第375話 第二席が命終
「低位の魔法など小僧でも消せるじゃろうて」
「適材適所というやつですよ。命終の十八番ではないですか」
「師に対して言うようになったもんじゃな。まぁ良い良い」
声の出何処を探す。拡声の魔術でも使われているのか二人の会話は全員が聞こえているようだ。私たちの前にいる悪魔も怪訝そうに首を傾けた。
「あれは...師匠!?」
「知り合いですか、ゼロさん?」
「ああ、神官としての師匠だ。教わったことは殆どないが」
「なるほど。隣の方も知り合いで?」
「いや、あの獣人はしらん」
視線を城壁まで移した処そこには私の師匠、リーン=アルテイオがいた。その横には少女程の背丈をした狐の獣人がいる。それ以外に人の姿は見えないので聞こえてくる声の主は師匠たちで違いないだろう。
「どいつか知らんが王都諸共燃え尽きるがいい!!」
悪魔が力を込めるとそれに呼応して黒炎の速度が増す。それに伴い大きさも膨れ上がり、遂には城壁など軽く吞み込んでしまう程に巨大になった。私たちには為す術などなく、ただ王都が崩壊する様を呆然と眺めるしかない。
「アーサー、残党処理の準備だ」
「...? ゼロさん、諦めるにはまだ早いですよ」
アーサーもそうは言うものの顔色は優れない。それなのに私だけはこの戦いが私たちの勝利だと確信できた。
「煌々たる赤はやはり映えるのぉ。じゃが瘴気が邪魔じゃ! 汚らわしい。
狐の少女が魔術陣を編む。それは無属性の魔術陣。春ハルさんが見せたインパクトのように派手な魔術が行使されるのかと思いきや結果は違った。ただひたすらに静寂を齎す。煮えたぎる大地、轟々と燃え盛る炎をこの世から消し去って。
「貴様、何をした!?」
「裏世界の住人にはちと難しかったかのぉ。後は小僧がやれぃ」
「では老師は魔物を倒してください」
「老骨に鞭打つでない。そんなもの兵にやらせよ」
「貴様ら何をごちゃごちゃ話している!!」
我関せずと話し込む二人にキレた悪魔が魔術を行使する。魔法でないのは先程の炎がヤツの切り札だったからだろうか。
「杜撰よのぉ。マジックキャンセル」
光の速さで打ち出された雷はまたしても狐の少女が打ち消した。不知火が受けたらHPを半分ほど消し飛ばされそうな攻撃も彼女に掛かれば欠伸をして対処できる程度の脅威度らしい。
「悪魔の本領が瘴気とはいえこの世界では魔術が主流ぞ? 散歩なら姿を見せるでないわ」
「ふざけるなヨォ、小娘がァアあ!!」
渾身の魔術が防がれ、プライドが傷つけられたのか悪魔が無数の魔術陣を生み出して狐の獣人に猛攻を仕掛けた。既に私たちのことなど眼中にない。まあ私たちはヤツの黒炎の余波でボロボロなため助かるのだが。
「膨大な魔力で力押しかの? 良い手じゃ。しかしちと工夫が足りん。
青色の魔術陣が上空と地面に展開し、事象を引き起こす。天上からは膨大な量の水が塊となって落ち、地面では大地を凍らせる一筋の氷域が生み出される。そして氷域が上空から降る水塊に触れると即座に氷結させ万里の長城並みの氷の壁を作りだした。
その壁に悪魔が放った魔術が着弾する。威力もさることながら大量の魔術を防ぐのは容易いことではないはずだ。それなのに氷の壁はヤツの猛攻を防いで見せた。
「次は妾の番じゃな?」
狐の少女の傍らに書物と水晶が付随し、共に浮かび上がる。その高さは飛んでいる悪魔を超え、きっとこの戦場の全てが見渡せていることだろう。
「
彼女の背後に12個の魔術陣が生み出され、その後各色の魔術陣が展開された。すると後に展開した魔術陣を模倣するように背後の魔術陣が色を変える。これで8色16魔術陣となり、それらの魔術陣から幻想の生物が呼び出される。
鳳凰、白虎、玄武、雷龍、白鯨、従者、天使、騎士。一体一体が強力な力を持ち、地上に降り立つと同時に魔物を蹴散らし始める。この場に降り立ったのは鳳凰、白鯨、天使の3体だけ。残りは王都の他の城壁に散って行った。それでも一体で一騎当千の働きをする味方はとても頼もしい。
「魔物を殺したところで私に効かんぞ、小娘!」
悪魔が少女に向かって吠えるが当の本人は全く気にした様子がない。ただ周囲を見渡すと少し不機嫌そうな顔をした。
「何をしているわっぱども! 此処はそなたらの土地であろう! 盾を持て! 剣を掲げよ!」
戦場で呼び出された幻獣と魔物が争う中、少女の声が響く。プレイヤーたちの士気はラストスパートだと上がり、兵士や騎士たちも出陣の意を示した。
「戦う者に命終のカグラが祝福を与えようぞ!
戦場の各地から戦士の雄叫びが聞こえる。遂に王都防衛戦、最後の戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます