第376話 超越者
「神官ってこんなこともできるのかよ...。ヤバすぎじゃね?」
「常時HP回復、死亡時自動蘇生、上限を超えたレベルの上昇。大判振る舞いだな」
「それに相手は強制的なレベルダウンを喰らっているようです」
「それらは光と闇魔術の神髄です。ボロボロですね、ゼロ」
自身と周囲の状況を確認していると私の師、リーンさんが傍に来ていた。出会った時と変わらない法衣を身に纏い、その手には如何にも強力そうな聖書が握られている。
「さてあの悪魔は君たちがやりますか? 私の見立てでは勝てないと思いますが」
「アーサー、どうする?」
「確実に仕留めなければワールドクエストが達成できませんから私はこの方に頼るのが無難だと思います」
「我は戦えればそれでいい」
「俺も賛成だ。今の状態でも勝てなくはねぇだろうがゼロの回復を待っていたら何が起こるか分からねぇ」
「そう言う訳です。師匠、お願いします」
話し合った結果、悪魔の討伐は師匠を頼ることになった。本音を言えば私たちでヤツを倒したいのだが黒炎の影響で万象夢幻が全て発動してしまい10分は魔術を使用することが出来ない。10分の間、ヤツの猛攻を防ぐのは無理があるだろう。
どうも今は狐の少女、師匠と同じ聖魔典管理神官のカグラと言うらしいが、そちらに意識を持って行かれているので奇襲は出来るかもしれないが。
「良い判断です。君たちはまだまだ強くなる。それこそあの悪魔を軽く倒せる程には」
そう言って師匠は悪魔に向かって歩き出した。手に持った聖書が浮かび上がり、ページを捲ると光魔術が発動する。
「レジスト・マジック、レジスト・フィジカル、セイクリッドヘイロー」
2つの光が師匠に吞み込まれ、天使のような光輪と翼が生える。その翼はお飾りではなく、翼本来の力を発揮した。空中に飛び上がった師匠が悪魔の眼前に辿り着く。
「貴様、小娘の傍らにいたやつか。神官が近づいて来てどうする」
「私はどうも魔術が苦手でして」
「ほぉ、そうか!」
悪魔が魔術陣から炎の槍を飛ばす。高熱量の炎が空気を熱しながら師匠を襲うが師匠は余裕そうに澄ました顔でその魔術を見ていた。
「
「な、にが!?」
空中に生まれた白銀の盾が炎を防ぎ、放射する熱量すら包み込んで一条の軌跡となり悪魔を穿つ。攻防一体となった魔術に悪魔は右半身を消し飛ばされた。だがそれも影がヤツの身体から染み出して直ぐに再生してしまう。
「強化之王」
一言、師匠が呟き、そして視界から消え失せる。
「ッァア!?」
気づけば悪魔は地面に叩きつけられていた。その横には師匠がおり、拳を振り下ろす。拳が悪魔の胴体を撃ち抜き、ヤツの左半身が欠ける。そこに師匠の蹴りがヤツの頭部を捉えた。
悪魔は蹴りをギリギリのところで躱したが風圧により体勢を崩す。そこに追撃が行われる。避けることは不可能だと悟った悪魔が靄を生み出して抵抗を示す。しかし師匠の攻撃は靄すらも貫いて悪魔の身を削った。
「そのなりでここまでやれるか! 良いだろう、貴様はこの手で殺してやる!!」
悪魔は立ち上がると靄で生み出した武具を手に取った。魔術しか使わなかった悪魔が武器を持つ。ヤツの戦闘能力の高さは私たちも知っている。6対1でもどうにか互角の強さだった。それがさらに強化された状態で師匠と1対1だ。
「なってませんね」
師匠が構えを取る。圧倒的な圧力を生み出す悪魔と相対しても余裕の笑みだ。そればかりかヤツより師匠の方が全てをねじ伏せる重圧を放っていた。
両者が共に駆けだす。先に攻撃を繰り出したのは悪魔だ。得物の分だけ間合いが広い。
戦斧が振り抜かれ、師匠は半身になって避ける。そこに2本の剣が薙ぎ払われる。半歩退き、間合いから逃れ、しかしそれより長い槍が突き出される。
地面が爆ぜて師匠がヤツとの距離を詰めた。槍が師匠を刺そうとするが身体に触れた瞬間、砕け散る。
「ッ!!」
師匠の間合いに入った悪魔が両腕をクロスして防御の構えを取るがお構いなしに師匠が殴りつける。ヤツの両腕が爆ぜ、師匠の追撃が決まる。またしても身体の半身が消失した悪魔は身体から染み出る影を師匠に向ける。それを迎撃しようと殴りつけるが影には罅が入ることが無かった。
「最上位悪魔の思念体ですか。少量でコレとは...」
「効くか! ならこれで終わりにしてやろう!!」
師匠に影での攻撃が効くと考えた悪魔が自身の身体を変化させる。6本全ての腕が影に呑まれ、漆黒の鞭となった。空気を裂く音を立てながら複雑な軌道で師匠に迫る。
「栄耀の書、
師匠の傍に光の魔法陣が構築される。その魔法陣にどんな効果があるのかは分からない。それでも師匠の動きがさらに良くなったのだからパラメータ強化系の魔法の可能性が高い。
動き出した師匠を一撃目以降目で追えなくなった。衝撃音が鳴り響くと悪魔から影が1本消えて、また破砕音が響けば影が砕ける。それが数度起こり、ヤツの腕は全て失せた。
「貴様、超越者かぁあああ!!」
悪魔が右半身だけ影で形を変えて巨大な咢を模る。半身だけなのは影の力が弱まっているからなのか。
「私が超越者? 恐れ多いですよ!」
貪欲な咢を前にして師匠は腰を下ろし、右拳を引いて渾身の一撃を放った。バキリとたててはいけない空間の軋みを引き起こしながら衝撃波は咢を砕き、悪魔を貫く。
「喰ラェ、クラェエ! ミタサレルマデ喰ラエェエ!!」
悪魔本体が灰となって消える最中、ヤツの身体から染み出すように漆黒の靄が弾き出される。その靄は先ほどまでいた影に似ているが比べるまでもない強力な力を放っていた。
「超越者とはあのようなバケモノのことを言うんですよ」
「
漆黒が暴虐の限りを尽くそうと力を溜める。そこに光を呑み込む柱が起った。
「世界に個として認められるバケモノですよ」
音もなく完全に悪魔を葬り去った狐の少女は得意げに腕を組んで頷いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます