第7話 ロミオゲリオン:破
デート。それは『交尾してい~い?』とお互いに確認し合う、下半身の異文化交流を前提とした卑猥極まりない儀式である。
当時5歳だった俺と金次狼に、我が叔父、大神士狼さんがドヤ顔で言い放ったロクでもない名言の1つだ。
おそらく避妊の大切さについて教えたかったんだろうが、何故わざわざ金次狼ママンの目の前で5歳児に言い含める必要があったのか……それは永遠の謎だった。
多分『下半身の異文化交流』って言いたかっただけなんだと思う。
ほんとあの時は自信満々に
何事も自信に満ちた人間というのはカッコよく見えるものだ。
まぁ、その30分後、「子どもになんてコトを教えてるのよ……」と
用は根拠の無い、無意味な自信でも、自信を持っている人間はカッコいいのだ。
だから、ジュリエットお嬢様の隣を歩くのであれば、例え無理やりだろうが自信を持って歩くべきだ。
なんて1人覚悟を決めていた日曜日の午前10時20分。
【汎用ヒト型決戦執事】人造人間ロミオゲリオンとして居られる最後の1日。
俺は執事服に身を包み、メイド服を着こんでいる我が後輩ましろんと、お嬢様を御見送りするべく玄関で2人仲良く並んでいた。
「それじゃ行ってくる。屋敷のことは頼むぞ2人とも」
「かしこまりました」
「行ってらっしゃいませ、白雪様」
ジュリエット様は珍しく青を基調としたサマードレスに、白いサンダル、そして腕時計やバックなど上品に纏め上げられた小物類を持って、プルプル田中ちゃんが運転する車へと乗り込んでいく。
今日は風が強いのか、サマードレスとよく似合っている金色の髪が風に靡いて、ふわっ、とシトラスと香りが鼻腔をくすぐった。
そのまま俺たちの方へは振り返ることなく、ジュリエット様を乗せた車は発進する。
車の後頭部が見えなくなったのを確認して、俺は顔を上げると、横に居たましろんが「ふぃぃ~」とオッサン臭い声をあげた。
「いやぁ、今日のジュリエット様、女の真白から見ても、ビックリするくらい可愛かったですねチクショウ」
「確かに。夏の妖精って言われても信じちゃうレベルで可愛かった――って、えっ? 『チクショウ』?」
何故か
だがましろんの言う通り、今日のジュリエット様はとびきり可愛かった。
夏の妖精といえば、パッツパツのホットパンツにナマ足魅惑のマーメイドだが……うん、なるほどな。どうやらジュリエット様は夏の妖精であると同時に、マーメイドだったらしい。
結論、超可愛いですっ! ナ~イスぴちぴちピ●チぃ~!
「それにしても、今日のジュリエット様、やけに気合が入ってましたよね?」
幼少期ロミオ少年の心を鷲掴みにした名作アニメの名前をこっそり口にしていると、風に靡かないように色素の薄い髪を片手で押さえるましろんが、不思議そうにポショリとこぼした。
本来であれば、こういう風の強い日はひとりT.M.Revolutionごっこを
「そうか? いつも通りだろ?」
「いやいや、いつも
「か、考えすぎだって。単にそういう気分だったんだろうよ」
不審そうに去って行った車の方角を睨みながら、はて? と首を傾げる我が後輩。
そう、ジュリエット様は今日、調べモノをするべくモンタギュー家の本邸で1日過ごす……コトになっている。
もちろん、そんな予定はない。
なんせ今日は――
「おっとぉ。そろそろ時間だ。俺も着替えて行かなきゃ」
「あっ、そう言えばセンパイも今日はお出かけでしたっけ?」
「お、おう。久しぶりに親父と、な」
「ふぅぅ~ん……」
さも自然な感じで会話したハズなのに、何故かましろんから疑惑の瞳を向けられてしまう。
う~ん、美人に睨まれると怖いなぁ。俺がドMなら今頃感謝の言葉をぶつけている所だ。
