第330話 希望の光
村に侵入したPKを3人ほど倒してから教会に辿り着いた。
「あの時の冒険者さんか。外の様子はどうだい?」
「...大丈夫ですよ。モニカさんは中に?」
大丈夫なわけがないが本当のことを言っても仕方がないので嘘を吐く。
「神父様と一緒にいるよ」
扉を開けながら奥を指さして男が言う。教会の中に入ると武装した村人が10人程待機しており、その奥には無力な住民がいる。老人や女子供だ。さらに進んで行くとモニカさんがいる部屋に着いた。
「失礼、モニカさんはいますか?」
扉をノックしてモニカさんを呼べば直ぐに声が掛かり、数秒で扉が開いた。
「あ、ゼロさん。どうしてここに? 外はどうなったんですか?」
「そのことで少し話が。何処か二人で話せる場所はありませんか?」
「二人でですか。クメロ様良いですか?」
「構いませんよ。隣が空いてます」
隣の部屋に入り、周囲に聞き耳を立てている者が居ないことをスキルをフルに活用して調べる。その結果、特に感知できるものは無かった。これなら今から話すことを誰かに聞かれることは無い。
「それで話って何ですか?」
「そうですね。まず一つ質問させてください。このまま行けば村は壊滅するとしてモニカさんはこの村に残りますか?」
答えは分かっているが彼女の意見を聞いてみたかった。
モニカさんの眉がピクリと動き拳に力が入った。先ほどの穏やかな気配から一変怒気を孕んだ。
「ゼロさんも私に帰れって言うんですか?」
「私も?」
「そうです! クメロ様も私にこの村から逃げろとおっしゃいました。なんでですか! 私では力不足ですか!?」
そうだったのか、クメロさんも。
モニカさんの問いに何て答えるべきか一瞬の思考を挟む。それから出した答えは一つだ。とても残酷で、しかし現実を彼女につきつける。
「ええ、力不足です。モニカさん、あなた一人いてもこの状況は覆しようがない。だからこの村から逃げましょう。私ならあなたを連れてこの村から逃げることが出来る」
「ふざけないで下さい!! 私に仲間を、村の皆を見捨てろって言うんですか!!」
「そうです。見捨ててあなただけでも生きてください。ここに居れば無駄死にです!」
「嫌です! 私はここに残ります。例え意味の無い行為でも誰も見捨てたくなんてありません!!」
『では残りましょう』など決して言えない。彼女には生きてこの村を脱してもらわないといけないのだから。そして、それが私にできる唯一の償いだ。
「そうですか。なら...力尽くでも連れていきます」
右手をモニカさんに翳してアーツを使う。黒の魔術陣が構築され、瞬く間に雷電が飛んだ。
「嫌です!!」
彼女の言葉に呼応するように不可視の力場が雷電をかき消す。さらに勢い止まらず私を吹き飛ばした。想定外の一撃だ。スタンで気絶すると思っていたがモニカさんを甘くみていた。
「私も戦えます! これでも無力と言いますか!」
確かにこれだけの力があるのなら無力ではない。だが、違うのだ。多少力ある個では群れには勝てない。
「【紫電よ〈
バフを掛けて対処しようとした時、扉の向こうから紫電が駆け抜けモニカさんを射抜いた。モニカさんが展開した防壁を貫通する威力を出せるのはこの村に一人しかいない。
クメロさんは穴が空いた扉を開けるとパラライズによって身動きが取れなくなったモニカさんの頭に触れ、私の知らない魔術を使用した。するとモニカさんは気を失ったように倒れ、それをクメロさんが手で支えた。
「手荒な真似をしてすまないね、モニカ」
「どういうつもりですか?」
「利害の一致と言うことですよ。話は聞いていましたから。この村を発つのでしょう? モニカを頼みます」
クメロさんはまるで我が子のようにモニカさんの頭に触れてから私に頭を下げた。モニカさんがクメロさんに逃げろと言われたことは先程聞いたが何故、彼が私に頭を下げるのだろうか。
「この村を守ると依頼を受けたのに破棄した男に頼むんですか? 些か甘くないですかね」
「粗方ユーリウス君かデヴィッド君に頼まれたのだろう?」
「私の独断ですよ」
「まあ、そう言うことにしておきましょう。それでモニカを頼めますか?」
「その前に何故クメロ殿がモニカさんを助けようとするのですか?」
これが疑問だった。クメロさんはこの村の神官で数年前に派遣神官として来たモニカさんとはそれほど親身な関係ではないはずだ。
「本国でモニカは聖魔典管理神官の後継者候補に挙がっています。なので五年前に私の下に修行に来ていました。そして今回、スタンピードが起こることを王都から聞き、これはいい機会だと思いました」
続けて、魔術の修練において実戦に勝るものはありませんと語った。
「しかし、蓋を開けてみれば異常なスタンピードに殺人者の襲撃。はは、全く想定外ですよ。私がギルドに手を回し、モニカに遠征場所がこの村だと知らせなければ銀翼の方たちは王都に戻っていたでしょう。ですがモニカがいるからそれが出来ない。彼らはそう言う方たちです。ですがね、モニカのために彼らが残る道を選ぼうとこの子には生きてもらわなければならない。悪魔の話も聞かせてもらいました」
聞かれていたかと言う気持ちとまた悪魔かと言う気持ちが一度に生じ、私が口を開く前にクメロさんが最後に締め括った。
「神の寵愛を受ける神子と天使の使徒である勇者。これらは人類の希望であり、決して失ってはいけないものです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます