第331話 村の外へ

「!?」

「ここも限界ですかね。裏に馬を用意しています」


 外から建物が倒壊する音が響いてきた。デヴィッドさんから離れてそれほど時間が経過したわけではないが遂にPKが動き出したようだ。窓から外を窺えば疎らにストーム系の魔術が展開している。


「それではモニカを頼みましたよ」


 ここに長居は無用か。私はモニカさんを担ぐとクメロさんに導かれて教会の裏に出た。外にはクメロさんの飼い馬がおり、逃走の準備は万全だ。


「ゼロさんが立ち去り次第障壁を張ります」

「分かりました。ご武運を」


 長く語ることは無い。馬に跨り私は教会を後にした。その後、ドーム状の防壁が教会を覆う。あれだけの実力を持っていてもきっとここで朽ち果てる運命にあるのだろう。そう思うと何とも言えぬ感情が私を襲う。


「現実はつくづく救えんな」


 如何にリアル志向のタイトルとは言えここまでくると何ら現実と変わらない。


「やばいな。時間を喰いすぎたか」


 風に乗ってPKたちが進軍する声が届く。デヴィッドさんによるとPKの数は40前後。しかし村を包囲するため密度は低い。これならPKたちが村に入って来る前に村から出られれば逃げ切ることも不可能ではない。


 クメロさんの馬はしっかりと調教がなされているようで人馬一体とまでは行かないが私の言うことをよく聞いてくれる。


「さて、行くか」


 腹を叩いて動くように促すと走り出す。村周りに設置されていた柵は既に所々破壊されているためわざわざ門から出ずに村を脱することが出来る。


「誰か来たぞ。馬に乗ってる」

「面倒だ。撃ち殺せ」

「りょーかい」


 走り始めて直ぐに村の柵を超えることが出来た。村の中には魔物がかなり入り込んでいたが戦わずに逃げることだけを意識して馬を走らせたおかげで戦闘は起こっていない。しかし、PKに見つかった。

 敵数は三人。前衛職二人に弓使いが一人の構成だ。馬に乗っているのは一人だけで、しかも魔術士がいないのは幸運だ。


「リリース」


 まだ距離があるうちにシールドとリフレクトを展開する。デスペナでINTが下がっているが支援スタイルの防具を着込んでいるためどうにかカバーは出来ている。それに白黒も使えるのだから最悪ゴリ押しも出来る。


「プレイヤーか? あいつ...ゼロだ!」


 PKたちに私の正体が見抜かれるが気に留めずそのまま馬を走らせる。数メートル進んだところで弓使いが矢を放って来た。アーツ無しで馬上から打てるのだからそれなりにPSが高いと見ていい。だが浮遊しているシールドを前に出して簡単に防げる。事実矢はカンと音を立てて弾かれた。


「まじで? 倒せたら有名に成れるじゃん。ちょっと死んでや。ライジングアロー」


 弓使いがアーツを使用して矢を放つ。ライジングアローは弓術系二次スキルで覚えるアーツで高速の矢を撃つ効果を持つ。高速で飛来する矢は正確に私が乗っている馬を射抜こうとした。だがシールドで防ぐことに成功する。


 クメロさんの馬は優秀だ。馬とは本来臆病な生き物であるから攻撃されれば怯えて操れなくなるものだが軍馬並みに胆力がある。ゲームだからと言えばそれまでだが。


 しかし嫌な相手にぶつかってしまった。ライジングアローの習得条件は確かスキルレベル40だ。つまり種族レベルに換算すると70を超えている可能性が高い。そうなると確実にオリジナルスキルを2つ持っていることになり、警戒すべき事項が増えてしまう。

 残りの二人も最低1つずつはオリジナルスキルを持っているので無理に突込むのは悪手になる。多少時間が掛かっても遠回りをして安全に進んだ方が良いだろう。そう考えて方向転換を指示する。


「おっと逃がさないぜ。ハイヘイトアップ」


 しかし、私の行動を見てPKが動く。プレイヤーには大して効力が無いヘイトアップも原種になら通用する。矢を撃たれPKに敵対心を抱いたのを最後その敵対心を増幅され、馬の制御が困難になった。

 出来ることなら馬を乗り捨てて走って逃げたいがモニカさんを運んでいる手前そのような無茶は出来ない。メタモルフォーゼを発動させ武器を変換する。右手には槍、私の横に聖書が召喚された。


「頼んだぞ」


 馬の首を撫でてやりながら速度を上げるように促す。一合交えて終われば良いが前衛の一人がタンク職なので厳しいだろう。場合によっては仲間を呼ばれる可能性もある。そうなれば逃げるのは至難の技になってしまう。


「しゃぁぁああ! こいや!!」


 馬を狙うように放たれる矢をシールドや槍を使って防ぎPKたちに向かって突進していると盾を持ったPKが前に出た。


「そこをどけ!」


 タンクの身体に青色のオーラが纏わりつく。発動したのはパーフェクトガードと言うアーツで強力な攻撃を喰らってものぞけらなくなると言うものだ。しかし、いくらアーツを使用したとしても100キロに近い速度で走る馬からの攻撃は防げなかった。タンクが吹き飛んで地面を転がる。


「ちっ、死なんか」

「衝撃やべぇ。だがこれでお前は逃げらんねぇよ!」


 私の足元からタンクのPKに繋がるように鎖のような模様が地面に描かれた。

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