第329話 尽きる矢
跳び起きるように椅子から立ち上がる。周囲を見渡すと教会内であることが分かりすぐさま部屋を出る。ステータスを見なくてもデスペナが付いているのは自明であるがこのままでは村が危ない。
「住民がいるのにお構いなしか!」
村を出て直ぐの光景は地獄を体現したかのように家々が燃える様だった。私が死んでからリスポーンまで時間が空いたからだろう。
「だ、誰か!!」
悲鳴が聞こえた方向に向かって走る。道中バフを盛るが今のままでは焼け石に水だ。
「あー、やっぱ楽しいわ」
「ストレス発散ゲーだよな」
「マジ、そ」
目に見えた男の首を導魔で跳ばし、倒れている男にハイヒールを書術で飛ばす。
「てめぇ、何しやがる!!」
「黙れ」
抜刀し、殴りかかって来たPKに一瞥をくれてやりながら袈裟斬りにする。血が噴き出るように光の粒子を撒き散らして消失した。流石にここでは復活しないだろう。教会が無事だったのは確認済みだからな。それより...。
「クソったれが」
地に伏している男を見る。分かってはいた。地面が血濡れているのに呻き声も聞こえなかったのだから。
男は死んでいた。
一応脈を測ってみるがダメだ。脈が無い。息をしていない。そう、死んでいる。死んでも粒子にならず遺体はそこにある。幾らなんでもふざけすぎだ。
導魔が軋むのを自覚し、死んだ男を道の端に寄せる。この戦いが終わったらしっかり弔ってやろう。そう心に決めると私は村の外を目指して走り出した。
村にPKが入って来ていると言うことは村の自警団が壊滅したのではないだろうか。最悪の光景が頭に浮かぶ。
魔物に襲われている村を襲うのはPKにとってサービスゲームと言ったところか。村単位とは言え食料、武具、金が手に入るのだからこう言ったチャンスは積極的に狙うに越したことは無い。
それが犯罪行為だとしてもプレイヤーを襲い、容易に街に入れないPKならなおさら乗らないなどないのだろう。
「大分浸食されているな。それに魔物も!」
ラトリム村はそこまで広くはない。なので門までは直ぐに着いた。しかし目印だった門は既に倒壊しており、村を囲う柵も所々破壊されている。門や柵の崩壊は魔物の侵入を許してしまう。そして村人と魔物の戦闘が繰り広げられていた。
だが、それは戦闘とは言えない虐殺でしかなかった。
既に戦場にはゴブリンなどのランクの低い魔物はおらず最低でもオークからだ。冒険者なら相手できるが村人では徒党を組んでも厳しい敵と言わざるを得ない。だから魔物が次々に粒子となって消えていく場所はよく目立つ。
「助太刀します!」
「これはゼロさん、生き返ったんですか」
村人を守りながら戦っていたデヴィッドさんの下に向かいながら目につく魔物に攻撃を仕掛ける。弓使いでありながら魔術も使いこなすデヴィッドさんの方が殺傷力は高いので私が補助に付くことで負担を軽減させようと言う魂胆だ。
「ジェシカさんは?」
「多分死にましたよ」
最悪の答えだ。分かってはいても現実を受け止めたくない。しかし、ユニークスキルを持つデヴィッドさんが言うのだから本当だ。それに私よりもクランメンバーである彼の方がつらいだろう。だから私は短く『そうですか』と答えて戦闘を再開させる。
「ゼロさん、ここは私が抑えるので村の中にいる訪問者を殺してきてください」
「しかし、この数ではデヴィッドさんが」
「嘗めないでください。これでもAランク。この程度の魔物に後れを取りませんよ。それにーー」
苦虫を噛みつぶしたような顔でデヴィッドさんが続けた。後方で守っている自警団の面々には聞こえないように小さな声で。
「訪問者の軍勢は村を包囲するように動いています。ユーリウスも訪問者と戦闘をしているようですがこの村が落ちるのも時間の問題でしょう。だからモニカを連れて逃げてください。私にはゼロさんに頼ることしかできない。どうか私たちの仲間を救って欲しい」
村人を見捨てる気かと一瞬怒りに身が染まりそうになった。だが声には出せなかった。何故なら合理的な答えだからだ。今から私がどれだけ精力を尽くして戦おうとPKの後衛部隊が常時迎撃状態を維持しているため白黒があったとしても倒し切ることは出来ない。
だがデヴィッドさんは突破は出来ると考えたようだ。実際その通りだし、守りに重きを置けば魔術や飛び道具を捌くのだって不可能ではない。それでも私はこの村の者たちを見捨てることが出来ない。
それは私がプレイヤーだからだろうか。死んでも本当の意味では死なないと分かっているから出せる結論なのだろうか。それとも心の底からこの街を助けたいと思っているからなのだろうか。
私が悩んでいても魔物は待ってくれない。オーガの拳が迫るが鎌鼬が腕を切り刻み、避けた箇所に矢が突き刺さる。
「行ってくれ。あなた一人いても結果は変わらない」
その言葉を聞いて私は彼らの下を発った。そうだ、どれだけ足掻いても私がいたところで結果は変わらない。なら一人、たった一人でも救える道があるならそちらを選ぶのが現実的だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます