第332話 三人組のPK
「よく聞きな。俺のオリジナルスキルは単純明快。効果は俺から離れてその鎖が切れたらお前に今までのダメージがフィードバックする。解除方法はさっきのダメージを超える攻撃を俺に与えるか、俺をこの場から動かすかだ。つまりお前に逃げ道はない」
この場では最も厄介かもしれない行動制限系のオリジナルスキルをタンクのPKが使って来た。今の話が本当だとしたらこの場から逃げられる可能性は急激に下がってしまう。強引にこの場から脱すれば私にダメージが入ると言うことだが果たしてどの程度のダメージ量なのか。それが不明のままでは逃げに徹することもまた難しい。
「理解できたようだな?」
タンクがニヤリと笑うと地面に描かれていた鎖の形状がより鋭利に変化する。さらにオリジナルスキルが強化されたと言うことなのだろう。
何が条件なのか理解できないのがつらい。このまま相手のペースに呑まれてしまえばそれこそ相手の思うつぼだ。
「ならお前を殺すまでだ」
「どうせデスペナ中なんだろ? 負けるわけねぇじゃん」
「油断するな。相手はあのゼロだからな」
馬から降りて黒茨の槍を構える。すると前衛職の一人であるPKが嘲笑うがタンクのPKに咎められた。本能に任せて突撃してくるような相手なら楽なのだが理性的で狩人のように行動するPKは面倒だ。
しかし、ヘイトが私だけに向いているようならモニカさんを逃がすチャンスになる。実際、タンクが使ったオリジナルスキルは私にしか効力がないようで地面に描かれた鎖は私にしか絡まっていない。
ただ、それで逃げられるかと言われれば難しい。クメロさんの馬が優秀だとは言えモニカさんを背負ったまま王都に向かうのは困難だろう。
モニカさんを背後に置きながらその場で魔術を用意する。このまま時間を稼がれてもまずいので白黒を使って何とかタンクだけども沈めてしまいたい。そうすれば後は弓使いに注意しておけば逃げることが出来るからだ。
「パラライズ」
「効かねぇよ。アーツブレイク!!」
自ら距離を詰めて来た剣士に対してパラライズを放つがオリジナルスキルだろう攻撃を喰らって無効化される。しかし、この剣士に関しては特に気を張る必要はないと見ていいだろう。何せ動きが素人そのものだからだ。実戦慣れもゲーム慣れもしていない人間に負ける方が難しい。
「ホーリープリズン」
「アーツブレイク!」
「アブソープ」
「アーツブレイク!」
「エクセスヒール」
「アーツブレイク! 最強プレイヤーって言ってもこんなもんかよ!!」
タンク職のPKが後ろで静止を促しているが剣士は足を止めることなく突っ込んでくる。私もアーツを使って牽制するがそれもヤツのオリジナルスキルによって無効化されてしまう。
アーツを無効化するのはそれほど難しい芸当ではないが発動したホーリープリズンの柱を剣でひと撫でしただけで破壊できるのはオリジナルスキルの優秀さを物語っている。
だがやはり駆け出しPKだ。確かに強力なオリジナルスキルだが見せすぎは良くない。事実、発動条件が簡単に予想できてしまった。
「もらったぁぁぁああ!!」
「ヘルオーラ」
「な! アーツブレイ...」
距離が詰まり勝てると確信した剣士が剣を構えた。例え今の攻撃が来ても捌くことは可能だが弓使いが隙を見計らっている以上余り動くことは出来ないと思いヘルオーラを使う。
すると闇が剣士を中心に広がり、ヤツのHPを蝕み始めた。デスペナを受けているためダメージ量は低いがヤツは今までどのアーツ攻撃に対してもオリジナルスキルを使って対抗して来た。それにオリジナルスキルの効果がアーツによって放たれた現象に対して刃を当てる必要があることは既に把握済みだ。
そのため最善を選ぶならダメージを許容して攻撃を続けるのが正解なのに男は地面に対して剣を突き立ててしまう。おかげでヘルオーラによる漆黒は消えるがその代価は重い。私の研ぎ澄まされた突きがヤツの脳天を貫いた。
人の弱点である頭を攻撃されればそれはもうクリティカルヒットと同義だ。ましてや多少とは言え白黒の強化が入っているのだから男の死は免れない。戦場に一つ、粒子が散った。
「あのバカが! まあいいさ。増援は呼ばせてもらった」
「余計なことを」
さて、PKを一人倒したのはいいが状況はさして変わっていない。むしろ増援を呼ばれた時点で私がより劣勢になったと言って良いだろう。
弱かったとはいえ前衛が一枚無くなったのだから攻めるなら早い方がいい。問題は弓使いだが私がモニカさんを守っていても時間の浪費にしかならないことを思えばシールドとリフレクトに命運を委ねるのが最適か。
歩之術理 縮地
術理を使って一気に距離を詰める。前衛がいないならタンクなどただの的にしかならない。ただし、弓使いがどう出てくるか分からないため盾持ちのオリジナルスキルへの対策は万全とは言えない。
攻之術理 震撃
盾を殴りつける。衝撃は一拍の間をおいてヤツの体内で弾けた。しかし、膝を突くことすらない。怯む様子を見せないタンクを見て一段と状況が厳しくなったのを痛感した。
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