勇者の俺は魔王との決戦直前でパーティ全員を追放し、魔王と一騎打ちする事に決めた。

ちい。

「悪ぃけどよぉ、お前ら追放だ」


「俺一人で充分なんだよ」


「足でまといのお前らは、さっさと故郷に戻れ」


「これはせめての選別だ」


「今までパーティで貯めてた分、全額だ。黙って持っていきやがれ」


「じゃあな、もうあうこたぁねえだろう」







「やっぱり一人で来たんだね」


「あいつらはもともと異世界こちら側の人間だからよ。転生者俺らと違ってあいつらを待ってる恋人や家族がいるんだよ」


「そうね……私達は転生者あちら側だからね」


勇者魔王お前は、たった二人だけの転生者余所者だからな」


「そうね……勇者と魔王私たちだけが転生者余所者だからね」


「あいつらはこんな所で死んじゃ駄目だ。死ぬのは俺だけで良いだろう?」


「貴方……死ぬ気なんだ」


「俺を殺せば、お前は元の世界あっちに帰れるだろ?」


「……馬鹿なの?貴方を殺して、元の世界あちら側に帰ってどうするの?それに……貴方を殺した私は……死ぬまで悔やみ続けるわ。それに、私が元の世界あちら側に戻ったとしても、私が死ななかったせいで、魔力は残って、魔族達にこの世界が滅ぼされるのよ?」


「そう……今の今までは俺はお前に殺されようと思っていた。だけど俺は、ここに来て、情けないが、お前から殺される事を……迷っているんだ」


「迷っている?」


「俺はね……パーティあいつらと旅してて、少しだけこの世界が好きになってたんだ。お前が元の世界あっちに残っても魔族たちの力は衰えないからね。それじゃ、駄目なんだ」


「なら……勇者貴方魔王を殺せば良いわ。そしたら、魔族も滅んでこの世界が平和になるし、貴方は元の世界あちら側に帰れるじゃない」


「それは無理だ。理由はお前と同じだよ。俺達は物心ついた時からいつも一緒で……小学校から大学……そして、やっと結婚して、子供も出来て……孫も生まれて……還暦も一緒に祝って……それなのに……お前を殺してまで、一人で元の世界あっちに戻ろうなんて思わない。俺達はずっと一緒に生きてきたんだから」


「そう……元の世界あちら側でも転生先こちら側でも……私たちの縁は強すぎるみたいね……で、どうするの?お互い、このまま、二人してここから逃げることなんて出来ないのよ?」


「なぁ……俺と一緒に死んでくれないか?」


「……もしかして、禁呪あれを?」


「そうだ……勇者だけが使える禁呪。俺は、お前に殺されたいと思っていた。だけど……この世界を守りたいとも願ってしまった。俺の……最後の我儘だ」


「良いわ……どうせ魔王には勇者貴方は殺せない……一人だけで戻りたくなんかない……だって……もう何十年も寄り添って……ずっと貴方を愛してきたんだから」


「……ありがとう」


「当たり前じゃない……私たちは共に生きて、共に死のうって……約束したんだから」


「転生さえされなかったら、老後の平和で穏やかな日々を二人で過ごせたんだろうけどな……」


「えぇ……でも、そのお陰で私と貴方の縁の強さを知る事が出来たわ……多分、この縁の強さで、来世でも一緒になれるわ」


「俺もそう願うよ」


「さぁ……共に……」


「あぁ……俺と出会ってくれてありがとう。俺を選んでくれてありがとう。俺と歩いてくれてありがとう」


「私も貴方にたくさん感謝しているわ……」


「「愛してる」」







「おじいちゃんとおばあちゃん……笑ってるわ……」


「本当ね……あの事故から二人とも目を覚まさないけど、幸せそうに笑っているわね……」


「もしかしたら……天国に旅立つ前にまた、一緒になれたんじゃない?……二人とも、とても仲のいい夫婦だったし……」


「うん……」


「さよなら……おじいちゃん、おばあちゃん。天国でも仲良く二人で過ごしてね」


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勇者の俺は魔王との決戦直前でパーティ全員を追放し、魔王と一騎打ちする事に決めた。 ちい。 @koyomi-8574

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