第377話 旅立ち

 悪魔との戦闘から二日が経った。昨日はAWOがアップデートのためログインできなかったがカグラさんが悪魔を倒してから私たちプレイヤーと住民の奮闘の甲斐あって王都に攻め込んできた殆どの魔物を討伐することに成功した。

 知恵の回る魔物は悪魔がやられると早々に撤退していったが他の魔物はそうはいかない。悪魔の脅威がなくなっても千を優に超える魔物は残っていた。それでもカグラさんが施したバフは強力であり、変異種にすら協力することで倒すことが出来た。

 そして魔物が尽きかけた時、アナウンスにてワールドクエスト達成の通達が入った。そこでは貢献度などが発表され、その中に私の名前もあったのだが今は置いておこう。


「あれが魔道艇か。デカいな」

「ゼロは宗教国だっけか?」

「ああ、師匠に会いに行く予定だ」


 悪魔を倒して直ぐに師匠たちは帰ってしまったが予定通り宗教国の首都で待ち合わせることになっている。あの悪魔との戦闘について色々聞きたいことがあるので向こうに着くのが待ち遠しい。

 それと師匠は私の同期になる人物もそこで紹介するようだ。セリアンス・キャットの女性とは聞いているがどうやら師匠には私の趣味がバレているのかもしれない。帰り際にしつこく付き纏わないようにと軽く注意を受けてしまった。


「俺は残るけどなんかあったら呼んでくれや」

「お前は嫁さんの相手してやれ」


 この国では行動を共にした私たちだがここからは別行動となる。聖と一刀は連合国、ロードは魔術王国、レオは技術帝国、不知火はここ中央王国だ。暫し一人旅が始まるが会おうと思えばこの面子には何時でも会える。それこそ現実世界リアルでもたまに飲み会をするほどだ。


「俺は早く獣大陸に行きてぇ!」

「それは無理だよ。今回のアプデで追加されたのは中央大陸の国だけだからね。他の大陸は次のアプデ待ち」

「そんなん分かんねぇだろ! 俺も狼の獣人になって今度こそ悪魔をボコしてやるぜ!!」


 レオは狼の獣人になることを目標としていたがたまたま王都に来ていたルドルフさんから有力な情報を貰った。それは獣大陸に複数ある里の一つに神狼の獣人がいるという話だ。そして獣大陸へは技術帝国から出向する魔道艇に乗るのが手っ取り早いらしい。


「にしてもあのルドルフって人が王国騎士団の副団長だとはな。お前の人脈どうかしてるぜ」

「そうですな。ゼロ殿の人を引き寄せる体質はなかなかですぞ」


 ロードたちが話すように始まりの街でたまたま出会ったルドルフさんはこの国の騎士団でも2番目に権力を持つ人だった。そんな人が何故始まりの街で屋台などを開いていたのか謎だが話しを聞くに訪問者の素行を調べていたようだ。

 ルドルフさんは王都に悪魔が襲来した時も始まりの街におり、そこでも魔物の進行があったがプレイヤーが街を守るために協力しているのを見て王都に帰還したようだ。彼の話を聞きながら同じ日本出身の私は少し申し訳ない気持ちになってしまった。


「あ、僕たちはもう行けるみたい。それじゃあね」

「俺は暫く聖と行動を共にする予定だが他の国にも立ち寄る。そん時は情報屋を紹介してくれ」

「また難しい頼みだ。出来たらな」


 連合国に向かう魔道艇が到着し、聖と一刀がこの国を発った。それから暫くして魔術王国行きの魔道艇も着陸してロードとも別れを告げる。


「今度は私か。向こうで何をするかは聞いていないが恐らく長居することになるだろう。こっちに来るときは案内くらいしよう」

「おう! 狼の獣人に成れたら行くぜ!!」

「お前もあの神官と同じ道を進みそうだな。近接戦特化の神官があんなに強いとかバグだろ、もう」


 宗教国行きの魔道艇に関するアナウンスが流れ、それに乗るためにレオと不知火に別れを告げる。私を除いてこの面子で師匠の戦いを間近に見た不知火は殴り神官の強さに気づいたようだ。


「乗車券をお見せください」

「これを」

「はい、大丈夫です。それではいってらっしゃいませ!」


 最後は受付の女性に見送られて魔道艇へ乗り込む。内部は思ったより広い。それこそ大型のフェリーに乗っているかのようだ。

 ここから数日、空の旅を楽しみながら目的の地へと向かう。現実世界の時間とリンクした旅路だが個室もあるので久しぶりにゆっくりしようと思う。


「ゲームの中なのに少し疲れたな」


 思い返せばここ最近は戦ってばかりだ。それもこれも師匠に出会ったせいだ。師匠から課せられた修行を熟すために魔物と戦い、終わったかと思えばPKや悪魔とも戦った。AWOがサービスを開始してからまだ3週間も経っていないのだから驚きだ。


「これは...」


 ふと動き出した魔道艇の窓から外を見る。眼下に広がる光景は絶景の限りを尽くしていた。小さくなる王都、それにダンジョンの街も見える。そしてそれらと比較しても巨大でいまだ全貌が見えない森。それが魔の森だ。そこでスタンピードが起こったのだから万の魔物も想像がつく。

 危険で死の森とも言われる森だがこう見ると雄大な自然を感じさせ、美しいと思わせる力を持っている。いつかは魔の森の最深部にも足を運んでみたいものだ。


「本便はフィクト発ハンドゼント行きです。ここしばらくは竜害により運行を見合わせておりましたが王国騎士団の奮闘により運行を再開いたしました。また一昨日のスタンピードも乗り越え、本日は出向日和と言えましょう。それでは良き空の旅を!」


 さて次は宗教国。一体どんな出来事が私を待ち受けているだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る