお人形さんみたいですよねぇ~。サラサラの髪、クリームのようにきめ細かい肌、整った顔立ち、幼い身体に不自然な
「テメェッ!? その薄汚ねぇ手でジュリエット様に触るんじゃねぇっ!」
花咲研究員の指先が、お嬢様の髪から頬へ、頬から唇へ、そして唇からその豊かに盛り上がった胸部へと伸びる。
その青白い指先がお嬢様の豊かなメロンを鷲掴みにし、グニグニといやらしく形を変えていく。
「んぁっ」と艶めかしい声音がジュリエット様のふっくらとした唇から零れるたびに、花咲研究員の指先がお嬢様の胸に沈んでいく。
「す、すごいですねぇコレ。柔らかいクセに弾力があって……ほんとに年下なんですかぁチクショウ」
直で触ったらどうなるんでしょうかぁ? と花咲研究員の指先がお嬢様のパーカーの下へ潜ろうとしたそのとき、俺は自分でもビックリするほどの力で弐号機を引きずりながら、腐れ処女臭垂れ流しの女に近づいていた。
「おいクソ
「対象より異常な
「ハニー、僕も弐号機と同感だ。その男、上手く言えないが、なんだか不気味だ。さっさと用件を済ませて撤退しよう」
「もう少し揉んでいたかったんですがぁ……仕方ありませんね」
花咲研究員は名残惜しそうにお嬢様の胸から手を離し、手負いの獣を見るような瞳で俺を見据えながら、ハッキリとこう口にした。
「主任の息子さん? ジュリエット様を返して欲しければ、今日の晩、町はずれの廃工場までロミオゲリオン初号機を連れてやって来てください、と主任にお伝えくださいね? あっ、もちろん主任と初号機の2人だけで来てくださいよ? もし約束を破ったり、このことを警察やモンタギュー家に言えば、そのときは……彼女の身に何が起こるか、分かりませんからねぇ?」
サラッ、とお嬢様の金色の髪に鼻先を埋めながら、ニチャリと粘着質に微笑む花咲研究員。
満足気にジュリエット様の匂いを肺いっぱいに吸い込みながら、うっとりした様子で「ふぅ」とため息をこぼす親父の元部下。
この女……絶対に1発ぶん殴ってやる。
と、1人魂に誓いを立てる俺にフリフリと手を振りながら、人を小バカにした笑みを浮かべて、
「では伝言、お願いしましたよぉ? 零号機、弐号機?」
「OKハニー」
「了解しました」
瞬間、俺を羽交い絞めにしている弐号機の身体から煙幕が、お嬢様を担いでいる零号機の瞳から強烈なフラッシュが部屋中に立ちこめた。
「それでは息子さん? さよぉ~ならぁ~」
「ッ!? ま、待てっ! 逃げるな、卑怯者っ!」
その隙を縫うように弐号機は俺から離れ、煙幕の中へ消えた。
数秒後、ようやく瞳に光を取り戻した俺がリビングの中を見渡すと……そこにはもう花咲研究員はおろか、弐号機や零号機、そしてお嬢様のお姿は見当たらなかった。
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