背中から溢れ出る冷や汗を悟られないように、いつもの軽口を心がけながら、俺は浮気Gメンのごとき鋭い視線をぶつけてくる可愛い後輩に声をかけた。
「ど、どうした? 先輩の顔面があまりにカッチョイイから見惚れちゃったかぁ?」
「……怪しい」
「えっ!? あ、怪しい!? ナニが!?」
「なんだか今のセンパイ、超怪しいです。……真白に隠し事とかしてませんか?」
恋愛ゲームの告白中に、「俺も、愛してるよ」と
「か、隠してねぇよ!? 俺が可愛い後輩に隠し事だと? HA☆HA☆HA☆ そんな不誠実なマネをするワケがないじゃないかっ! この紳士の俺が!」
「……今日はよく喋りますねセンパイ?」
お嬢様も居ないので、素の口調で喋り続ける俺を、何故かシラーッとした眼つきで見つめてくる我が後輩。
ちょっ、やめて? そんな目で見ないで。孕む……。
「あっ、あぁ~っ! もうこんな時間だぁっ! いっけな~い☆ 約束に遅れちゃ~う♪」
「…………」
いっそげぇ~♪ と何か言いたげなましろんをその場に残して、パタパタと自室へと引き返すナイスタフガイ、俺。
何とも自然な形でその場を離脱することに成功した俺は、素早く自室へと駆け込み、テキパキと来ていた執事服を脱ぎ、あらかじめ親父に頼んで用意して貰っていた私服へと袖を通した。
黒を基調としたジャケットにジーンズと、普段なら絶対に着ないカジュアルな装いだ。
「ふむ……おかしい所ナシ!」
姿見でドン小西ばりのファッションチェックを完了させ、クルリと身を翻し、机の上に置いていた小物類へと手を伸ばす。
財布はまぁジャケットの内ポケットにでも入れておこう。スマホはジーンズのポケットで、マリア様からいただいた懐中時計(時価30億円)は……落としたら大変だから置いて行こう。
というか、この懐中時計だけで俺と親父の生涯年収を軽く上回ってんだよなぁ……。
「よしっ、
「……じぃぃ~」
ロミオ、いっきまーすっ! と言わんばかりに自室の扉の方へと振り返ると……何か居た。
廊下の向こう側、こっそり扉を開け、その隙間からまっすぐコチラを覗き見ているメイド服を着こんだ謎の存在が、そこには居た。
いやまぁ、1人しか居ないんだけどね。
「な、ナニやってんのましろん? そんな所で?」
「……怪しい。やっぱり怪しい」
「いや、今のチミにだけは言われたくないなぁ」
自分の今の状況を思い返してごらん? 不審者丸出しだよ?
と、ツッコんでやろうかと思っていた矢先、何故か湿った眼差しのまま、音も無く我が後輩が自室に滑り込んできた。
「センパイ、絶対何か真白に隠し事をしてますよね?」
「し、してない、してない! というか真白ちゃん? とりあえず、鼻血、拭こっか?」
「あぅぅ……むぅぅ」
一体いつから覗いていたのか、彼女の愛らしい鼻から溢れ出る情熱をティッシュで拭いてあげる。
ましろんは俺にされるがまま、大人しく鼻血を吹いてもらいながらも、瞳は不満そうに俺を見つめ続けるばかりだ。
「はい、拭けた。それじゃ先輩はそろそろ行くわ。お仕事頑張ってたら、おみあげ買って帰ってあげるから。ね?」
「……バニラアイスでお願いします」
「りょ~かい●ポ」
いじけたような表情を浮かべる後輩の頭をポンポン撫でてやりながら、俺は急いで玄関へ
その間もましろんは恨めしそうな視線のまま、しずしずと俺の後ろを子犬のように着いてくる。ちょっと可愛いじゃねぇか。
でもごめんな? ましろんとマリア様には絶対にナイショだって、ジュリエット様から固く口止めされてるから、さ。
悪いが、おみあげで勘弁してくれ。
そうっ、何を隠そう今日は――
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